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【せりふ三題噺】あれ?本当に?

彼女は桜姫様のために働いている。
ずっと前から、ずっとそう。

彼女は大きな桜の木の中で暮らしてる。
でもどんだけ大きい木かは、彼女は知らない。

朝、目を覚ます。
やわらかい音が、それと一緒に流れてくる。

「さくら。—」♪♪

桜姫様が毎朝歌う歌。
やさしい、朝の歌。

毎朝、必ず聞こえる。
妖精が目を覚ますための歌みたいに。

だから彼女は目を開ける。

彼女のベッドは木でできている。
やさしく体に沿う形。
テーブルもそう。

部屋の中のものは全部、この木からできている。
ここは桜の妖精の家。

壁の小さな差し口から、朝ごはんが届く。
コーンスープ、サラダ、ミルク。

いつも同じ。
いつも温かい。

彼女は鼻歌を歌いながらそれを食べる。

壁の高いところに、小さな丸い窓がある。
外は見えない。
空だけが見える。

そこから毎日、光が入ってくる。
やわらかい日もあれば、少し強い日もある。

それで十分だった。

桜姫様が待っている。
だから彼女は働く。

手の中にあるのは、花のようで花じゃないもの。
紙みたいに軽くて、すぐ崩れてしまいそうなもの。

それを指でこすって、やさしく崩して、箱に入れていく。

それは姫様のドレスになる。
彼女はずっと、それをやってきた。

ときどき、仕事を忘れる。
そのまま散らして、落ちていくのを眺める。

昼は、それが春の桜みたいに見える。
小さな風にのって、ひらひらと落ちていく。

夜になると、少し違う。
もっと静かで、少し暗くて、
少し切ない夜桜みたいに、

どこか深いところに落ちていくみたいに見える。

彼女はそれを見ている。
動きが止まるまで。

そしてまた、ひとつずつ集める。
ドレスは完璧じゃないといけないから。

彼女はこの生活が好きだった。



私は毎朝、部屋の名札を読み上げて、
患者の皆様を起こします。

「こばやし さくらさ—ん」

リズムがあるほうがいいと思い、
患者はそのほうが反応するので。

彼女は昨日と同じようにそれで起きます。
昨日と同じく、少しだけ、おかしいまま。

医者は言う。まだ回復していない、と。

私はうなずいて、いつも通り、
小さな窓から食事を入れる。
コーンスープ、サラダ、ミルク。

彼女は食べる。

紙のリサイクル作業を与える。
基本的にはちゃんとできる。

でもときどき全部ばらまいて、
それをじっと見て、歌ったりします。

夜になると、それが問題で、
他の患者が嫌がるのです。

この病院は、いつも誰かが叫んでいるのに、
防音のはずなのに、なぜか音は漏れる。

彼女はときどき、
自分のベッドが木でできていると言う。
でも実際はプラスチックだ。

もし妄想なら、
もう少しアップグレードすればいいのに。
もっとちゃんとした、豪華な感触にすればいい。

それでも、私は思う。
信じたい世界の中で生きられるのは、
少し羨ましい。

彼女は昔、歌っていたらしい。
路上で、壊れたギターで。

当然それでは食っていけない。
ストレスで、こうなったらしい。
カルテによると。



私たちは、二人の被験体を観察している。

一人は、
自分が桜の木の中で生きていると信じている。

もう一人は、
その患者を担当する看護師だと思っている。

どちらも、
自分たちが実験の中にいるとは知らない。

彼らが見ている光は人工のものだが、
それを本物の太陽だと認識している。



あれ?

ちょっと待っててね
窓を確認するから。

私たちが見ているこの光は、
本当に太陽?

#せりふ三題噺
#アップグレード名札夜桜

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