ドライブ・ウィズ・オールドレディ 36

 オーブリーとアーノルドは、拳をややこしくぶつけあい、ハグをした。そして、二言、三言、言葉をかわした。それで終わり。さっぱりとしたものだ。
 オーブリーは、私のところへ歩いてきた。途中、噛みタバコのつばを二回吐き、尻のポケットからベースボールキャップを引っ張り出してかぶった。
「アッシュ?」
「オーブリー?」
 お互いにうなずき、お互いの手を握った。初対面の握手というやつだ。彼の手はからだに見合って小さかったが、握手は力強い。震えてもいない。頼りにしてもよさそうである。
 ジェーンがマスタングから降り、こちらへ歩いてきた。物珍しそうに、オーブリーを見ている。オーブリーは彼女に気づくと、腰をかがめ、ひざまずき、頭を下げた。
「これはこれは、マドモアゼル。初めてお目にかかります」
 芝居じみているが、礼儀にはかなっている。そこまでは、よかった。立ち上がってから、彼は、噛みタバコのつばを吐いたのだ。
 ジェーンが怒るかと思ったが、逆にたいへんに喜んだ。
「本物のウエスタン・マンだわ。クリント・イーストウッドも、映画の中でつばを吐いていたもの」
 彼女は十歳でウィーンに渡り、それからつい最近までヨーロッパで暮らしていた。見てきたのは、カウボーイでなくマタドールの世界なのだ。
 オーブリーが言った。
「このマドモアゼルが、俺の賓客なんだろう」
「そうだ」
 私は答えた。
「時間がないとも聞いた」
「それもイエスだ」
「それじゃあ、我が愛機に乗ってくれ」
 言って、つい先程まで差し押さえられていた愛機に戻っていった。
 私は彼の背中に声をかけた。
「ここから離陸するつもりなのか」
 オーブリーは振り向かず、肩越しに手を上げ、親指を立ててみせた。
「オーブにまかせれば大丈夫さ」
 アーノルドが声をかけてきた。
「機関銃の音を背中に、落ち着いてヘリを離陸させることが出来る男だ」
 彼は私の顔を見た。
「君の推薦だ。信用するよ」
 ジェーンは盛んにスマートフォンで周りを撮影している。
「この荒涼とした風景。すばらしいわ」
 なにもないことに、関心している彼女をアーノルドにまかせ、私はマスタングの鼻先に倒れているふたりの男の様子を見た。
 フレドは鼻が折れ、気を失っている。私がショットガンで撃った男は、腕から血を流して倒れている。首に指を当てると、規則正しい脈を感じた。意識を失っているが、手当が良ければ命を落とすことはないだろう。
 セスナに乗りかけていたジェーンから、スマートフォンを借り、911にかけた。
「銃に撃たれた怪我人がいる」
 電話の向こうの返事を無視し、州道のだいたいの位置と、目印はへたり込んだマスタングだ、と言い、電話を切った。
 時折通り過ぎる車が、速度を落とし、セスナを見物する。映画の撮影か、とわざわざ声をかける者もいたが、倒れている男に気づくと、あわてて逃げ去った。そうしてくれ。私はもう、誰とも関わり合いたくない気分だった。
 人を撃った反動だとは、わかっていた。生身の人間は、紙にプリントされた人型のシルエットとは違う。必ず赤い血が流れ、多くの場合、命を失うことになる。過去、数回の経験はあるが、とうてい慣れることは出来ない。
 自分を知る者のいないところで、バーでも、それこそ砂漠の真ん中でもいい。ひとりで酒を飲みたかった。しかし、今は仕事がある。ジェーンを時間までに、傷ひとつつけることなく、ケィティの屋敷に連れて行かなければならない。
 私はジェーンに続いて、小さな飛行機のステップを上がった。

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