旅の失敗
ひとり旅によく行く私は、ホテルを頻繁に利用する。最初の頃は安値ばかり探したが、最近はどういうポイントに気をつければ比較的良いホテルにあたるか、というコツが自分なりにわかってきた。
基本料金が安いビジネスホテル然とした施設は、落ち着かないことが多いので現在は避けている。また、いわゆるシティホテルでもあまりに値段が安いと危うい。以前そういうホテルに泊まったら、寝ているとき(つまり深夜)に廊下で大騒ぎしている若者がいて、怖くなった経験があるからだ。
それ以来、通常価格はちょい高めのホテルがセールになるプランを、旅行サイトで地道にチェックし探している。口コミも細かく確認し、設備のゴージャスさより掃除や接客の評価が高いサービスのホテルを選ぶようになった。
日中は不案内な土地を歩きっぱなしのハードスケジュールが多いので(自分で組んでいるのだが)、夜だけでもゆったり過ごせるとほっとする。
そんな私の、久々の失敗談である。
某県を美術館ハシゴ旅で訪れた際のこと。街から少し離れたエリアに立地する、老舗のプチホテルに泊まった。値段は手頃だが、「接客サービスが毎回すばらしいのでよくリピートしています」という口コミの多かった施設である。それを不自然に偽装した感じもなかったので、泊まるのを楽しみにしていた。
夜、あたりが暗くなってから到着したそのホテルは、1階部分にあるレストランばかり目立つ外観で想像以上にこじんまりしていた。2階がフロントで、スタッフが1人いて簡単な説明を受ける。渡されたのは、カードキーではなくて懐かしの、ずっしりと重い木札がぶら下がった大きな鍵。共用廊下はうっすらと、独特のカビっぽい匂いが漂っていた。
部屋に入ると、これまた非常にコンパクト。テレビも今どきあまり見かけないくらいの小ささ。大学受験のときに泊まったペンションを思い出す……。まあでも。静かは静かだし、いいか。
と思ってひととおり設備を見学していたら、ユニットバスで立ち尽くした。
「え!シャンプーがない!!?」
なんと、どんなホテルでも見かけるあのシャンプー、コンディショナー、ボディーソープ三兄弟がどこにもいない。浴槽付近だけでなく、洗面台もくまなく見てみたが、ない。一応部屋部分の棚もぜんぶ開けて見てみたがやっぱりない。先ほど通過したフロントを頭で思い浮かべてみたが、あそこに「ご自由にどうぞ」のアメニティが置いてある様子もなかったし……。
昔は愛用するシャンプーを小さいボトルに詰めて持参したものだが、旅慣れてくると荷物はなるべく最小限、ホテルの潤沢な設備に甘えるのがもはや当然といつのまにか思い込んでいた自分の傲慢さに気づき、あきらめて外へ買いにでかけた。
外は小雨が降りだしていた。淋しい駅だったのでドラッグストアは見当たらず、コンビニに行っても、シャンプー類は大きなボトルだけで使い切りタイプは置いてない。仕方なく、その夜使うシャンプーを買うためだけに財布片手の恰好で電車に乗り、大きな駅で降りたら改札内にちょうどドラッグストアがあったので買い物をした。そしたら、戻った駅でICカードの処理がされていないと機械でひっかかり(先ほどの駅で改札の外へ出なかったため)インターホン越しに駅員さんに注意される始末……。
やっとホテルに戻ったら、なんだかぐったり疲れて肝心の風呂にも入らずそのまま寝てしまった。
翌朝、爽快とはほど遠い気分で目覚めた。もそもそと風呂に入る支度をし、昨夜買いに行ったお泊りセットを手にシャワーカーテンを閉じたら、カーテンの陰にすっぽり隠れる絶妙な高さで壁に直接打ち付けられたシャンプーとコンディショナーとボディーソープ兄弟を発見……。
古いわりにはきれいと評判だったのに、浴槽の床と、どういう状況でついたのか謎な、浴室の天井部分に髪の毛が1本ずつ貼りついていた。
チェックアウトのときフロントは無人で、
「ルームキーはこちらへ」
と書かれた籠だけが、ちょこんと私を見送った。
まだまだ旅は、勉強である。
(写真/©宇佐江みつこ)
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今週もお読みいただきありがとうございました。ちなみに表題画像は本文とは無関係の、とても快適に過ごした長野のホテルの朝食ビュッフェです。割高と敬遠される方がいるかもですが、私は朝食ビュッフェ・ラブ。野菜も好きなだけ取れるので、旅行中の栄養バランスが整えられるし、地元料理がちょっとだけ楽しめたりもするのでおすすめです。
◆次回予告◆
「ArtとTalk」久々の通常回。
それではまた、次の月曜に。
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