カフカ「変身」:俺はゴキブリになったんだぜ?
導入:俺だって、いつゴキブリになってもおかしくない
どうも、川上だ。
最近、なんだか世の中が息苦しいんだよな。ニュースを見れば「分断」とか「対立」とか、ばっかり。昔は「みんなで頑張ろうぜ!」みたいな気概があったような気もするんだけど、今はどうだ?個人個人が、自分の殻に閉じこもって、他人を訝しむような視線。俺だって、研究室で一日中パソコンとにらめっこしてるだけだから、いつ社会から「不要」のレッテルを貼られてもおかしくない。そんなことを考えてたら、ふとカフカの『変身』が頭をよぎったんだ。
「俺、人間だったはずなのに、いつの間にかゴキブリになっちまった…」
そんな絶望的な一言。これ、他人事じゃないんじゃないか?ってね。
作品のあらすじ:グレゴール、まさかの大ピンチ
物語は、主人公グレゴール・ザムザが、ある朝、目を覚ますと、信じられない姿になっていたところから始まる。そう、彼は巨大な、甲殻を持った、あの、そう、虫になってしまったのだ。布団から這い出そうにも、手足(いや、もはや足なのか?)はもぞもぞするばかりで、どうにもうまくいかない。部屋の中を見回しても、見慣れた家具が、まるで巨大な迷宮のようにそびえ立っている。
「…なんだ、これ?悪夢か?」
グレゴールはそう呟くが、体に感じる奇妙な重さと、口から漏れる異様な音は、それが現実であることを告げていた。彼は、一家の大黒柱として、家族のために懸命に働いてきた。朝早くから夜遅くまで、セールスマンとして飛び回り、借金を返済し、家族を養ってきたのだ。そんな彼に、一体何が起こったというのだろう。
やがて、妹のグレーテが様子を見に部屋に入ってくる。
「お兄様、起きていらっしゃいますか?もう、お仕事の時間ですよ!」
しかし、扉の向こうから聞こえるのは、グレゴールが発する、もはや人間の言葉とはかけ離れた、獣のような鳴き声だけ。グレーテは心配になり、父親に助けを求める。父親は、グレゴールが病気か何かで寝込んでいるのだろうと推測し、扉を叩き、怒鳴りつける。
「グレゴール!いつまで寝ているつもりだ!早く起きろ!」
それでも応答がないことに業を煮やした父親は、ついに扉をこじ開けようとする。グレゴールは必死に扉の内側から押さえようとするが、虫の体では力が入らない。とうとう扉が開かれ、父親の眼前に現れたのは、信じられない光景だった。グレゴールは、ベッドから転がり落ち、部屋の隅で呻いている。その異様な姿に、父親は青ざめ、母親は悲鳴を上げる。
「…これは、一体…!」
家族は、グレゴールが一体何者になってしまったのか、理解するのに時間がかかった。そして、その理解と共に、彼に対する愛情や心配は、次第に恐怖と嫌悪へと変わっていく。グレゴールは、もはやかつての息子でも兄でもなく、ただの「邪魔な存在」になってしまったのだ。
妹のグレーテだけは、当初、グレゴールに同情し、世話を焼こうとした。彼のために食事を用意し、部屋を掃除し、時には話しかけようとした。しかし、グレゴールが口にするのは、相変わらず理解不能な音ばかり。そして、彼の姿は、グレーテの心にも徐々に暗い影を落としていく。彼女は、グレゴールが「人間」であった頃の面影を失い、ただの「虫」としてしか見られなくなっていく。グレゴールもまた、家族の態度の変化を痛感し、かつては彼の唯一の拠り所であった家族との関係が、音を立てて崩壊していくのを感じていた。
グレゴールは、部屋に閉じ込められ、家族からは次第に無視されるようになる。父親は、グレゴールが暴れていると勘違いし、リンゴを投げつけ、彼の体に傷を負わせる。母親は、その異様な姿に耐えきれず、気絶してしまうこともしばしばだ。グレーテもまた、グレゴールへの世話に疲れ、苛立ちを募らせていく。
「もう、これ以上、彼のために我慢できないわ!」
そんな声が、グレゴールの耳にも届くようになる。彼は、自分が家族にとって、どれほどの負担になっているのかを痛感する。かつて、彼らがグレゴールを必要としていたのは、彼が「稼ぎ頭」であったからに過ぎないのではないか。そんな疑念が、彼の心に深く根を張っていく。
ある日、一家は、一家の生活を支えるために、下宿人を雇うことを決める。グレゴールは、彼らの生活を守るために、必死に自らを「隠そう」とする。しかし、ある夜、彼が物音を立てたことで、下宿人に見つかってしまう。激怒した下宿人たちは、一家に金銭を要求し、騒ぎ立てる。その騒ぎに、グレゴールは、もはや自分が家族の希望を奪い、彼らを苦しめているだけの存在であることを確信する。
そして、その夜、グレゴールは、静かに息を引き取る。彼の死後、家族は、まるで長年の重荷から解放されたかのように、安堵の表情を浮かべる。グレーテは、母親にこう言う。
「これで、私たちの生活も、また元に戻るわ。」
グレゴール・ザムザの「変身」と、その後の悲劇的な結末。それは、彼自身の内面的な葛藤と、社会における疎外感、そして人間関係の希薄さを、痛烈に浮き彫りにしていた。
川上の独り言:俺たちは、いつ「虫」になったのか
さて、この『変身』を読んで、お前はどう思う?
グレゴールが虫になったのは、あくまでフィクションだ。でもな、俺たちは、いつ、グレゴールのように、社会との繋がりを失い、誰からも必要とされなくなり、「虫」のような存在になってしまったんだろうか?
俺は、この話の根源には、「必要とされること」への依存があるんじゃないかと思うんだ。
グレゴールは、家族のために懸命に働いた。それは、家族に「必要」とされていたからだ。彼が虫になった途端、その「必要」は一瞬にして消え失せ、代わりに「疎ましい存在」になった。家族は、グレゴールが「稼ぎ頭」であった頃を懐かしむが、彼自身を愛していたわけではない、という皮肉な結末だ。これは、現代社会の「生産性」至上主義とも重なるんじゃないか?
「役に立たない人間は、価値がない」
そんな冷たい現実が、この物語には横たわっている。俺たちだって、いつか「役立たず」と烙印を押されるかもしれない。そうなった時、俺たちはどうなる?グレゴールのように、静かに、誰にも気づかれずに消えていくのか?
いや、もしかしたら、俺たちは、すでに「変身」してしまっているのかもしれない。SNSの画面越しに、他人の「キラキラした」生活を眺めて、自分は「負け組」だと決めつけ、現実から目を背ける。そんな風に、自分自身を「虫」のように貶めて、社会との繋がりを自ら断ち切っているんじゃないだろうか。
カフカの描く世界は、暗くて、救いがないように見える。でもな、だからこそ、俺たちは目を背けずに、この「変身」という現象を、自分自身の内側で探求していく必要があるんだと思う。
お前は、いつ「変身」した? それとも、まだ「人間」でいられているか?
まあ、どっちにしても、今夜一杯どうだ? 語り明かそうぜ。
