月光祭の夜
金髪碧眼、異国情緒溢れる服に身を包んだ青年が、道を歩いてくる。
時は、夕刻。無数の灯籠が幻想的に、辺りを照らし始める。
両端に並んだ、月光祭の出店を見るともなしに見ていたが、あるところで、足が止まる。
「あんまん、肉まん、パンダまん、うさぎまん、ねこまん、なんでもござれ!」
青年の瞳が見開かれる。
黒髪で、白い服を着た売り子の少女の、かわいいこと。かわいいこと。
「君、かわいいね! 名前は?
あ、パンダまんひとつおくれ」
「へ? 恋花《リエンホア》よ。異国のお兄さん、毎度あり!」
「あ、オレ、アトラス。よろしくね」
「アトラス?」
アトラスは、パンダの形の中華まんを買うと、空いた手で、リエンホア手を掴み、情熱的に言う。
「リエンホア、君のためなら、死ねる」
「はぁ?? どういうジョークね?」
「がく!」
落ち込んだそぶりをし、しかしすぐ、アトラスはかっこつける。
「ジョークなもんか! くどいてるんだよ、リエンホア」
「え……」
リエンホアの頬が赤くなる。
「君、すごくかわいいよ」
「ほ、ほんと?」
「あぁ。仕事は何時まで? よかったら、この後オレと……」
「──リエンホア!」
いきなり、怒った声が割り込んでくる。
「誰だ、そいつ?
せっかくもうすぐ仕事上がりで迎えにきたのになぁ?」
「志遠《ジーユエン》!」
黒髪黒瞳の青年が、アトラスを睨んでいる。
「誰だか知らないが、オレらの邪魔をしないでくれないか?
リエンホアは、これからオレとムフフなところに行くのさ!」
「ほーお」
ジーユエンは、踵を返し、行こうとする。
「ま、待って! 行かないで、ジーユエン!」
追いかけようとするが、店主に止められる。
「リエンホア! まだ、勤務時間ね!」
「そ、そんなぁ……」
ジーユエンが、祭りの端の道端に座っている。
「リエンホアのあほ」
あんな軽そうな男に、まとも対に対応して。
「わかってる。ただの客対応だ。でも……あんなに顔を赤くしやがって!」
彼氏は、自分なのに。
「待てよ。あのアホ、まさかあいつについて行ってないよな?」
急に不安になって、引き返す。
途端、誰かにぶつかった。
「あ、すみませ──って、リエンホア?」
彼女は、泣いていた。
「ジ、ジーユエン! よかった、会えた!」
「なに、泣いて……」
「ジーユエン、誤解しないで! あれはただの、お客さんね!」
「う、うん、わかってる。こっちこそ、ごめん」
「ほんと? ジーユエン! だーいすき!」
ジーユエンは、真っ赤になった。リエンホアの笑顔が眩しかった。
「ジーユエン」
リエンホアは、瞳を閉じ顎を上向けた。
「え? こ、ここで?」
辺りには、人と店が溢れている。
「なによぉ、できないの?」
「う、うーん……」
ジーユエンは、いきなりその場から走り出した。
「あ〜! 待ちなさい!」
「やなこった。ハズすぎる」
リエンホアは、叫んだ。
「も〜う、ジーユエンのばか!」
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