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君のその手で

振られたあの娘の家の前。止まったままの俺の時間を動かしたのは、星空の下で出会った『君』だった──。

※春の短編セレクション第3弾です!

第1弾 いつでもキミが!
https://note.com/usagisantoka/n/n03567785992d

第2弾 ティファのお店

https://note.com/usagisantoka/n/na55fc0832cc0

第3段 幽霊と語らう夜

https://note.com/usagisantoka/n/n4cd8d4c4b505



「君が好きだ」
 卒業式の日。
 俺の想いをあの娘《こ》に伝えた。
 あの娘は困った顔をして。
「ごめんなさい。わたし…他に好きな人が、いるから……」
 何度も謝ってくれた。
 ━━あれ以来。
 俺の時間は止まったままだ......。

 日曜日。
 俺は家を飛び出し、意味も無く歩き出す。
 何も考えずに歩いていた筈なのに。
 ━━気がつけば。
 あの娘の家の前。
 一年たった今でも忘れられない…。

 インターホン。
 押せる訳ない。
 俺は諦めきれない気持ちそのままに、あの娘の家の回りをうろつく。
 あの娘に見つけてほしくて。
 でも…逢うのが怖くて。
 人影を見ると、すぐ隠れてしまう。
 怖くて、あの娘の家の前でじっとして居られない。
 あの娘の家がよく見える公園。
 うろついた後、俺はいつでもここに来る。
  そこからあの娘の家を見てるだけで精一杯で。
 …もし。
 家からあの娘が出て来たら。
 一目姿を見ちれたら。
 それだけでいいと思ってしまう。
 ━━そんな訳ないのに。
 ため息。
 ふと気づけば。
 もう…空は暗くて。
 帰らないといけなくなる。
 でも…。
 もうすこし。
 もうすこしだけ…。
 ギリギリまでそこに居る。
 肩より少し長い髪を揺らしながら、振り向いて━━もう一度だけ笑ってほしい。
 俺の名を呼んでほしい。

「何してるんですか?」

 …え?
 ベンチに腰かけたまま、俺は振り返る。
 電柱の光に照らされて━━
 腰まで届く長い髪。
 大きな瞳。
 ブレザー姿の女の子が俺を見ていた。
「…いつもこの辺うろついてますよね?」
 ━━見られてた…・!
「あ、いや、その」
 どうしよう……?
 そ、そうだ、逃げよう!
 …あ、でも、そんな事したら…おもいっきり、怪しい。
「別に俺、怪しい奴じゃないよ!」
 思わずそう言ってしまっていた。
 バ、バカだ俺…!
 女の子は目を丸くしてる。
「あのっ、そのっ! 本当にそんなんじゃないんだ……!」
 俺がそういうと。
 なぜか女の子は、弾ける様に笑いだした。
「え…? な、なにか可笑しな事いった、俺?」
「ご、ごめんなさいっ。そんな事いうと思わなかったから!」
 その娘は俺に謝ってくれて。
 でも…!
 『ごめんなさい』なんて聞きたくない。
 謝って欲しくて告白したんじゃない。
 泣いて欲しくて告白したんじゃ、ない…。
「あ…ご、ごめんなさい。な、何か気に障る事いいましたか…?」
「いや…なんでもないんだ」
 あれ以来。
 『ごめんなさい』って言葉に敏感になってる。
「え…えと、っの…そうだ、そのぉ……散歩コースなんだよ、ここ」
 そんな言いわけをすると、
「ふー…ん」
 女の子はそう言って、俺の隣に座った。
「え…?」
 俺はびっくりしてその娘を見てた。
「きれーですね…星」
 空を見上げ、女の子がいった。
 しばらくそのままで。
 俺はそのうち、こんな事をいっていた。
「…君、好きな奴とかいる?」
 ……!
 だ、だから、何をいってるんだ…! 俺‼︎
 女の子は空を見上げたままで、
「…あたし。恋とかってよくわらんないから…」
 表情も変えず、そういった。
 あぁ…なら、俺の気持ちなんて解らないだろうな……。
「あ…なんか変な事いってごめんな。じゃ…俺。そろそろ帰るから……」
 立ち上がる。
 帰んなきゃ..。
「待って」
「…何?」
「…あ、その…」
 女の子はうつむいて。
「…どうしていつも、そんなつまらなそうな顔してるんですか⁈」
 そこまで言って顔を上げる。
 俺はそこでカァ…っとなった。
 そんな事まで訊かれたくない。
「…なんだよ、おせっかい!」
 ビクッ…、女の子の顔が硬張った。
「詮索されるの嫌いなんだよ! どうだっていいだろ、そんな事。君とは何も関係ないんだから!」
 踵を変えす。
 …ふと気になって…あの娘の家の方を…向く。
 暗くなって、もう、よく見えないけど。
 あの家の中にあの娘はいるのだろうか……?
 俺がしばらく足を止めていると。
後ろから。
「…ごめんなさい」
 涙を流し、さっきの女の子が歩いて来る。
 ドキ...。
 あの時のあの娘の顔と重なる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…! 私…いつも、この辺りであなたをみかけて…それで…なんだかすごく辛そうだったから。何か、力になりたくて…でもそんなの迷惑だよね。
 全然知らない女の子だもん…何だこいつって思うよね…。あたし…バカだから、気づかなくて…。
 ごめんなさい…。ごめん…なさい……!」
 ひっく…ひっく…としゃくりあげながら、その女の子が俺を見ている。
 何度も何度も謝りながら….。
「わ、悪い…! ごめん!泣かないでくれ…!」
 俺は、本当に涙とその言葉に弱くなってしまっていたようで。
 全部話してた。

「俺…好きな娘がいたんだ。一年前、中学校の卒業式…・。
 思い切って気持ちを打ち明けた……」
 まだ耳に残ってる。
 ━━ごめんなさい。あたし…他に、好きな人がいるから…。
 こめんなさい。
 ごめんなさい…。
「見事玉砕、ふられちゃったけどな…」
 ごめんなさい…。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい……。
「その娘他に好きな奴がいたんだよ。俺じゃない。別の…誰か」
 俺は空を仰いで。
「…それからは何をやっても、駄目なんだ……·。心にポッカリ…穴が空いちまったみたいでさ」
 だから俺は何度でもここへ来る。
 何もできないと解っていながら━━。
「…それで、どうして、この辺うろうろしてるんですか?」
 大きな瞳に涙を浮かべ、さっきまで泣いていた筈の、その女の子の瞳に、もう涙はない…。
 あっ…!
「こいつ! 嘘泣きだ⁈」
「え⁈ ウソじゃないよ!
 ほ、ほら、ね…⁈」
「いや、絶対嘘泣きだ」
 何者だよ、コイツ…?
「…だから、その娘ん家がこの近くにあんの…っ!」
 それだけ言えばいいだろ、と。
 俺は又歩き出す。
 これ以上こいつに関わるのがメンドい。
 だけど、女の子は俺の前に飛び出してきて…..。
「…それなのに、どうしてうろうろしてるの?
 逢いに行けばいいじゃない!」
 やけにその瞳が真剣だったから…。
 俺はその女の子から目を逸らして、
「逢える訳ないだろっ!」
 そう吐きだした。
「…じゃあ、なんであなたはここに居るの?
 逢いたいから来たんじゃないの…っ⁈」
 女の子のいう事は最もで。
 だから俺は余計怒ってた。
「そんな事、解ってる!」
「わかってない!」
「━━いい加減にしろよ…! どうして俺に構うんだよ⁈ 
 ほっといてくれ!」 
 女の子は泣きそうな顔して、
「弱虫っ‼︎」
 そう叫んだ。
「なんでそんなに弱虫なの⁈ いいわよそれならっ!
 あたしがその姫連れてくるから‼︎ ちゃんと逢いなさいよ!」
 俺は気が動転してたから。
「待てよ…!」
 その女の子を追いかけてた。
 その女の子にはあの娘の家がどこかなんて教えてないから、そんな事できる訳ないのに━━。
「待てったら!」
 俺はその女の子の腕を掴んでた。
 女の子が振り返る。
 その顔が、俺のすぐ真下にあった。
 胸が高鳴る。
 俺の顔が熱くなる。
 あの娘の面影がその女の子に重なったから━━。
 似てる…?
 この女の子は…あの娘に似てる……。
「放…してよ!」
 俺はその腕を放せなくなった。
 あの娘にどこか似てるこの女の子の腕を、俺は放したくないと思った。
「何よ! 未練がましく! 逢えないなら、最初っから来なければいいじゃない!
 逢いたいんでしょ⁈ 後悔するよ‼︎  いいの⁉︎ よくないでしょ‼︎
 逢ってみればいいじゃない! とにかく逢って、逢って…どうするか は、それから考えればいいだけじゃない!」
 泣いてた。
 その女の子は泣いてた。
 本当に….、
 一生懸命に….。
「…どうしてそんなに一生懸命なんだよ?
 俺の事なんてどうだっていいじゃないか…」
 どうして…
 この娘は…
 俺の為に泣いてくれるんだろう…。
 そんな事してくれても…俺は何もしてやれない……。
 何も……?
 ━━…。

   ⭐︎   ⭐︎   ⭐︎

 茜色の教室。
 放課後の教室に、あの娘はいつも一人で居た。
 あの娘はいつもそこから…ただ、空を見上げていた。
 俺はそんな姿を最初、偶然見かけた。
 ━━何やってんの?
 そう訊こうとして。
 でも。
 俺の口は開かなかった。
 窓辺に寄りかかった…その夕日に染まったあの娘の姿が、あまりにも綺麗だったから……。
 そんな事があってから、俺はそこを通る度にこっそりと彼女を見つめていた。
 教室と廊下を繋ぐ、ほんの少しのドアの隙間から。
 時には部活を抜け出して。
 あの娘はいつも、
 空を見上げて。
 悲しそうな顔してたから。
 俺は、
 そんなあの娘に……
 何かしてあげたかったのかも知れない。
 ━━一度だけ。
 一度だけあの娘に話しかけた事がある。
 俺が教室に足を踏み入れても、あの娘は動かなかった。
 ただそのまま…空を見上げてた。
 俺は緊張して…。取り敢えず、深い意味もなく、自分の席に着いた。
 どうにかしてあの娘に笑ってほしかった。だけど…その哀しそうな姿の意味は、訊いてはいけない様な気がしたから…。
「…きれいな空だな」
 なんて、ぶっきらぼうにいっていた。
 あの娘は空を見上げたままで、
「…そうだね」
 そういってくれた。
 俺は何かをしなくちゃと思って…。
 あの娘のすぐ側まで近づいて行った。
「空、好きなのか?」
「…うん。大好き」
 あの娘が微かに微笑んだ様な気がして。
 俺はうれしくてつい調子にのって話し続けた。
「あのさ、いつの空が一番好き?」
「…え? ……あ、うん…。どれが一番かなんて、よく…わからないよ。 
 青い空も…夕焼け空も…それぞれ、好きだし」
「あ。俺は雲とか雨とか雪とかも好き!」
「…あはっ…そうね」
 笑った! 今、絶対笑った!
「あと…星も月も雷も虹も」
「…うーんと。雷は、私はちょっとニガテかな」
 あの娘が俺の言葉にはにかむ。
 ああっ! 俺っ、もうっ、今日眠れないかもしれないっ‼︎
「えっとね…。わ、わたしの…妹なんかは、すっごく、星空がすきなの」「…へぇ。妹さん、いるんだ」
「…うんっ。それにね…・私の…·…ちょっと…知ってる人なんかは..ね、青空がだあい好きなの!」
 頬を赤らめて、うれしそうにあの姫はいった。
 でも、鈍感な俺には、あの娘が何の事をいっているのか、解らなかった……。
 だから。
 こんな莫迦げた事もいえた。
「…空ってさあ。なんか、おもしろそうだよなあ…っ。
 いろんな顔もってて…いろんな奴に愛されて」
 俺がそう言って。あの娘が笑いながら俺の名を呼ぶ。
「あなたって、おもしろい人なんだね。私、今まで話した事なかったから…知らなかったな」
 あの娘が笑うから。
 俺はうれしくて。
「あはは…俺、なんか、おもしろい事いったかな?」
「…うん。そういう考え方、いいね。
 私はこの空がずっと淋しそうに見えてたから。
 そっか、その人によって見方が全然変わっちゃうんだ。
 私━━駄目だなぁ」
 儚げに笑って、あの娘は俺の事を「いい人だね」といってくれた。
 それから。
 不意に。
「…私、いつも…人を待ってるんだ」
 そう言った。
「…え?」
 俺はぼんやりと訊き返したけど。
 構わずに。あの顔は言葉を続けた。まるで自分に言い聞かせる様に。
「…その人。スポーツ大好きで。きっと今も楽しく、頑張って…部活してる。
 私…ね、本当はその人が部活してるトコ、観に行きたいんだけど…恥ずかしくて…勇気なくて…観に行けないんだ…。
 …ほら、見てっ」
 窓から、下の方をあの娘は指差す。
「…ここから、昇降口の辺り…見えるでしょう?
 あの人…いつも、下駄箱の所に鞄置いてるから。一旦そこに寄ってから帰るの。
 私……その姿が見たくて、こうして待ってるんだ。しばらくは空を見上げて……
 解らなかった。
 あの娘の気持ち…。
「その為だけに待ってるの?」
 あんな哀しい顔して。
「だって、そんなたった何分かの為に…こんなに待って……?」
「…うん。一目…姿見れたら、それでいいんだ」
 …だって、そんな事しないでちゃんと観に行った方がよっぽどいいじゃないか。
「何か…変な話聞かせちゃったね…。ごめんね」
「あ…うん…あ、じゃ、俺もう帰るな」
 何だかその場に居づらい空気《フンイキ》だったから、俺はあの類に背を向け、歩きだした。
「…うん。さようなら」
 少しだけ、俺の背中を見送ってから、あの娘は又、空を見上げた。
 俺は…。
『そんなつまんねぇことしてねぇで、一緒にどっか遊びに行こうぜ!』
 …そう言ってやりたかった。
 あの娘にあんな顔させる奴が、許せなかった。
 ふと、思い当たって。
 俺はあの娘を振り返った。
「…俺は、この…夕焼け空が一番好きだ」
 そう言い残して。
 その場を去った。
 今、思えば。
 あの姫が待ってたのは。
 あの娘の《《好きな奴》》で━━。
 俺はソイツを待ってたあの娘の姿に惹かれて行ったのだから……。
 初めっから。
 完全な片思いだった━━。

   ⭐︎   ⭐︎   ⭐︎

「…腕、放して下さい」
 目の前の・…女の子が俺にそういった。
「…あ……うん…」
 俺はためらいながら、その女の子の腕を放した。
 これで…いい。
 本当はあの娘とそっくりな、この女の子の腕を、放したくはないけど…。
 ━━《《この女の子はあの娘じゃない》》。
「じゃっ。行こうよ、その娘に逢いに」
 逢いたくない…。
 だけど。
 俺は歩き出す。
 こんなに一生懸命な女の子と一緒にいられるのが嬉しかった。
 ひとりじゃない。
 そんな気がして…。
 あの娘の家の前。
 又、来ちまった….。
「━━さあ…後は貴方がやらなきゃ」
 女の子は笑って。
 俺の後ろに下がった。
 インターホン。
 手を伸ばす。
 ━━ごめんなさい。
 あの娘の声が頭に響く。
 駄目だ。
 いまさらこんな事したって…。
 どうなんだよ……。

 ━━じゃあ、なんであなたはここに居るの?
 違いたいから来たんじゃないの…っ⁈

 そうだよ。
 何で俺━━。
 ここに居んだよ…っ⁈
 あとちょっと…。
 手が届く…!
 届くのに…‼︎
「ダメだ…っ!」
 できない。
「ごめん……っ」
「できないよ……」
「できない」
 この娘は俺の為に泣いてくれたのに…。
 ━━逃げたい。
 この場から逃げ出したい…!
「あたしね…」
 星明かりの中、女の子が口を開く。
「あたしね、本当は…好きな人がいたんだ」
 そう。彼女は空を見上げて。
「すごくすごく大切で…見てるだけで、楽しかった……。
 いつも遠くで見てるだけだったから…その人、あたしの事なんて全く知らなかった。
 あたし…自分に自信がなかった。その人に近づいたりしたら迷惑だ…なんて思ってた。
 まわり気にして…。一番気にしてたのは、自分だった。
 逃げてたんだ、あたし…・」
 俺は…その女の子にかけてあげられる言葉が見つからなかった。
 女の子は星空から脂を逸らし、
 俺を見た。
「結局。その人には告白できないまま…。一言もお話できないまま…。
 その人、卒業しちゃった」
 一陣の風が吹く。
 服を、髪を、はためかす。
 春とはいえ、まだ夜は寒い。
 それなのに。
 どうして俺はこの娘を。
 こんな所に立たせてるんだろう…。
「…だから、卒業式の日に。自分の想いを伝えた《《先輩》》は、すごいと思います。
 …私、すごく後悔した。
 ねぇ…。今という時間《しゅんかん》は『今』しかないんだよ。
 やりたいことは自分でやらなきゃ! うつむいてはかりいたらもったいないよ?
 がんばろうよ、今、この瞬間《とき》を」
 女の子は空を見上げ、
「ほらっ、星はあんなに輝いてる」
 そう言って笑った。
 この女の子は…自分で後悔したんだ。
 泣いて、泣いて…。
 だから。
 こんなに一生懸命なんだ。
 俺は...。
 何をしてたんだ……?
 悔やんで。
 自分が嫌になって…。
 何もしなかったくせに━━…。

「━━ありがとう」

 俺はその女の子に思いっきり笑って、ついにあの、インターホンを押した…!

 チャイムが鳴り響いて…。
 出できたのは。
 あの娘だった。
 俺の顔をみて…。
「え? あ…! どうしたの?」
 驚いた顔をして、それから…。
「ひさしぶりだね!」
 笑顔を見せてくれた。
「あ…うん、その…さ、この娘が…」
 俺は後ろを振り返った。
 あれ…?
 あの女の子が…
 …━━居ない……。
「どうしたの?」
「え…いや…その……」
 あの女の子は。
 もう。
 行ってしまったのだろうか…?
 まるで、あの星空みたいな。
 一生懸命輝いてる女の子だった━━。
「…その後、どう?」
「え…あはは…。俺? ……えっと~~…。
 夕焼け空より、星空の方が好きになっちゃった」
「そうなんだ。…本当、綺麗よね、空って」」
 そうやって。
 にっこり微笑む姿は、何だか前よりずっと幸せそうで…。
 俺は安心した。
「…あのさ……俺!」

 ━━まだ、君のことが…。

 そういおうとして。
「はっくしょん!」
 いきなり聞こえてきたクシャミに━━おもいっきり遮られた。
「あ、おかえりなさい」
 あの娘は事も無げにそういって、クシャミの主に気さくに話しかけてる。
 …そう…
 木の影からぴょこんと顔を出したのは━━……。
「…あ、この子、わたしの妹なんだ」
 《《あの女の子だった》》。
 あの女の子は、
 大きな瞳を動かして。
「…えへへー…。お姉ちゃんっ、ただいま!
 ......先輩、ハハ…こんばんは…!」
 弾けるように笑った。

   ⭐︎   ⭐︎   ⭐︎

「…い、
 《《いもうと》》━━⁈」
 その後。
 あの公園のベンチに腰かけて、俺は素っ頓な声をあげていた。
 その言葉の意味が、未だ、今ひとつ…飲み込めていなかった。
「だからぁ~~…此間《こないだ》も、お姉ちゃんがそういってたじゃない! 聞いてなかったの?」
 ━━きいてない。
 きいてないぞ、俺は…っ!
「━━なんだよ…なんで教えてくれなかったんだよ……‼︎」
 家の前まで行ったんだ。絶対気づいてた筈だ。
「へヘー♪ 実は最初っから知ってたの!」
「え…?」
 ━━《《やられた》》…!
「お姉ちゃんのクラスメートだったし、
 一応あたしの先輩でもあったからね」
「おまえなぁ~~…」
 そうと解っていれば…もう少し……。
 その…、なぁ……。
「…━━あ⁈ 俺の事知ってたのは解ったけど…まさかおまえ……俺が、あの娘の事、灯きだって…事も…初めから知ってたんじゃないだろうな…⁈」
「へへ…内緒…⭐︎」
 ━━なんだかものすごく…騙された気がする。
 でも…ま。
 いっか。
「俺さぁ…あの娘、君のお姉さんとは…、これから、友達になろうと思うんだ…て図々しいか」
「えっ…⁈ なんで⁈
 ……お姉ちゃんに、つきあってる人が…いたから……?」
 あの娘は━━…つい最近、中学の頃から好きだった奴に告白されたといっていた。
 あの時、そう言って笑ったあの姫の笑顔がとびきり眩しくて…。
 俺はあの娘の心からの笑顔を、初めてみた気がした。
「ばーか! そんなんじゃねーよ!」
「え? あ…! だって…⁉︎」
「━━それよりさ」
 この女の子の手を取って。
「あん時のお礼! 一緒にどっか、遊びに行こうぜ!」
 俺は走りだした。

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