見出し画像

【SB:第1部】シークレット・ラビリンス(はじまりの物語):第1章<デイタイム・ラビリンス>0 闇

 月のように街灯が輝いていた。
 辺りに植え込まれた緑は、夜の色を帯びている。
 その光からわずか離れた場所を、一組の男女が歩いてくる。
「でさー、あいつったらさあ……」
 甘えた声を上げ、しなだれかかってくる彼女を、彼も満更でもない様子で見つめている。
 というか、すでに2人ともとろけそうな顔をしていた。
 ━━夜の公園。歩くカップル。最高のシチュエーションだ。
 Tシャツにジーンズ姿の、なかなかハンサムな彼は、改めて彼女に目をやった。
 喉を鳴らして、唾を飲み込む。
 流れるような髪。星のような瞳。赤い唇。
 なめらかな首筋。紫色のキャミソール。張り出した胸。
 剥き出しの細い腕と白い肩……。
 大きく深呼吸。彼は、彼女の肩に手を伸ばした。

 ━━その時だった。

 静寂を崩すように草が鳴り、足音が響いた。
 カップルのすぐ脇の暗がりから、1人の少年が現れた。
 闇色のスウェット姿だ。青い鞄を背負っている。
「あ、なんだおまえ⁈」
 いいところを邪魔された男は、あからさまに不機嫌な声を上げた。
 出てきたのが、背の低い、中学生くらいの少年だったので、見下しているのだ。
 少年は下を向いたまま、微動だにしない。
「なんだよおまえ……⁈」
「ちょ、やめなよ」
 荒れそうな男を止め、彼を促し、女はその場を去ろうとした。
 だが……!
 少年が、ゆっくりと顔を上げた。
 カップルは、思わず息を飲んだ。
 少年の瞳は、血のように、濁った赤色だった。
 少年は、その瞳を不気味に細め、男を見上げた。
 「危な……⁈ 裕《ゆう》……!」
 本能的に危機を感じた女が男を突き飛ばす。
 動物的な素早さで2人へ飛び迫った少年は、
「ちっ……!」
 邪魔そうに女を払い飛ばした。
 彼女は、木の幹に背を打ちつけ、地に伏し、気絶した。
「宏美《ひろみ》……⁉︎ てめー、よくも宏美を……うわっ⁈」
 皆まで言わせず、少年は男に飛びついた。
 見かけによらないすごい力だ。男は遊歩道を下にし、少年に押し倒された。
 電灯の届かぬ闇の中。赤い瞳を狭め、少年がわ嗤った。
 男の喉の隙間から掠れた声が漏れる。
「ひ、ひぃ……⁈」
 流れる雲の間から顔を見せた月の光が、少年の赤い瞳を美しく輝かす。
 男は瞬間すべてを忘れて、その不思議な瞳に見とれた。
 妖しいほどに美しい血の瞳。
 少年は音がしそうな程の勢いで口を開けた。
 真っ赤な口内。一際目立つ、白く長い牙。
 その牙が、男の首筋に向かう。
 嫌な音を立て、少年は男の首に、自身の牙を埋めた――。

 数分後。
 少年は、男の首筋から顔を離すと、手の甲で自分の口を拭った。
「ふん」
 舌を這わせ、拭い取った血を舐め取る。
 倒れたままの男を蹴るようにして立ち上がり、血色の瞳を空に向けた。
 月はもう雲に姿を消されていた。
 ━━闇を睨み、少年は嗤った。


▼次回▼


📖目次に戻る

https://note.com/usagisantoka/n/n991833446e93


🎥紹介ショートムービーへ

https://youtu.be/X1PhPSi0EtY


いいなと思ったら応援しよう!

うさぎさん⭐︎/usagisantoka 応援してくださると、次の物語を書く励みになります✨