「大人も子供もご注文いただけます」という一文が、やさしかった話。
くまが溶けていく時間も込みで、一杯のコーヒーだった。
正直に言います。
メニューを開いた瞬間、「大人のお子様ランチ」という文字が目に飛び込んできて、私は0.3秒で決めていました。
ほかのページを読む必要、なし。
友達には「ちょっと待って、一応全部見てから——」と言ってみたが、私の心はもう、旗を立てていました。お子様ランチの絵柄の旗を。
場所は福岡市南区・大橋。「高原育ちのカフェレストラン 九重珈琲」。

看板を見たとき最初に思ったのは、「大分の九重から、こんなところまで来てくれたんだ」でした。大分県九重町の自然が育んだ食材——野菜も水も卵も牛乳も——を直送で仕入れて作るお料理を、福岡の街で食べられるらしい。
なんだかちょっと、遠くまで迎えに来てもらったような気持ち。
入り口には大きな牛の頭の置物と「だご汁」の幟。どこからともなくのんびりした空気が漂っていて、大橋の交差点のそばなのに、なぜか深呼吸してしまいました。
最初に来たのが、アイスコーヒーです。
グラスを受け取って、中を見て、私と友達は同時に「わっ‼」と言いました。
くまがいる。

氷が、くまの形をしているんです。テディベアが、ちょこんと座って、グラスの縁からこちらを見上げている。毛並みの質感まで彫ってある、本格的なくま。コーヒーの液体がじわじわと染みていって、くまがだんだんコーヒー色になっていく様子を、二人でしばらくじっと見ていました。
「かわいいね」 「うん、かわいい」 「飲むの、惜しいね」 「でも飲む」
友達と同じことを思っていることを確認し合いながら飲むコーヒーは、特別においしいです。これ、わりと本当のことだと思っています。
じっくり抽出したコーヒーは、苦みより先にやわらかい甘みが来て、するっと体に落ちていきました。くまが溶けていく時間も込みで、一杯のコーヒーでした。
そして来ました。大人のお子様ランチ(税込1,628円)。
オムライス、ハンバーグ、ナポリタン、エビフライ、ミニサラダ、プチシフォン。
全員集合。
藍染模様の大きなお皿に乗ってやってきた瞬間、テーブルが急ににぎやかになりました。「昔懐かしいお子様ランチ、大人も子供もご注文いただけます♪」とメニューに書いてありましたが、これはつまり、ずっと憧れていたものをついに頼める日が来たということです。
ハンバーグにナイフを入れると、思ったよりもすんなり、ほろっと崩れました。かみしめるほどにうまみが出てくる、肉の味がちゃんとするハンバーグ。オムライスは卵がふんわりやわらかくて、トマトソースがやさしい。ナポリタンはデミグラスソースが隠し味に入っているらしく、「懐かしいはずなのに、初めて食べる味」という不思議な感じがしました。
プチシフォンは九重の卵と大分県産牛乳で作っているもの。ひと口食べたら、ふわっと軽くて甘さがすっと消えた。お腹がいっぱいなのに、「あれ、食べられる」ってなるやつです。

友達はハンバーグドリアを頼んでいました。グラタン皿いっぱいのとろけたチーズの上に、フライドオニオンがふわっと盛られていて、焼けたチーズの香りがこちらまで漂ってきました。「うまい」と友達が言いました。語彙が消えるほどうまい、という意味だとわかったので、「よかった」と言いました。

帰り道、友達と言いました。
「大人のお子様ランチ、なんか、いいよね」
うん、いい。
大人になったら「そういうものだから」と思うようになっていた。でも実は、ずっと食べたかったのかもしれない。オムライスとハンバーグとエビフライが一緒に乗った、旗の刺さったあのお皿を。
九重珈琲はそれを、「大人のお子様ランチ」という名前で、ちゃんとメニューに置いていてくれていました。ありがとう!
「大人も子供もご注文いただけます」という一文が、なんだかすごくやさしいね。
次は、何を頼もうかな~。
九重珈琲 大橋店 〒815-0033 福岡県福岡市南区大橋2-2-1 マルイビル101 営業時間:AM10:30〜PM10:00(OS21:00) TEL:092-408-9975 公式サイト:https://www.syouki.jp/kokonoecoffee/
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