人間ってみんな違ってみんなキモい「おいしいごはんが食べられますように」の感想を書く
芥川賞受賞作「おいしいごはんが食べられますように」を読んだので感想を書く
まず端的に感想を言うと
めちゃくちゃ良かった
最近の芥川賞が個人的にピンとこなかったので
こういうのを待っていた!という気持ちになった
タイトルからなんとなく漂う不穏さで
見た瞬間に私この本好きだなと直感的に感じていたが
それは間違ってなかった
すごく読みやすい文体でありながら
人間の嫌な部分を的確に突いてくる
登場人物全員嫌なやつだけど
実際人間ってみんなキモいので
ものすごいリアリティがあるなと思う
とにかく人物の描写が魅力的なので
登場人物主要3人について感想を述べたい
(※ネタバレあり注意)
⚪︎二谷
あまりわかりやすく書かれてはないけど普通にクズ
あえてカテゴライズするならば
村上春樹の主人公寄りの爽やかな要領のいいクズ
複数の女性社員に手を出してることがさらっと書かれてるし、芦川と付き合っておきながら押尾と寝ることにも抵抗はなさそう
芦川のことをとことん見下しており、芦川への抵抗として無理して手料理の後にカップ麺食べるところとか
なにと戦ってるんだお前はと言いたくなる
二谷は要領よく生きるがために
好きなことに労力をかけられないことに歯痒さを抱いていて
だからこそ好きなことをしている芦川を下に見ることで自分を保っている部分があるんだと思う
芦川と付き合ってることを周りにバレていないと思うなど意外と鈍感なところがあり
自分の気持ちも深掘りしないタイプなので自分の行動原理を把握していなそうなところもある
コスパタイパを重視し
自分の行動にも確固たる意思はなく
他人の気持ちに寄り添わないあたりが
いかにも現代の男性像を感じさせる
⚪︎芦川
こういう女いるよねっていう女
実家暮らしでぬくぬく育って、会社でも自分の弱さをさらけ出せるが故に
周りからとことん甘やかされるタイプ
仕事早退しちゃうのにお菓子作りはできてしまうし、みんなが働いてる中さっさと帰って作ったお菓子を配ることに対してなんの罪悪感も感じない図々しさ
まさに女が嫌いな女というカテゴリーに属する女なんじゃないだろうか
過去現在未来どこかでは誰もがこういう人にであったことがあるのではと思う
読み進めていくほど、芦川に対するなんともいえない怒りのような呆れのような妬みのような感情を持ってしまい
そういえば学生時代こういう女いなぁ…
と感情に懐かしさすら覚える
二谷が芦川と付き合う理由は、反抗してこないし見下せるからなのだろうか
女を下に見ることで快感を覚える男はよくいて、大抵そういう男は最低だとなりがちである
ただ二谷と芦川の場合、芦川のキャラが強烈なため
二谷に対してお前が貰って檻に閉じ込めといてくれ…という感想をもってしまうレベルである
弱者ヅラするのがとことん上手くて
嫌いと言ってしまえば嫌いになったこっちが悪者となってしまうめんどくささがある
あからさまなキャラなのにくどさを感じさせないリアリティがあり、底知れない部分もある
この芦川の人物像がこの小説の特色といってもいいぐらい絶妙な性格をしている
⚪︎押尾
芦川のことが嫌いな押尾
読者の芦川の対するモヤモヤを消化してくれるヒーローかと思いきや、この人もこの人でだいぶ屈折した性格をしている
二谷と芦川が付き合ってることを知りながらも、人間的に二谷は芦川よりも自分の方が好きだと思っていたり
揺らぎなく自分に自信がある
なんでも人よりもできてしまうがゆえに、できない人の気持ちを理解しようとしない
だからこそ、特別扱いされる芦川を許せないのだろう
芦川を嫌うことで芦川のしたたかさを許そうとしていたり
自分の感情に合理性を持たせたいタイプなのだと思う
二谷に対しても、恋愛感情があるというよりは芦川を嫌う同志として
また、芦川の恋人である二谷と親密になること自体が芦川に対する嫌がらせとして近づいているのではないだろうか
以上が登場人物に対する感想となる
自分の行動に責任と合理性を持たず考えを放棄している 二谷
弱さを武器にする図々しくしたたかな女 芦川
自分の物差しでしか人を評価できない 押尾
読んでいると、みんなそれぞれに自分と通じるキモさがあったり
他人から感じるキモさがあったりして
とにかくこの小説は人を書くのがうますぎると思った
三人称視点で書かれてるため、あえて人物の心情があまり深く描写されておらず
読み手によって登場人物に抱く印象が違うのではないだろうか
そういう意味では読み手の心の鏡にもなり得る作品である
人と関わる上で感じる時のストレスや気持ち悪さがここまで的確に描写されているのは
この作品ならではといっていいだろう
感情のぐちゃぐちゃとしたもったり感が
手作りケーキを食べる描写と同化されているのも見事である
最後に、お菓子を捨てたのは誰かという回収されてない謎について
芦川の手作りお菓子を捨てたのは二谷の他にもう1人以上いるだろう
押尾の捨てられたお菓子を拾って机にのせてるだけという発言を信じるとして、捨てた犯人は他にいることになる
まぁその犯人については別に誰でもいい
当たり前に芦川をよく思わないひとはいるだろう
仕事が忙しい時にさっさと帰ってお菓子を作って配るだけでも鼻につく人はいるのに、お金まで徴収させられてるわけで…
そもそも甘いものが嫌いだったり手作りが嫌いだったりする人もいる
そういうのを配慮しない押し付けがましさがあり
その善意の押し付けを断るほうが悪だとされることが問題なのではないだろうか
そしてお菓子を捨てられたことを芦川が気づいた時に気にしていないことも引っかかる
芦川は机に乗せられたゴミ袋に入ったお菓子を見て、ショックを受けるでもなくさらっと捨てる
ここに芦川の恐ろしさがあるように思う
本当に芦川は食べきれないケーキが返されてると思っただけなのだろうか
被害者ヅラできるチャンス
かわいそうチャンスが巡ってきた
としか思ってなさそうと感じてしまうのは
深読みのしすぎなのか…
とにかく、「おいしいごはんが食べられますように」は人と関わる上での理不尽さ、やりきれなさ、気持ち悪さ
そういうものが的確に書かれている
多様性が叫ばれる今、いろんな人を認めて共存していくことの難しさを思い知らされる
綺麗事ではどうにもならない歪な世界で生きていることをこの作品によって再確認させられ
すこしほっとした気分になった
