見出し画像

Drake vs Kendrick Lamar ヒップホップ史上最大のビーフ全記録

ヒップホップ好きなら、これだけは知っておかないといけない話があります。2024年、アメリカ中が、いや、世界中がたった2人のラッパーに釘付けになった1週間がありました。

Drake vs Kendrick Lamar

正直、このビーフの発端や経緯を知らずに「ヒップホップが好き」とは言えません。でも大丈夫。この記事を読み終わる頃には、あなたはリアルなヒップホップ通として、この話を誰かに語れるようになっています!

では早速見て行きましょう。


「トップは俺だけだ」——その一言が、すべての導火線に火をつけた

2024年3月22日金曜日の夜。

世界中のヒップホップファンがスマートフォンを手に、耳を疑っていました。

新しい曲が突然リリースされた。
Future と Metro Boomin の新アルバムに収録された「Like That」というトラック。そのゲストバースに、あの男が現れたのです。

Kendrick Lamar。

彼のラインはシンプルでした。ほんの数秒。でもその数秒が、ヒップホップの歴史を揺るがすことになります。

Motherf●●k the big three, ni●●a, it's just big me.
「マザーファック ビッグスリー、トップは俺だけだ」 

Like That - Future, Metro Boomin & Kendrick Lamar

ビッグスリーとは、Drake・J. Cole・Kendrick Lamar の3人が「現代ヒップホップのトップ」として並び称されてきた概念のこと。それを Kendrick は一刀両断した。「俺たちは横並びじゃない。俺が一人でトップだ」と。

Drake は、その場に名指しされていました。


そもそもなぜ2人は戦うことになったのか

話は2023年秋に遡ります。

Drake は「For All the Dogs」というアルバムをリリースしました。その中の「First Person Shooter」という曲に、J. Cole がゲスト参加し、こうラップしていました。
「誰が最高のMCか、K-Dot(Kendrick のこと)か、Aubrey(Drake の本名)か、それとも俺か。俺たちはビッグスリーだ」と。

このラインは当初、ヒップホップの「三強」を讃えるリスペクトとして受け取られていました。しかし Kendrick の解釈は違った。
「Drake が俺を自分と同列に並べた。これは挑発だ」と。

実は2人の間には、2013年から続く長い「緊張」の歴史があります。Kendrick がある曲の中で業界のラッパー全員を「ライバル」と宣言し、Drake の名前を挙げたことが最初の摩擦でした。
それから10年間、表向きは「リスペクトし合っている」としながらも、楽曲の中でお互いに「スネークディス(=相手を名指しせず、でも明らかに相手に向けたディス)」を仕込み続けてきた2人でした。

そして2024年3月、「Like That」でその蓋が完全に吹き飛んだのです。

第1ラウンド—嵐の前の静けさ

「Like That」のリリースから約2週間、Drake は沈黙していました。

しかしその間に、状況は複雑に動いていました。J. Cole が「7 Minute Drill」という Kendrick へのディストラック(=特定の相手を攻撃するために作られたディス曲)をリリース。
ところがわずか数日後、Cole は自らステージでこの曲を「後悔している」と謝罪し、実質的に戦線離脱。

ディストラックを出したその本人が謝る——これはヒップホップの世界では極めて異例の出来事で、Kendrick の存在の重さを逆説的に証明することになりました。

そして同じ頃、The Weeknd、A$AP Rocky、Rick Ross、さらには Kanye West までもが、Drake へのディスや Drake 陣営からの離脱を示唆する楽曲や発言を次々と出し始めます。
「Kanye でさえ、Drake の排除を望んでいた」と後のインタビューで語られるほど、業界の空気は Kendrick 側に傾いていました。

孤立しつつある Drake が、ついに動きます。

4月19日—Drake、反撃開始

「Push Ups(Drop & Give Me 50)」。

Drake が Kendrick へのディストラックをリリースしました。Kendrick の身長(165cm程度)をからかい、「お前のサイズは7インチ(約22cm)の靴か」と煽り、「ビッグスリーなんてない、お前はビッグじゃない」と返した曲です。

さらに4日後の4月24日、Drake は「Taylor Made Freestyle」をリリース。この曲で Drake がやったことは前代未聞でした。
——AI を使って Tupac と Snoop Dogg の声を再現し、まるで2人が Kendrick に「早く Drake に反撃しろ」と語りかけるように仕立てたのです。

これは明らかなやり過ぎでした。Tupac の遺族サイドがすぐに法的措置を警告し、Drake は数日でこの曲を削除。「AI で死者の声を作った」という事実は批評家から猛烈に非難されました。やりすぎちゃいましたね。

一方、Kendrick はまだ何も言っていない。

インターネットは「Kendrick は逃げたのか」という声と「嵐の前の静けさだ」という声で二分されていました。

4月30日—Kendrick、動く

「Euphoria(ユーフォリア)」。

午前0時を回った深夜、突然リリースされました。なんと6分超の長尺ディストラック。

これを最初に聴いたファンたちは、その密度に言葉を失いました。ただ悪口を言っているのではない。Drake のキャラクター、音楽、ビジネス、プライベート、姿勢——あらゆる角度から解体し、哲学的な言語で叩き潰すような内容でした。

「俺はお前のことが心から嫌いだ。これは憎しみじゃなく、本物の嫌悪だ」——その一文が、曲全体のトーンを決定していました。

翌日、インターネットは爆発しました。批評家も、ファンも、業界関係者も、ほぼ全員が「Kendrick が先手を取った」と認定。Drake 陣営は慌てて反応を準備し始めます。

しかし Kendrick は止まりませんでした。


5月3日から5日

「Euphoria」からわずか3日後の5月3日、「6:16 in LA」。

今度は Drake のチームの中に内通者がいて、自分に情報を流してくれていることを示唆する曲でした。「お前のOVOチームが俺のために働いてるかもしれないぞ」——これが事実なら、Drake の足元は完全に崩れていることを意味します。

同日、Drake は「Family Matters」をリリース。Kendrick の婚約者への不貞疑惑、子供の親が別の男(マネージャーの Dave Free)という主張、Kendrick が家族に暴力を振るっているという告発——Drake の持てる全ての「情報」を曲に詰め込んだ、これまでで最も攻撃的なトラックでした。

しかしその日のうちに、Kendrick が返しました。
「Meet the Grahams(グラハム家の皆さんへ)」。

この曲の形式が衝撃的でした。Drake の母親、父親、そして Drake 自身に、まるで手紙を書くような形式のラップ。その中で Kendrick は、Drake に「隠し子がいる」という主張を展開しました——11歳の娘がいる、と。

ヒップホップのビーフが、こんな形式を取ったことは過去になかった。「バース」ではなく「手紙」として相手の家族に語りかける——これは音楽の攻撃というより、まさに人格への外科手術のような精密さでした。

インターネットは「Family Matters vs Meet the Grahams」の比較で一晩中燃え続けました。

そして翌5月4日——Kendrick が最後の弾を放ちます。


「Not Like Us」—これで終わった

「Not Like Us(ノット・ライク・アス)」。

リリースの瞬間から、何かが違いました。「Euphoria」の重厚さとも、「Meet the Grahams」の陰鬱さとも違う。西海岸特有のファンキーで跳ねるビート。Kendrick の声が、怒りではなく勝利の喜びに満ちていた。

サビはシンプルで、誰でも口ずさめる。「They not like us(あいつらは俺たちとは違う)」——まるでパーティーソングのような軽さで、Drake への致命的な中傷が展開されていきました。

この曲はリリースから72時間で Spotify のグローバルチャート1位を獲得。ストリーミング記録を次々と塗り替えていきました。

Drake は「The Heart Part 6」で反撃を試みましたが、「隠し娘の情報は実は俺たちが仕込んだフェイクニュースで、Kendrick がそれに引っかかった」という内容でした。しかし業界の判定は変わらなかった。The New Yorker はこの時点でこう書きました。

これほど明確な敗者がいたことがあっただろうか?

The New Yorker

ビクトリーラップ——世界最大の舞台で

2025年2月2日、グラミー賞授賞式。

「Not Like Us」がレコード・オブ・ザ・イヤーとソング・オブ・ザ・イヤーを含む5部門を受賞しました。ヒップホップ史上、ディストラックがグラミーのメイン部門を受賞したのは初めてのことです。授賞式の会場で曲の一節が流れるたびに、観客が声を合わせて歌いました——Drake への中傷を含む歌詞を。

その1週間後、2025年2月9日。

スーパーボウル LIX のハーフタイムショー。ニューオーリンズのシーザーズ・スーパードーム、そしてテレビの前の1億3,350万人の視聴者——スーパーボウル史上最多の視聴者数——の前で、Kendrick Lamar は「Not Like Us」を堂々とパフォーマンスしました。

「certified pedophile(認定済みのペドファイル)」という直接的なワードは NFL の要請で省略されました。が、残ったリリックで Drake を名指しし、カメラに向かって「お前は若い子が好きだと聞いてる」というラインを歌い上げた瞬間——それは全世界に届きました。

元 Drake の元カノ Serena Williams がハーフタイムショーの会場で「Not Like Us」に合わせて踊る姿も映し出され、追い打ちになりました。
きつすぎますよね(笑)

NPR はその翌日、こう見出しをつけました。
戦いから約1年、Kendrick Lamar が戦争に勝った」と。

Drake の最後の手——そして裁判所の判決

音楽で負けた Drake が選んだのは、法廷でした。

2025年1月、Drake は自身が所属するレーベル Universal Music Group(UMG)を相手取り、名誉毀損で提訴。Kendrick は被告には含めず、「UMGが『Not Like Us』の虚偽の内容を知りながら宣伝した」という論法でした。

しかし2025年10月9日、連邦裁判所は Drake の訴えを棄却。裁判官は「ディストラックは事実の陳述ではなく意見の表明であり、名誉毀損の対象にはならない」と判断しました。UMG 側は早い段階からこう言っていました。「Drake は rap battle に負けただけだ」と。

これが、司法的な意味での最終的な結末でした。

このビーフは何だったのか——そして何を残したのか

Drake vs Kendrick の戦いは、ヒップホップのビーフという文化が「ストリーミング時代」にどこまで爆発できるかを証明した出来事でした。

「Euphoria」から「Not Like Us」までの数日間、毎日のように新曲がリリースされ、毎日その内容がSNSで解析され、毎日新しい"ジャッジ"が下された。世界中の人間が同じドラマをリアルタイムで追いかけ、2024年のポップカルチャーで最も語られた出来事のひとつになりました。

内容的には、ビーフが「音楽的な優劣の証明」から「相手の人格を破壊する戦争」へと変質したことを示した戦いでもありました。
Kendrick が「Not Like Us」で Drake に向けた言葉は、楽曲として美しく、ビートとして踊れるほど軽やかでありながら、内容は人生を揺るがすほどの重さを持っていた。

Drake はこれに音楽では勝てなかった。法廷でも勝てなかった。グラミーでも、スーパーボウルでも、世論でも——勝てなかった。

ではこの戦いは、Drake にとって終わりなのか。

2026年5月15日、Drake は新作アルバム『ICEMAN』のリリースを控えています。トロントの街に巨大な氷塊を置き、そこにリリース日を仕込み、消防車まで出動させたあの男が、次に何を言うのか。

音楽で返すこと以外に、道はありません。
今後のDrakeの活躍に期待です!

いいなと思ったら応援しよう!