政治に対する雑感17
台湾有事を煽った高市答弁
台湾を巡るだけの問題なのか
11月7日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の岡田勝也が台湾有事における具体的な事例を総理大臣高市早苗に質問をした際、高市は、中国海軍が軍艦によって台湾を海上封鎖し、海上封鎖を解くために米軍の来援が起きた際に武力行使が発生した場合には、安全保障法上における「存立危機事態」にあたる可能性が高いとして、自衛隊による集団的自衛権の行使に余地を残す答弁を行った。(※1)中国はこの発言を問題視し、中国外交部の報道官、林剣は、中国への内政干渉であり一つの中国原則に反するものであるとして、日本側に厳正な抗議を申し入れたとした。(※2)
日本側は政府の従来の見解を述べたに過ぎず、発言を撤回しないという姿勢を崩していない。(※3)ただ、中国はこの問題は、台湾問題だけに留まるものではないとして次のように述べている。
高市首相は、中国の台湾を日本のいわゆる「安全保障上の利益」を結びつけることで、台湾問題への武力干渉の口実を得ようと企て、台湾海峡への軍事介入の企図と野心を露呈した。(略)
高市首相が「台湾有事」を集団的自衛権と結びつけたのは、軍事拡張の口実作りのためであり、軍国主義が息を吹き返す危険な兆しを孕んでいる。(略)日本の軍国主義は歴史上、いわゆる「存立危機」を口実に対外侵略を繰り返してきた。「自衛権の行使」を理由に横暴にも九一八事変(筆者注:1931年の満州事変を指す)を引き起こし、中国侵略戦争を引き起こしたのもその一例だ。今また同様の論調を持ち出すとは、まさか日本は歴史の轍を踏もうとしているのだろうか?
この発言からは、中国側が、日本が台湾問題を口実に、満州事変のときと同様、中国への軍事的野心を起こそうとしているのではないかという不信感が表れていることが伺える。人民日報という中国共産党の広報機関紙でしかないと切って捨てるのはたやすい。しかし、この見解からは中国が歴史認識の問題を強調する理由が過去の問題ではなく、現実にあるそれこそ中国にとっての「存立危機」に関わる問題であると考えていることをうかがい知ることができる。また、高市の政治姿勢が過去の侵略戦争についての検証を行うことに消極的であることも、より中国側の不信感を増す要因になっていると推察される。
軍事的緊張に巻き込まれる沖縄
十五年戦争中に地上戦の犠牲となり、台湾有事において近い距離にある沖縄の世論は敏感だ。沖縄タイムスは社説の中で、高市の「存立危機事態」発言について、そもそも安全保障上の存立危機の定義にある「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」自体が抽象的で武力行使の限界が不明瞭であることを指摘した上で、高市が国会の場で公人として述べたことが中国への挑発とみなされていることに懸念を表明した。(※4)
沖縄県知事の玉城デニーも台湾有事はあってはならないことであるとして、日中双方に冷静な対応を求めるとした。(※5)高市の発言が米中の衝突を前提としたものである以上、米軍基地が集中する沖縄は当然中国の攻撃の対象となることが予想されることから、沖縄県民の生命、財産を失うことになることを懸念してのものであろう。戦争の緊張感を直に感じる立場と、そうではない立場との間に温度差があることを沖縄以外の人たちは問われているのではないか。
台湾の人たちのことを考えているのか
では、台湾有事の対象とされた台湾の動向はどうなのだろうか。台湾総統府の報道官、郭雅慧は、「政治目的に基づいた複合的な威嚇でありインド太平洋地域の安全保障や安定に重大な脅威をもたらしている」としたうえで、責任ある大国として一方的な行為を止めるべきである、と中国側の対応を批判している。(※6)
しかし、野党国民党の反応は台湾政府の姿勢とは異なる反応を示している。元総統の馬英九は、高市の「存立危機事態」発言を台湾海峡の平和と安定を渇望する台湾の人々の利益を損なうものであり、中台間の問題については、意見の違いを超えて双方で解決できる能力を持っており、高市の発言は前のめりであるとした。また、元主席の洪秀柱は、架空の軍事的状況を作り出し、日本の武力介入の可能性をほのめかした挑発的で台湾を危険の瀬戸際に追い込むものであるとした。その上で、植民地時代の人権侵害への真の謝罪、賠償も未だない日本が台湾問題に干渉をしており、露骨な歴史的傲慢と政治的干渉である、と高市の発言を批判した。(※7)
前総統の蔡英文も民進党の出身であるが、総統時代に、台湾における武力衝突を望んでいるわけではないと表明している。(※8)以上からすれば、台湾において、高市の発言が、台湾での軍事衝突の可能性があるとみなして、台湾の問題に日本が何らかの形で介入することを試みたものであり、台湾を日中間の政争の道具にしたと考える向きがあることがわかる。
高市の「存立危機事態」発言に尻込みする野党の問題
しかし、最も問われるべきは高市内閣の高支持率に萎縮し、高市の「存立危機事態」発言を厳しく追及する姿勢を感じられない野党、とりわけ進歩・左派を代表する(とされている)立憲民主党、日本共産党などである。共同通信が11月15日・16日に実施した世論調査において、高市の発言に関連して台湾有事において日本の集団的自衛権行使についての賛否を訊ねたところ、賛成20.7%・どちらかと言えば賛成28.1%の計48.8%、反対18.3%、どちらかと言えば反対25.9%の計44.2%と伯仲をしている。(※9)ここからすれば、高市内閣を支持しているからといって高市、高市政権の政治姿勢、政策について白紙委任をしているのではないことがわかる。
ともすれば、世論調査というと、内閣支持率、政党支持率だけがクローズアップされがちだが、個々の政治上の争点、政策についてどのように世論が考えているかをきちんと見極めることが大切であろう。野党に求められるべきは、政府与党が軽視しがちな問題について、拾い上げ、国会質問や国政活動を通して世論に働きかけることにある。選挙に勝てさえすればという感覚で、自民党から公明党支持層が1割減れば小選挙区で10議席得られるといった、選挙結果にばかりやきもきするくらいなら、55年体制において自民党政府の反動的姿勢が見えたときにそれを指摘し、批判する旧社会党のほうがまだマシかも知れない。
台湾有事を煽っている高市の答弁は厳しく問われるべき問題である。岡田が質問をしたことが悪いという意味不明の非難に窮して、高市の姿勢の本質を糺そうとしないのであれば、野党の責任を果たしているとは言えない。野党は、高市の発言がいたずらに極東における軍事的危機を煽り、中国の反発を招き、沖縄の懸念を増大させ、台湾を侮辱したという問題の本質をきちんと追及する責任を持つべきことを自覚すべきだ。また、私たちも、SNS上を中心にうっぷん晴らしや、国士気取りで中国への憎悪を煽る動きに断固として否定すべく声を挙げていくべきだろう。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
脚注
(※1)
高市首相、台湾有事「存立危機事態になりうる」 武力攻撃の発生時 朝日新聞
(※2)
高市首相の台湾関連の誤った発言に中国外交部「日本側に厳正な抗議と申し入れ」--人民網日本語版--人民日報
(※3)
(※4)
[社説]首相 台湾有事前のめり 参戦を軽々しく語るな 沖縄タイムス+プラス
(※5)
(※6)
総統府、中国を批判「日本への脅しは地域の安定脅かす」/台湾 - フォーカス台湾
(※7)
高市首相の台湾関連発言、馬英九氏ら国民党長老「愚かだ」など猛反発|ニフティニュース
(※8)
蔡英文総統「戦争は選択肢にない」(2023年5月20日) - YouTube
(※9) 2025年11月17日 東京新聞 P18
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