将来を担う子どもたちのために-児童虐待、児童相談所を中心に-
増加する虐待相談対応件数
児童虐待に対するニュースは頻繁に流れている。(※1)先日も大阪府内で祖母が孫に児童虐待を行った疑いで逮捕される事件があった。ただし、これも氷山の一角でしかない。児童相談所の虐待相談対応件数は2019年度は19万3780件と対前年度の15万9838件から21.2%増となっている。(※2)児童虐待対応件数は2014年度以降2017年度を除き、15%以上の伸びで増えている。
虐待の相談対応件数の構成だが、2018年度においては警察からの通告が約半数を占めており、このうちの大半は子どもの目の前で夫婦間での暴力が行わることによって子どもに心理的な傷を与える面前DVが原因であるという。(※3)面前DVにおいて警察が出動をした際にその場にいた子どもを保護する必要性に関する根拠が児童福祉法25条にあり、それを元に通告がなされていると考えられる。(※4)
ただ、同法25条では児童相談所ではなく、都道府県の福祉事務所や市町村でも通報が対応となっているにもかかわらず、児童福祉事務所に一極集中しているために児童福祉事務所の負担が増えている現状がある。これについて、井上景は市町村で児童虐待に対応ができない状況が背景にあると指摘する。(※5)児童虐待対応の必要性に対する理解が進むことで法律が改正されても、現場の児童虐待対応への負担が増大する現状を緩和できない状況をうかがい知ることができる。
追いつかない児童相談所の設置、人員配置
児童相談所設置の法的根拠は児童福祉法であるが、児童福祉法が制定された1947年当初の児童相談所業務は、戦災孤児の非行防止のために戦災孤児を保護するという観点が強いものであった。それが、心身障害に関する子ども、児童虐待への対応の必要性が認識されることに伴い、児童相談所の業務が拡大し、児童相談業務は多岐に渡るようになる。
業務が拡大し、児童虐待対応への負担は増加しているものの、人員確保や児童相談所の設置の面で十分に追いついていない。慎泰俊は次のように指摘する。
虐待相談対応件数を児童福祉司数で割ると、一九九九年における児童福祉司一人あたりの虐待相談対応件数は九件でしたが、二〇一四年のそれは三一と、三倍以上に伸びています。もちろん虐待相談対応件数が増えたとはいえ深刻なケースの比率は減っているはずなので、業務量が三倍以上になったというわけではありませんが、多くの関係者らが、一五年前と比べて仕事量が二倍は増えたと話しています。(※6)
児童虐待による最悪の結果を未然に防ぎ、虐待を受けた子どもへのケア、支援を強化するには、できるだけ多くの児童相談所を設置し、そこに適切な人員を配置してより細かく丁寧な対応をすることが必要だろう。井上景は中核市単位で児童相談所を設置し、基礎自治体の持つ福祉サービスを活かすことで、児童虐待の予防、早期発見、支援、介入、対応といった一連の流れを最大限に活かすことができるのではないかと述べる。(※7)
しかし、児童相談所の数は1999年の174か所に対し、2014年が207か所とほとんど増えていない。(※8)2021年4月1日時点でも225か所という状況である。(※9)児童相談所の設置が増えない理由について、井上景は自治体側の財政的支援の継続性への懸念や児童福祉司の確保の難しさ、地元住民の児童相談所に対する反発を指摘する。(※10)
財政的支援については、2018年度から児童相談所設置費用のうち一般単独事業債(自治体の債券形式による債務)の償還分の半分を国が地方交付税の形で交付することでわずかながら前進した。しかし、これも地方交付税不交付団体への財政支援がなされないこと、地方交付税交付金が一括交付形式のため、自治体サイドからは設置費用について具体的な金額が把握できないという問題が指摘されている。(※11)
地域の理解不足については、子どもの育成について社会全体で行うことへの理解がないこと、児童相談所に非行少年がいることなどが反発の主因となっている側面がある。ただし、明石市のように子どもを核にした街づくりを目標に掲げ、子育て支援を積極的に行うなど市民の理解を得るための努力を行った結果児童相談所の設置への住民の理解を得た事例もある。(※12)子どもへの社会福祉に対する理解を持った政治家がいるかいないかの差は大きいと言えよう。
子どもを社会で育てることの理解を
子育てはともすると家庭の問題とされ、社会全体で取り組むべきという発想は日本では低い。「令和3年版 少子社会対策白書」によると、日本の子ども・家族向け支援はGDP比は2018年度時点で1.65%と、アメリカ0.63%(2017年度)を除き、スウェーデン3.42%(2017年度)、イギリス3.19%(2017年度)、フランス2.93%(2015年度)、ドイツ2.4%(2017年度)と比べると低い。(※13)
慎泰俊は子どもへの社会福祉の必要性についてフィンランドの成功例を挙げる。フィンランドは子どもへの福祉政策を積極的に行った結果、フィンランドの国際競争力が高くなったとし、子どもへの社会福祉政策が将来的な投資の意味合いを持っているとする。(※14)
しかし、予算がないことを強調したり、社会的擁護が必要な子どもの問題は票にならないとして関心がない政治家が少なくないようである。(※15)児童虐待の問題について、昨年総選挙の各党の公約を比較検討したものを下記に示したが、全体として児童福祉の必要性への理解が少ないことは否めない。

子どもへの虐待の原因としては、虐待を行う当事者が幼児期に虐待を受けたために虐待を虐待と考えず自然なこととみなしていることもあるが、虐待が行われる家庭と貧困との関係性も指摘されている。(※16)井上景は次のように強調する。
社会福祉がある理由は、社会構造上の欠陥を補完するためである。人が貧困に陥る理由は、個人だけの責任ではない。同じように、社会福祉の対象とする児童虐待は、当事者だけの問題ではないのである。また、虐待の連鎖は、大人の人任せによって生じた社会問題でもある。社会の暗部にも目を向け、虐待の連鎖の構造を見抜く洞察力とその課題への対応力が必要である。(※17)
つまり、子育て、児童虐待を家庭だけの問題として捉えるのではなく、子育てを社会保障や地域社会での支援を含め、社会全体で支え、私たち一人ひとりが子育てに責任を負うことで児童虐待を防ぎ、一人ひとりの子どもを健やかに育てていくことが必要であるということだろう。子どもには選挙権がないため、当事者の子どもの意見が政治に反映されにくい。児童虐待問題はその意味では大人のエゴによって子どもが犠牲となっていることの表れとも言えるのではないか。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
(※1)
(※2) 「令和3年版 厚生労働白書」 第1部第1章第2節 P81~P82(2018年時点のものは「令和2年版 厚生労働白書」第2部第1章第4節 P184からのもの)
なお、令和3年度同白書は、2020年の速報値では近年の増加率と比べると低めであるとのことだが、新型コロナ感染拡大による子どもの見守りの機会が減少による児童虐待のリスクの高まりが指摘されると述べている。
(※3) 井上景「行列のできる児童相談所」P46 北大路書房
なお、昨年警察が児童相談所に虐待を通告した人数は過去最多の10万8059人に上る。詳細は(※1)のNHKニュースの「児童虐待のニュース一覧」を参照のこと
(※4) 児童福祉法第25条
「要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。ただし、罪を犯した満十四歳以上の児童については、この限りでない。この場合においては、これを家庭裁判所に通告しなければならない。」
(※5) 井上「前掲」 P50
(※6) 慎泰俊「ルポ 児童相談所」 P178~P179 ちくま新書
(※7) 井上「前掲」P235
(※8) 慎「前掲」P178 図20(出典は「厚生労働省」)
(※9) 全国児童相談所一覧(厚生労働省HPより)
(※10) 井上「前掲」P212,P217~P220
(※11) 井上「前掲」P225~P226
(※12) 井上「前掲」P220
(※13) 「令和3年版 少子社会対策白書」1章2節 P7
(※14) 慎「前掲」P202
(※15) 井上「前掲」P208
慎「前掲」P200
(※16) もちろん貧困以外にも家庭における肉親の心身上の問題があるほか、子ども自身の発達障害などの様々な要因も絡んでいることも指摘されている。
斉藤幸芳・藤井常文編著「児童相談所はいま」第2部第6章「SBS(シェイクン・ベイビー・シンドローム)」P148 ミネルヴァ書房
(※17) 井上「前掲」P113
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