選挙制度試案①-イントロダクション-
問われる現行選挙制度
首相による選挙制度変更の提言
首相の石破茂は年頭の記者会見で選挙制度の検証が必要であるとの見解を示した。(※1)内閣、首相などによる選挙制度変更の提言は、1956年の鳩山一郎内閣における単純小選挙区制度の提言(※2)、1973年の田中角栄内閣における小選挙区比例代表並立制の提言(※3)がある。当時は55年体制下にあって、参議院の1人区では基本的に自民党が圧倒的な強さで野党に勝利をしていたことや、自民党内における反動的な改憲主張に対する懸念から、野党、世論の反発を招き、選挙制度が変わることはなかった。選挙制度が現行の小選挙区を中心とした小選挙区比例代表並立制は、自民党が野党にあった細川非自民連立政権下において、政治改革の一環として1994年になって導入されたものである。(※4)
石破自身は党の総裁選挙において中選挙区連記制を主張していたこともあり、昨年の衆議院総選挙で自民党が大幅に議席を減らしたことを理由とした党利党略の観点だけで急遽選挙制度の変更を提言したというわけでもないだろう。ただ、選挙制度変更については1990年代の政治改革においても政治とカネの問題が選挙制度の変更が中心とした論点にすり替わったこともあり、今回の政治とカネの問題の論点をすり替えようとしているのではないかとの懸念や、選挙制度が民主主義の基盤をなすことから、政権運営の取引材料とすることへの不信感を表明する意見もある。(※5)石破が、衆議院の選挙制度の改革には言及するも、参議院においては自身の地盤である鳥取が島根と合区選挙区である事に否定的見解を度々示していること(※6)も、選挙制度改革をどこまで本気で考えているかという見解が出てくるのは自然な事であろう。
民意をどのように反映するべきか
とは言うものの、選挙制度においては「政治に対する雑感12-選挙制度神話2-」で石川真澄が指摘しているように、いかにして民意を反映させるかという観点から制度設計を行うかという点が重要である。もちろん、民意については何をもって民意とするのかという観点が多数代表制論者(小選挙区制論者)と少数代表論者(比例代表論者、広義では中選挙区制度を含めた大選挙区制度論者)とでは異なる(※7)ことも事実ではある。
私個人は、日本においては、各有権者の民意は多数の民意を圧倒的な形で議会に反映させる小選挙区制度(多数代表制)ではなく、投票率に応じた価値観、政策のスタンスの違いの多様性を議会に反映させやすい大選挙区制度・比例代表制度(少数代表制)のほうが望ましいと考えている。また、衆議院、参議院のどちらかを多数代表制、少数代表制別々の選挙制度とするのではなく、原則として両方とも少数代表制度による選挙制度とするべきであるとのスタンスに立っている。
ただし、人口の少ない地方、自治体の立場から国政に提言するという現実がある事を考慮すると、衆議院ないし参議院においてすべての議員を全国1区による全国区ないし比例代表制による選出をするということについては同意はできない。少数代表制を唱える論者の多くは比例代表論者が多く、また、選挙区については広い形で行うことが望ましいと考える傾向にあるが、都市に集中する形でインフラや経済システムが動く傾向にある政治において、地方の立場から国政を考える意見を反映させることも、民意の表れであると考える。
東京都議会では、伊豆七島・小笠原諸島で構成される島しょ部を一つの選挙区とし、一票の格差の例外として都議を選出するようにしている。これは物理的な多数決による選挙区割を行うと、都政において島しょの意見が反映されずらくなることを防ぐための措置である。島しょ選挙区の例は例外的な扱いであるとしても、国会議員を選出する制度を設計にあたっては、大都市偏重になりやすい政治が行われないよう、過疎化が進む地方、農村部からの意見を反映させるべく、地方代表の選出が行える選挙制度にするべきだろう。
選挙活動のあり方をどのようにするべきか
また、選挙制度を設計するにあたっては、選挙活動のあり方を定める公職選挙法をどのように規定するかという観点も大切である。現在の公職選挙法は「べからず集」と呼ばれるくらい選挙における規制が多く、選挙に精通した専門家がいない限り、一般の市民が立候補してもまともな選挙活動ができない仕組みになっている。
例えば、選挙における買収を防ぐためとして、選挙期間中の立候補者の戸別訪問が禁止されているが、親族、関係者による個別訪問は禁止されていないために、親族、関係者が有権者との間でカネのやり取りを行うことも可能である。もちろん、現実問題として、親族、関係者がカネのやり取りを行った場合は露骨に買収とわかるので、巧妙なやり方として後援会関係者が仕事の依頼という名目で、支持をしてくれそうな相手を対象にカネを渡すといったグレーなやり方がある。いずれにしても、立候補者の戸別訪問禁止をしても、選挙にまつわるカネの問題を防ぐという点では効果は薄いということがわかる。
その一方で、東京都知事選挙で立花孝志が行った立候補者の乱立による掲示板の販売といった選挙を名目にした商売行為(※8)、出直し兵庫県知事選挙におけるSNSでのデマ、中傷(※9)など、民主主義の根幹たる選挙自体の正当性が危ぶまれる行為が放置されている状況にある。公職選挙法自体が既得権益にある政治家のやりやすい形で選挙活動を行うかという観点から制定されているため、新しい状況への対応が遅れがちになっていることの表れと言えよう。
以上からすると、選挙制度を改めるにあたっては公職選挙法のあり方自体も併せて議論されないといけないことがわかる。そこで、選挙制度改革試案にあたっては、衆議院、参議院のみならず公職選挙法の改正に対する提言を行いたいと考えている。このテーマについては特に、皆さんの意見を賜りたくよろしくお願い申し上げたい。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
脚注
(※1) 2025年1月7日 東京新聞 朝刊 P2
(※2) 1956年の鳩山内閣の小選挙区区割り案(通称ハトマンダー)
(※3) カクマンダー - Wikipedia
(※4) 政治改革4法(せいじかいかくよんほう)とは? 意味や使い方 - コトバンク
(※5) 2025年1月8日 東京新聞 朝刊 社説 P52
(※6) 石破氏、参院選合区導入にあらためて苦言 - 日本経済新聞2016年1月2日 22:34
「裏金議員」公認、適切に判断 能登大雨、予備費で対応―自民・石破新総裁会見:時事ドットコム2024年9月27日21:22
(※7) 政治に対する雑感12-選挙制度神話2-|宴は終わったが
政治に対する雑感13-選挙制度神話3(前編)- | 記事編集 | note
政治に対する雑感13-選挙制度神話3(後編)- | 記事編集 | note
(※8) NHK党のポスター枠「販売」いいの? 都知事選に大量擁立の立花孝志党首 法の抜け穴突く「荒稼ぎ作戦」:東京新聞デジタル
(※9) 斎藤元彦知事 SNS選挙 拡散した理由は?投稿を分析 兵庫県知事選挙で何が?テレビ・新聞よりYouTube・SNS? | NHK | IT・ネット
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