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刑事事件関連の人権についての雑感-受刑者は市民権がないのか-


受刑者に選挙権がない事実

 年末年始、たまっていた新聞の記事の切り抜きを行い、記事を改めて整理した。その整理の際に目に留まった記事があった。日本の受刑者に選挙権が認められていないことの問題点を指摘したものである。(※1)

 昨年、袴田巌さんの無罪が確定したことに伴い、市民権回復の象徴として10月に行われた衆議院選挙の投票所に足を運んだことを記事にしたが、(※2)私はその際に受刑者の選挙権が制限されていることの問題点までは考えていなかった。自身の受刑者に対する人権意識が不十分であったことを改めて知らされた次第である。

 受刑者の選挙権を巡っては元受刑者が裁判で合憲性争った事例があり、ほとんどのケースで合憲となっている。だが、2013年の大阪高裁では受刑者の選挙権を認めない現行の公職選挙法の規定について違憲判決が出ている。(※3)

2013年大阪高裁判決

 同判決では被選挙権については、「公職に就任するための資格であるという性質それ自体においても、選挙活動を行う必要がある点においても、刑事施設に収容中の者が行使することは困難であるから、公職選挙法が 受刑者に対して被選挙権の行使を制限していることについてはやむを得ない理由があるというべきであり、違憲で」はないとして、違憲性を否定した。

 ただ、選挙権については、憲法第43条1項に国会がすべての国民を代表する議員で構成されていること、同第15条1項に公務員を選定する権利を国民が有していること、同条3項に普通選挙の保障、同第44条但し書きで選挙人の資格について人種、信条、社会的身分などによって差別されてはならないとあり、憲法の趣旨からすれば選挙の公正性に反する行為をした者(公職選挙法違反に関する者など)(※4)を除けば、「制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、(略)選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反する」とした2005年の最高裁判決を踏まえた上で、受刑者の選挙権について次のように述べている。

受刑者は著しく遵法精神に欠け、公正な選挙権の行使を期待できないとの点

(受刑者の)刑の根拠となった犯罪行為の内容もさまざまで、選挙権の行使とは無関係な犯罪が大多数であると考えられる。そうすると、単に受刑者であるということのみから、直ちにその者が著しく遵法精神に欠け、公正な選挙権の行使を期待できないとすることはできない。(太字は筆者補足)

平成25年(行コ)第45号 選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件(2013年9月27日大阪高裁判決)

受刑者であることそれ自体が選挙権を制限すべき事由に該当するとの点

 犯罪を犯して実刑に処せられたということにより、一律に公民権をも剥奪されなければならないとする合理的根拠はなく、平成17年最判が選挙権制限の例外を選挙犯罪の場合に限定した趣旨に照らしても、受刑者であることそれ自体により選挙権を制限することは許されないというべきである。

平成25年(行コ)第45号 選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件(2013年9月27日大阪高裁判決)

として、受刑者であることだけを理由に選挙権を制限することそれ自体には合理性がなく、遵法精神、公正な選挙権の行使ができないとする考え方を明確に否定している。2013年の大阪高裁判決は、受刑者は違法行為をした者であるから選挙権をまともに行使できず、また受刑者は市民権をはく奪されて当然であり選挙権の行使などあってはならないとする、私たちの中にある受刑者に対する差別、偏見がある事を改めて示したものであると言える。

受刑者の選挙権に関する動き

日弁連の見解

 日弁連は2020年3月、受刑者の選挙権を制限する公職選挙法の現行規定改正を求める意見書を出している。(※5)同意見書では、公職選挙法違反者、公務員に関する収賄関係の罪に問われた者など以外の受刑者の選挙権を制限することは、憲法の主権在民、両議院の議員に投票する権利、投票する機会の平等、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」における選挙権の保障、被拘禁者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇に反するとしている。

諸外国の動き

 スウェーデン、デンマーク、オランダ、スイスなどで拘置中の受刑者への普通選挙が原則として認められている。(※6)また、カナダ、南アフリカが違憲判決を経て受刑者が選挙権を獲得する(※7)など、受刑者の選挙権制限を撤廃する動きが出ている。

当事者の想い

 冒頭で言及した新聞記事には受刑者、仮釈放中受刑者の選挙権について語った場面があり、ここに紹介したい。詐欺容疑で服役中の受刑者の選挙権がないことについて東京地裁に提訴した際、肉親からは犯罪者に選挙権はないと言われたものの、提訴を知った受刑者からは激励されたという。(※8)また、仮釈放中の受刑者は選挙権がないことについて次のように語った。

 「仮釈放になっても、民主主義に参加する権利は剥奪されたまま。言えた立場ではないが、投票させてもらえた方が、逆に社会に責任が持てる。私たちに選ばれたくないのだろうが・・・」

東京新聞 2024年11月14日 朝刊 P21

犯罪者というレッテル

 今回の受刑者の選挙権に関する問題は、私たちが、受刑者、元受刑者、仮釈放者を人間扱いしないか、人間扱いしないまではいかないものの、私たちと異なる異質な存在とみなし、スティグマを押し続けていることを認識させられた。しかし、受刑者を犯罪者として異質な存在とみなすことが、余計に私たちと彼・彼女(以下「彼ら」)らとの間に壁をつくり続けることになるのではないか。罪を犯した者が社会から隔絶され孤立した際に、彼らを受け入れるのは犯罪に加担する反社会組織以外にはないという状況にある。犯罪者は社会から抹殺されるしかないという発想は、究極的には社会から物理的にも抹殺する生命刑である死刑の肯定とも関係しているのではないか。

 私たちは安易に多元的な社会とか、価値観の多様性という言葉を口にする。だが、本当の意味での多元的な社会とは、私たちの中に潜む自分たちに都合が悪いとみなす存在を否定しないこと、その人たちとどのような対話の糸口を探るべく模索し続けることにある。受刑者の人権問題はその意味で私たち自身の問題である。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 東京新聞 2024年11月14日 朝刊 P21 

東京新聞2024年12月12日 朝刊 P18~P19

(※2) 袴田巌さんの無罪確定に想うこと|宴は終わったが

(※3) 平成25年(行コ)第45号 選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件(2013年9月27日大阪高裁判決)

(※4) 公職選挙法の内容自体に対する問題点については、過去のnote記事で何度か取り上げているが、話が複雑になるため、ここでは受刑者の選挙権の問題に限定して取り上げる。

(※5) 日本弁護士連合会 受刑者の選挙権に関する意見書(2020年3月18日)

(※6) (※5) 同

(※7) (※5) 同

東京新聞2024年12月12日 前掲

(※8) 東京新聞2024年12月12日 前掲


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