絶縁したあなたへ。
高1の時、初めて人と「絶縁する」という経験をした。
当時、私にとって1番大切な友人で、1番憎い人だった。
ポニーテールが可愛い、背の小さな友人だった。背の小ささに反して、口はいつでも大きかった。自分の信念があって、それを絶対に曲げない人。頭が良くて、運動が出来て、性格は全然良くなかった。
当時好きなものが一緒で知り合ったのをきっかけに、仲良くなれるはずだった。彼女のカリスマに取り憑かれた同級生が、彼女を囲んでいた。同じグループで、対等に話せる筈だった私はその空気に一気に飲み込まれ、激しい疎外感を抱いた。
もういい。それが、私が彼女に初めて抱いたマイナスの感情だった。私にはないものを持っている彼女が憎らしくて。教室の隅っこで病んでポエム書いてるような自分のことなんて分かってくれないだろうし。周りもそうなんだ。と、孤立した私に、手を差し伸べてくれたのも彼女だった。
あなたに興味がある。あなたと仲良くなりたいと思っている。そう言ってくれた彼女の眩しさに、私は頷いた。
入院生活を送っていた頃、唯一電話したのは彼女。
はじめてお揃いのパーカーを買ったのも彼女。
彼女が私にくれたのは人生経験だった。やったことないこと。まだ知らないもの。次から次へと持ってきては、私に教えてくれた。眩しくて、輝いていた。新しい世界に一歩を踏み出して…その景色が、ぐらりと歪んでいった。
彼女が私にくれたのは損失だった。繋がったTwitterの裏垢、DMで何時間も、連日激しい口論を繰り広げていた。私たちは依存し切っていた。お前が死ぬなら私も死ぬ、じゃあ死ねば。彼女が真冬、薄着で家を飛び出したと書き込んだ日、泣きながらメッセージを連投した。説得なんて頭にも浮かばなかった。私は明日どうやって死のうかと思いながら、茫然自失の眠りについた。
彼女が小説の投稿をするというから、私もしてみた。
彼女がリスカしていたから、私もしてみた。
私が彼女に与えたものはパッと思い浮かばないが、部活という点では一つ挙げられるものがある。
彼女は、もともと居た部活の次期部長を任命されながらも、私が楽しそうにしているから、と言って私が居た部活と兼部するようになった。
私の部活はとにかく忙しく、連日最終下校まで練習があったが、弱音一つも吐かずに頑張っていた。本番が成功した後、珍しく泣いていた彼女の姿に吃驚して声も出なかったことが今でも脳裏に浮かぶことがある。
何度も喧嘩して、仲直りを繰り返すうち、中学での生活が流れるように過ぎて。同じ高校に進学すると分かってはいたけれど、私にはどうしてもカタをつけなければならないことがあった。
夕方の廊下、二人で侵入禁止の屋上扉前で写真を撮った日、私は彼女に、もしかして恋愛感情があるかもしれない、と話した。今思えばそれは気の迷いなのだけれど、彼女にとっての私が一番であって欲しいと思ったからそうせざるを得なかったのだろう。
「私にとって、あなたは一番じゃないよ。」そんなことは分かっている。でも、悪戯っぽく笑った彼女が狡くて、許せなかった。
そんな彼女が、高校になって急に鬱陶しくなった。
多分、彼女も私のことが鬱陶しかった。
一貫して冷たかった彼女はまず、私の悪口をTwitterに投稿した。将来
フラフラ悩む私をバカにする投稿だった。両親との確執も相まって、そこから私は自分の未来について考えるのがトラウマになってしまった。みんな悩むなんて当たり前の筈なのに、「無責任で滑稽」だと詰られて。どう生きてもそれが嘲笑われているかのような恐怖に心臓を握られた。
見ないでと言われて、じゃあなんで私と繋がっているところでやったんだと、あてのない怒りを覚えた。私も彼女の悪口を投稿した。今までみたいな真似っこだった。ずっと憧れてきた彼女の、真似っこだった。
決定打は、私との遊びの予定を振り切って、他の人と遊びに行った…なんて、しょうもない理由。
水が並々に溜まったコップに注がれた、最後の一滴だった。
そこからは酷くて、もうほとんど記憶がない。
気づけば私は彼女にTwitterをブロックされていて、インスタも多分されていて、LINEも消えていた。
Twitterのログを見れば、私が何をして、彼女が何をしたのか分かるんだろうけど、今更そんなことをしても無意味だった。学校で彼女とすれ違うたび気まずい思いをした、そんなことを思っているのも私だけだと分かりきっていた。憧れているのは私だけだった。
彼女にとっての私は、ただ人間データのサンプルに過ぎなかったのだ。
今でも不快になる。多分、私と彼女の罪は五分五分で、自認がそうであるなら実際はもっと私が悪いのだろうと思った。相手にどんな罪があろうと、私はそれを赦せない私のことが悔しかった。だから見ないフリをしていた。
高校を卒業して、もう私は彼女に二度と会うことはないだろう。それが少し誇らしくさえあった。また彼女に、間違って触れてしまったりしたら、そこから自分という感覚が解けて無くなる思いをするところだった。
だからこそ、私は伝えられなかった「その後の私」を、そっと書き置くことにした。
私があなたと絶縁したのは、一時の気の迷いでも、他に連む人が出来たからでもない。
本当は事故で数ヶ月入院することになったあなたが元気にしているか不安だったけれど、それを隠し続けて、ずっと心無い言葉で気を晴らしていた。高校最後の大切な文化祭も体育祭も満足に参加出来なかったあなたが、あの日掲示板の隣で「私冷笑勢だから」と笑いながら話しているのを聞いて、背筋が凍る思いがした。あの日、「私の中のあなたはもういないんだね」と言った私に、「それはただの押し付けだ」と返したあなただけれど、人の努力を鼻で笑って楽しいなんて馬鹿な真似を、あなたがする理由がずっとわからない。あなたは誰よりも努力しているのに、どうして自分の努力で満足出来ないの。どうして、周りを見ないと気が済まないの。ずっと引っ掛かっている。私もあなたの真似事をし続けたせいで、ずっとそれに苦しんでいた。
でも。
現実には絶対にあり得ないグロさとか、ホラーとか、見るだけで怖くて意味がわからないって馬鹿にして、それがあなたの感性を否定してたことにも気づけない馬鹿な私だったけど。
今、そういう話が好きになって、はじめて気づいた。暗闇の中にしかない光の美しさに、やっと気づけた。
あなたの感性やカリスマはゾッとするほど怖くて綺麗だから、本物だと認めてくれる人がたくさん増えたらいいなと思う。
あなたはもっと認められるべき人だよ。私はあなたを認めないけど。
二度と関わりたくない、素敵なあなたへ。
ありがとう。
【追記】
後日談。
このエッセイを書いて眠りについた後、彼女が私にプレゼントをくれる夢を見た。
「ずっと仲直りしたかった」と抱きついて泣く私を、俯瞰的に見ていた。その後、帰り道に有り得ない出来事が起きて、すぐ夢だと気づいてしまった。
