映画『Summer of 85』 最期にダヴィドは一体何を思った?
映画『Summer of 85』
16歳のアレックスは、海で船が転覆した所を18歳のダヴィドに助けられたことがきっかけで親友になる。その後、急速に距離を縮め、やがて親友以上の関係へと発展する。そして、彼らはある誓いを立てる。
『どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る』
私が今回着目したのはダヴィド。ダヴィドは一言で言い表すと、「危うさ」の塊のような青年。陽気で誰にでも愛想がよく、人助けが好きでお人好しなダヴィド。一方で軽率さもあって、わりと八方美人なタイプ。この映画を最後まで観て、危険を省みない、ある意味扁桃体がどうにかなっている彼の行動というのには、きちんと理由があったのだと理解した。
アレックスはダヴィドに、「一途で誠実で自分だけを見てくれるダヴィド」であってほしいと願っている。イギリス人の友人ケイトが指摘したように、アレックスはずっと理想の親友像(恋人像)でダヴィドを見ていた。でもダヴィドは「自由気ままに色んな人と付き合いを楽しみたい。束縛は好きじゃない」。そんなタイプ。だからアレックスという親友兼恋人がいても、平気で他の人間と関係を持つし、それを悪いとはあまり思っていなさそう。
一見、「ダヴィドって本当にアレックスが好きだったの?」と思うかもしれない。
私は、ダヴィドはアレックスを愛していたと確信している。
ダヴィドを見ていて終始、彼は感情をひた隠しにする人間に感じた。要するにミステリアス。アレックスがダヴィドの行動に対して露骨に嫌な顔をしても、ものすごく真面目に話をしていても、ヘラヘラしてまともに取り合わない。それに、どこまでが冗談でどこからが本音なのかが分からないような話し方をする。これはダヴィドの思慮が浅いわけでも、ノンデリというわけでもなく、彼はアレックスの不満にちゃーんと気付いていて、わざと笑顔を貼り付けて本心を隠しているだけだと思う。
ダヴィドはわざと危険に突っ込んでいく。バイクでとんでもなく飛ばして蛇行運転をしたり、進んで殴り合いの喧嘩に出たりと、彼の行動には常に危うさが伴う。父親が死んでから素行が悪くなったようなので、ダヴィドにとって父の存在は想像以上に大きなものだったのではないだろうか?作中ではそこまで大きく触れられていないが、その可能性が高い。
それに、なんというか、ダヴィドの母親の異常性を感じたので余計にそう思った。息子と同年代とはいえ、初対面の16歳の少年の服を、しかも下着まで脱がして局部をガン見するような母親はかなりヤバくないか?おまけに傾聴力皆無で落ち着きがなく、ややヒステリックさが見て取れる。意思疎通が図れているようで図れていない。"接客が苦手"というのも頷ける。到底、ダヴィドが本音を打ち明けられるような母親ではなかったのだろう。ダヴィドの母への態度も、なんだか上辺だけのように感じた。
ダヴィドは、そんな母親との約束も、アレックスとの約束も基本的に守らない。気まぐれで愛情を与えて相手を繋ぎ止めるタイプ。そう、ダヴィドは不誠実だ。約束は守らないのに「誓い」を提案するのはダヴィド。一方でアレックスは彼との誓いを無我夢中で果たそうとする。そこに彼の誠実さを感じた。彼らは対照的だ。
アレックスはダヴィド一筋で誠実ながら、ダヴィドが死ぬまで、彼の抱える自殺願望に気付けなかったのではないだろうか?危険を顧みない様子に不安や戸惑いはあっても、理想(誠実さ)をダヴィドに求めるあまり、自分を残して自死を選ぶなんて不誠実な行動を彼がとる筈がないと、いや、そんな疑いさえも抱いていなかったのだろう。アレックスが理想を押し付けず、ダヴィドをフラットに観察し、彼の危うさ(不誠実さ)をもっと早く深く察することができていたなら、二人の結末は変わっていたのかもしれない。
それでもダヴィドはダヴィドなりにアレックスを大切に想っていて、彼の「飽きた」という残酷な発言や不誠実な行いが表すものは、100%そのままの意味だとは捉え難い。彼自身、自分の危うさをきちんと理解していて、それによりアレックスを傷つけていることも分かっている。そもそもそれはわざと自分からアレックスを遠ざけるための、意図的に行われたものだろうし、これ以上彼を自身のカオスに巻き込みたくないという気持ちがあったのだと思う。半ば自暴自棄になってヤケクソ状態の自分からアレックスを遠ざけるために、そしてきちんと嫌われるために、わざと酷いことを言った可能性が高い。
アレックスもまた似たような危うさを抱えていることを、ダヴィドはちゃんと気付いていたのだ。
アレックスのことが好きだというダヴィドの気持ちは正真正銘本物で、その想いは「彼を呼び止める」という形となって表れた。自分から離れてほしいけど離れてほしくない。きっとそんなせめぎ合う気持ちがあったのだろう。
だからアレックスをバイクで追いかけながら、ダヴィドは彼を諦めた。
『僕と別れた喜びでスピードの彼方へ突き進んだ』
アレックスがダヴィドの死を言い表したこの言葉。これが全てだ。
ダヴィドは、愛するアレックスをぼろぼろに傷つけ、ちゃんと決別できて、もう思い残すことはなくなった。アレックスはダヴィドの元から去った。それが嬉しくて嬉しくて悲しくて、アレックスの側から、そして生きることから卒業してしまった。
最期、ヘルメットも着けず、タンクトップで駆け抜けるダヴィドが脳に焼き付いている。そこに、死の間際の"解放"を感じた。
そして、アレックスは彼の墓の上でついに誓いを果たす。
そこに至るまでのアレックスの、
【ショック、否認】→【怒り】→【抑うつ、悲しみ】 →【受容】
の心理変化がしっかりと描写されている。彼は激しく自分を責めながらもケイトの助けを借り、やがてダヴィドの死を受け入れ、新たな出会いを大切に、彼の人生の再スタートをきるのだ。
ダヴィドがなぜ死を選んだかは分からないし、そこには彼にしか分からない、もう決して明かされることのない秘密があるのだろう。秘密主義なダヴィドのことだから、きっとある。彼の行いは不誠実だったかもしれないけれど、本当にアレックスを大切に想っていたと思う。アレックスへの想いだけは本物だった。
これは、ダヴィドが自分の命を捧げて愛を証明した、そんな物語のように思う。
↓↓↓プライムビデオ『Summer of 85』

