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【毎週ショートショートnote裏】俊敏ポルチーニ茸

俊敏なポルチーニがこちらへ駆けてきた。背後からは包丁を握ったコックが必死の形相で追いかけてくる。

「お前も早く逃げろ。捕まったら料理されるぞ」

僕の横をすり抜けざま、ポルチーニは耳元でささやいた。状況を理解できず立ち尽くす僕の肩を励ますように叩くと、彼はあっという間に走り去っていった。

直後に追いついたコックが息を切らしながら言う。
「手伝ってくれないか。あれ、今夜のメインの食材なんだ」
断る理由も見つからず、僕はコックと並んで走り出した。

走りながら、肩のあたりがむずむずと痒むのが気になった。何気なく触れてみると肉は妙に柔らかく、指先で搔くとほろりと欠け落ちた。
その欠片から漂ってくるのは濃厚なポルチーニの香り。
ーーー嫌な予感が胸をよぎる。意識してみると、肩から胸、胸から腹へと、じわじわ自分が茸へと変わっていくのがわかった。
汗とともに芳しい匂いが立ち上る。

「匂いがしてきたぞ。奴は近いな」

コックが嬉しそうに言う。
その言い様があまりに嬉しそうで、ばれたら次は僕の番だと確信してしまう。逃げたいのに足は止まらず、追う側と追われる側の境界が曖昧になっていく。
自分の正体を隠そうと身をよじりながら、僕はただ走り続けた。誰を捕まえようとしているのか、もはやそれすらわからないままーーー。

(537文字)


*この記事は下記企画に参加しています*

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