【片想い文芸部】あざとい
あざといあの子が好きだった。
誰にでも笑って、ちょっとした言葉にも過剰にリアクションを返す。
それが計算だとわかっていても、気づけば目で追ってしまう。
たぶん恋だった。きっと、この先も実らない片想いだけれども。
それでも、あの子のそばにいたかった。
同じものを見て、同じことを感じてみたいと思った。
そのために、同じ目線で世界を見るために、わたしはあの子をよくよく観察した。
服の好みに、髪のまとめ方。笑うときの目元、食べ物を口に運ぶときの仕草。会話の間。言葉選び。
眼球をレンズにして、脳に録画するように。少しずつ吸い取るように、取り込んでいった。
しばらくして、「なんか似てるね」と言われるようになった。
「双子みたい」と、笑いながら言われた日には、胸が跳ねた。
それはまるで、あの子に近づけた証のように思えたから。
あの子が読んでいる本、聴いている音楽。SNSのフォローに、「かわいい」と言ったもの。
同じケーキを注文し、カメラの角度を揃えた写真を撮る。
わたしとあの子の境界は、少しずつ曖昧になっていった。
それなのに。
ある朝、教室に行くと、あの子の机がなかった。
誰もが「急な転校だね」と言うだけで、理由を語ろうとはしなかった。
わたしは、なにも知らされていなかった。
その日は、帰りのチャイムが鳴っても、身体が動かなかった。
誰もいなくなった教室に、わたしだけが取り残されている。
カーテンがゆらゆら揺れている。
教室の窓は西に向いていて、夕日が斜めに差し込んでいた。
ぼんやりと、外に目を向ける。
目線を少しだけ動かすと、そこにあの子が映っていた。
窓ガラスの中。夕焼けを背に、制服の襟が揺れている。
その角度も、たたずまいも、完璧だった。
にこりと笑いかけると、あの子も笑いかけてきてくれた。
損失感は消え、心は歓喜に包まれる。
ああ、そこにいたんだね。
ずっと、わたしの隣に。
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