構造で見る⑤ ソフトバンクG(9984)——なぜ”赤字企業”なのに株価は急騰するのか
ソフトバンクグループ(9984)——ストップ高。
+18%、1日で時価総額が5兆円以上増えた。
しかしこの会社は、過去に何度も巨額赤字を出している。
WeWork、投資先の評価損、数兆円規模の最終赤字。
「赤字企業」のイメージは、いまだに根強い。
それでも株価は上がり続けている。なぜか。
答えは、この会社が”事業会社”ではないからだ。
PERでは読めない会社
ソフトバンクGは一般的な事業会社ではない。
ARMやVision Fundを抱える投資持株会社だ。
トヨタや日清のように「モノを売って利益を出す」構造ではない。
保有する企業の株式価値が上がれば利益、下がれば赤字。
そのため、利益は株価評価や投資先の価値変動で大きく上下する。
Q3累計の純利益は3兆1,727億円(前年比+399%)。
しかしこの数字の大半は、OpenAIへの出資に伴う投資利益だ。
つまり、PERで見ても意味がない。
利益の中身が「本業の稼ぎ」ではなく「保有資産の値動き」だからだ。
この会社を読む道具——NAV
ソフトバンクGを読むには、**NAV(Net Asset Value=純資産価値)**を使う。
仕組みはシンプルだ。
保有する全資産の時価を足し、負債を引く。
残った金額が、会社の「本当の値段」。
NAVの中身を分解すると:
ARM(約9割保有):AI半導体設計の中核。時価総額は約25兆円規模
SVF(Vision Fund):投資残高20兆円超。OpenAI、Coupangなど
ソフトバンク(通信):安定キャッシュフローの基盤
T-Mobile:米国通信大手の株式を保有
市場は「今の利益」ではなく、このポートフォリオの将来価値を買っている。
なぜ今、ストップ高なのか
直接のきっかけは、ARMの決算だ。
ARMの2026年度Q4(1-3月)は売上・利益ともに市場予想を上回った。
AI向けCPU「AGGI」への需要が急拡大し、2027-28年で20億ドル超の売上を見込む。
データセンター向けCPUシェアは約50%に到達した。
ソフトバンクGがARMの約9割を保有している以上、ARMの価値上昇はそのままNAVの上昇に直結する。
加えて、OpenAIへの最大400億ドルの追加出資も合意済み。
AI領域への集中投資が、市場の期待をさらに押し上げている。
3つの構造で整理する
① 業績構造
Q3累計で純利益3.17兆円と見かけ上は絶好調。
ただし中身は投資評価益が大半。事業利益で見ると通信子会社のソフトバンク(9434)が安定収益を稼いでいる。
業績は「読む対象」ではなく「結果として動く数字」。
② 評価構造
PERは意味をなさない。NAVに対するディスカウント率が本質的な指標。
歴史的にSBGはNAVに対して20-40%のディスカウントで取引されてきた。
ディスカウント率が縮小すれば、利益が変わらなくても株価は上がる。
③ 需給構造
ARM好決算→海外投資家の買い。ストップ高で売りたい人が売れず、翌日以降に買い需要が溢れる構造。
出来高が急増している局面では、短期の需給が株価を大きく動かす。
“赤字企業”という誤解の構造
ソフトバンクGが「赤字だから危ない」と言われるとき、それは事業会社の尺度で投資会社を測っている。
トヨタの赤字とソフトバンクGの赤字は、意味がまったく違う。
トヨタの赤字は「車が売れなかった」。
ソフトバンクGの赤字は「保有株が値下がりした」。
保有株が戻れば、翌期には数兆円の黒字になる。実際にそうなってきた。
「赤字か黒字か」ではなく、「何を持っていて、それがいくらか」。
これがSBGを読む唯一の構造だ。
5月13日の決算で見るべきこと
通期の着地数字そのものより、以下の3点に注目したい。
① NAVの最新値
ARM株価の上昇がどこまでNAVに反映されるか。
② OpenAI出資の進捗
400億ドルの出資スケジュールと評価方法。
③ 来期の投資方針
AI・ロボティクスへの追加投資計画。Stargate構想の具体化。
利益の数字より、「何に、いくら賭けているか」が市場の判断材料になる。
決算発表後に、結果を踏まえた分析を更新する予定だ。
本記事は企業分析および投資教育を目的とした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資判断はご自身の責任でお願いします。
記載のデータは2026年5月7日時点の終値および公開情報に基づきます。

