【9】【完結】「傷つきやすい私に届いた、やさしい味」
ゆかちゃん屋台ソフトクリームの魔法シリーズ
ー第9話「傷つきやすい私に届いた、やさしい味」
夕暮れの街角。ゆかちゃんのソフトクリーム屋台の小さな灯りが、ぽっと灯る頃。
少し丸まった背中の女性が、ふらりと立ち止まった。
白いマスクの下からは、ほんの小さなため息。
手に持ったスマホの画面には、職場のグループチャットが開かれたままだった。
「気にしすぎだよ」「そんなの、いちいち気にしてたらやってけないよ」
軽い一言のはずなのに、ずっと胸の奥で重く響いていた。
「こんばんは。ソフトクリーム、いかがですか?」
ゆかちゃんの声が、やさしく響く。
女性は、少し驚いたように顔をあげた。
「……ください。バニラ、ひとつ。」
その声は、小さく震えていた。
ゆかちゃんは笑顔で、くるくるとソフトクリームを巻き上げる。
「大丈夫ですよ。ソフトクリームには、ちょっとした魔法がかかってますからね」
その言葉に、女性の目が少しだけ丸くなる。
受け取ったソフトクリームは、ほのかに甘い香りがして、ふっと心の緊張がほどけるようだった。
「ありがとうございます……」
震える声でつぶやきながら、一口。
冷たさと甘さが舌の上で溶けていくたび、胸の奥に溜まっていた涙の粒が、少しずつ溶けていく気がした。
「ああ、私、泣きたかったんだな」
気づけば、涙がひとすじ、頬をすべり落ちていた。
「……気にしすぎちゃう自分も、いいんだよね?」
心の中で、そっと問いかける。
答えなんて出ないけれど、ソフトクリームの甘さが、そっとその言葉を抱きしめてくれたような気がした。
帰り道、ソフトクリームを片手に歩くその背中は、少しだけ軽やかで、街灯に照らされながら、夜空を見上げた。
