効率化、生産性向上から感動経営へ
この30年間、スーパーマーケットはコンビニに抜かれ、今や地方スーパーはドラッグストアに買いまくられています。仕入れ、物流、精算の効率化など効率化一辺倒の経営は、確かに生産性向上に貢献したかもしれませんが、その土俵では、コンビニ、ドラックストアの後塵を拝することにあります。資金面、人材面、技術面すべてにおいて巨大金融資本が背後にいるドラッグストアに対抗できません。
効率化に対抗するのは「感動経営」です。「感動は、「思い」と「手間」の掛け算です。効率化や合理化ばかりが優先される現代において、対面販売や試食販売、実演販売など「一見無駄に見えるプロセス」こそが、お客の心を動かす唯一の方法なのです。
「思い」とは、相手を想像する力です。「思い」とは、単なる「やる気」ではなく、「相手が何を求めているか、どうすれば喜ぶか」を徹底的に想像し、自分の心に火を灯すことです。
まず、自分自身が感動しているか。提供する側が自分のほれ込んだ商品を仕入れ、どう提供したら伝わるのか、ワクワクしなければ、お客を感動させることができません。
次に「私ならこうされたい」の追求です。 マニュアルに従うのではなく、「自分だったらどうされたら嬉しいか、どんな言葉をかけられたら嬉しいか」という個人的な思いを起点にします。
「手間」とは、コスト度外視の丁寧さです。感動経営の真骨頂は、「手間をかけることを厭わない」姿勢にあります。ITやAIで自動化できる時代だからこそ、手のかかる行為が価値を持ちます。
昨年2025年12月21日にオープンしたバロー横浜下永谷店が開店後3ヶ月経った今もお客が絶えません。推定客数は4,000人。約300台の駐車場は週末になると満杯で、3階、4階の駐車場をつなぐ11人乗りのエレベータ2基は、買物を終えたお客の長蛇の列ができています。店内は300~400人のカートを押すお客でごった返しています。推定年商は45億円。部門別売上構成比は青果18%、鮮魚20%、精肉15%、惣菜5%、生鮮3品とデリカで58%と言ったところでしょうか。
バローが提唱する「デスティネーション・ストア(わざわざ目的地として選ばれる店)」においては、生鮮3品(精肉・鮮魚・青果)とデリカ(惣菜)を合わせた売上高構成比が50%を超えることを目標としているそうです。横浜下永谷店は、関東進出の「ショールーム」という役割を担っているらしいです。
オリジナルの鉄板ネタ(お客を惹きつける商品、カテゴリー)だけでなく、日本全国の繁盛店の鉄板ネタの見本市のような店舗です。
青果物の箱売り、FMB(フルーツ・ミックス・ボックス)、生フルーツを使ったスイーツ、地場野菜、対面水産プール、生簀販売、本鮪ブーメラン、サクセットのg売り、生ネタ寿司(鮮魚寿司)、鮮魚惣菜、漬魚、小田原港など近隣の漁港からの直送鮮魚、5等級の飛騨牛、自家製工場直送黒毛和牛ローストビーフ、牛タンローストビーフ、鹿児島黒豚、かしわめし、鶏モツ、飛騨牛コロッケ、名古屋めし、アップルパイ、ピザ(インストアベーカリー)、ご当地商品(山本屋煮込みうどん、栗きんとんタルト、オーカワパン、蓬莱渡辺酒造店など)です。
感動経営の一丁目一番地は、「真似て、真似て、真似倒して、本物を超えること」です。バロー系列のタチヤの社長・武田大輔氏は、「商売はシンプルな方が良い」と言って、余分なものを省略する売場づくりをしてきました。 チラシを打たない、加工を最小限にする、当日中に売り切る、18時には店を閉める。これにより余分な在庫コストや人件費を徹底的に省き、その分を商品価格に還元するモデルです。
ところが、バロー本体の横浜下永谷店では、生鮮各部門総出で売場に立ち、絶え間ないマイクセール、ほとんどの部門による試食販売、省略するのではなく付け加える経営に方針転換しています。
「本部が指示する」のではなく「各担当者が市場で目利きして仕入れ、自分で値付けして売る」という、商売の原点を重視している点はタチヤ流で一貫しています。
試食に関しては、青果では、パイン、輸入ブドウ、大学芋、鮮魚では、明太子、たらこ、惣菜では飛騨牛コロッケ、明太フランスなどです。
横浜下永谷店が「省略」ではなく「付け加える」経営に舵を切った理由は、主に以下の3点に集約されます。
① どうしたら関東勢を攻略できるか
かつてのバローは、標準化された売場と低価格を武器に成長してきましたが、オーケーやロピア、あおばといった強力な競合が台頭する中で、価格と効率だけの勝負では消耗戦に陥るリスクがあります。効率化のために「省略」してきた「専門性」や「活気」をあえて「付け加える」ことで、ライバル社が模倣しにくい生存領域の確立を目指しているのでしょう。
試食の実施や対面販売の人員配置は、単なるコスト増ではなく、ライバル店にない「感動体験」という付加価値を生むための投資と位置づけているのでしょう。
② 専門性の追求と鮮度感、ライブ感
スーパーマーケットは大型化すればするほど、生鮮品の規格化、標準化(マニュアル化)、単純化されます。規格化を推進すると、野菜は天候に左右されやすい露地物からハウス物、果物は完熟物より早獲り、鮮魚は天然物より養殖物、牛肉は和牛より、国産牛(交雑種牛)、輸入牛、豚肉は国産豚より輸入豚、ミンチは純生より解凍品などです。
標準化を推進すると、担当者の技量のバラツキが出る天然魚の姿盛りや生ネタを使った握り寿司、和牛の希少部位のステーキ盛合せ、焼肉盛合せ、厚さ4cmのメガステーキなどは売場に並べられなくなります。
単純化を推進すると、グレードは1つに統一されます。握り寿司の盛合せなら生本鮪、イクラ、ウニ、車海老など高級ネタが入った1貫当たり300円の「寿」、1貫当たり200円の「松」、1貫当たり170円の「竹」、1貫当たり140円の「梅」の4グレードを設定すると、「寿」商品がお客を惹き付け、「松」「竹」「梅」どれにしようかワクワクしながらお客は商品を選びます。
ところが、グレードを1つに統一すると、売れ残りリスクの少ない冷凍バチ鮪とたい、赤エビ、イカなど冷凍ネタを使った8貫入り980円(1貫当たり122円)だけの盛り上がらない売り場となるのです。
標準化を優先すると、高度な調理技術や商品知識が失われがちです。あえて人員を増やし、店内加工や対面販売を強化することで、職人的な「目利き」や「鮮度感」を売場に蘇らせようとしていると思われます。
オープンキッチンでの調理風景や、市場のような活気ある声掛けなどの「ライブ感」は、人員を割くからこそ可能になるのです。
③ 客単価と来店頻度の向上
ショートタイムショッピングを標榜する効率化された売場は買い物が早く済みますが、面白みがなく、「ついで買い」や「発見」が排除されます。
試食を増やすことで、商品の美味しさを直接お客に伝え、新品種の果物やオリジナル商品、組合せを変えた新しい食べ方の提案など購買意欲を高める期待があります。新しい商品との出会い、新しい美味しさの発見が「感動」を招くのです。
効率的なだけの店から、「あそこに行けば何か出会いがある、発見がある」と思ってくれると、食材調達の手段としてのスーパーマーケットが目的地(デスティネーション)に変わるのです。これがバロー横浜下永谷店の狙いだと確信しました。
店舗が位置する横浜市港南区下永谷を中心とした半径3km圏内の商圏データは、総人口:が約27万5,000人、世帯数: 約12万5,000世帯、人口密度: 約 8,820人/km²、横浜市内でも住宅街が密集する港南区、戸塚区、南区にまたがるエリアです。
半径10km圏内ともなると、総人口: 約230万人 〜 250万人、世帯数: 約100万世帯 〜 110万世帯、カバー範囲: 横浜市のほぼ全域に加え、鎌倉市、逗子市、藤沢市の一部までが含まれます。この圏内には、少なく見積もってもロピア約60店舗、オーケー約50店舗、あおば約30店舗あります。
物流の効率化を考えると、横浜下永谷店クラスの店舗がこの圏内に少なくても8店舗は出店するはずです。2026年2月、バローとホームセンター第3位のコーナン商事と資本業務提携しました。これにより、コーナン商事が新規開発する物件の2階にはバローが入居する可能性が一気に高まりました。コーナン京葉船橋インター店の2階には生鮮市場TOP !が入居し、売場面積640坪、年商45億円のTOP!の旗艦店舗です。駐車場は417台です。バローならいくら売るか。お客の心をつかむことができるか。興味深いところです。
いずれにせよ、バロー横浜下永谷店は、省略するのではなく付け加えることが地方スーパー再生のために有効な戦略であることが証明されたわけです
