「不滅の恋人」~音楽家を愛したふたり~
【概要】
この物語はベートーヴェンが
愛したとされ 長年謎に包まれた
「不滅の恋人」にまつわる
叙述的ラブロマンス…
3〜4人用
男性1人…♠️、(■)
女性2人…♥️、♢
【時代背景】
1800年代初頭 チェコの温泉地やウィーンなど
【登場人物】
〇ルードヴィヒ•ベートーヴェン…♠️
耳が聴こえなくなりつつある天才音楽家
孤独で情熱的 難聴による苦悩と
自身の身分にコンプレックスを抱えている
〇テレーゼ・マルファッティ…♥️
ベートーヴェンのピアノの教え子
貴族の娘でベートーヴェンに
尊敬以上の想いを寄せている
〇アントニー・ブレンターノ…♢
実業家の妻 既婚だが夫とは不仲であり
ベートーヴェンに心惹かれる女性
旧知の仲であるベートーヴェンと
チェコの温泉地で再会するが…
〇ナレーション…■
•♠️の後の()内は心情を表す感じで
•〈〉内は情景ですので 読まなくて良いです
•口調や言い回し 単語など
現代風に寄せてあります ご了承下さい
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〈貴族の屋敷にて…〉
♠️「よく耳を使いたまえ、
そう 鍵盤のタッチに
気を取られないよう。」
♥️「はい 先生。
……いかがでしたでしょうか?」
♠️「前より良くなっている 練習の
賜物であるが まだダイナミクスに
弱い部分があるようだ
威風堂々たる部分がね、
もう少し強弱を意識しつつ
耳を使って“音を旋律”にするのだ。」
♥️「わかりましたわ先生」
♠️「では、今日はここまで」
♥️「ありがとうございます先生、
ねぇ先生… このあとの
アフタヌーンティーに
ご一緒してくださるかしら…?」
♠️「む、お気遣いありがとう
だが 作曲が行き詰まっていてね
少しでもアトリエにいたいのだよ」
♥️「あらそう…残念だわ…。」
♠️「すまないテレーゼ
だが近いうちにお呼ばれしよう
次のレッスンまでに
課題をクリアしたら
ゆっくり付き合おうじゃないか」
♥️「まぁ本当に? 嬉しいわ!
きっとよ先生」
♠️「うむ、では失礼する」
♥️「ごきげんよう先生」
♠️(マルファッティ家をあとにする
軽い足取り…とまではいかない
やらなくてはいけない事は
山のようにある、だがしかし
私には音楽と言う拠り所と
可愛い教え子がいる限り
押しつぶされている暇なぞないのだ)
〈数日たち ふたたび貴族の屋敷にて〉
♥️「こうやってゆっくり先生と
お茶をいただくのも
久しぶりな気がしますわ」
♠️「本当だな なかなか自分では
お茶を淹れないから、
最近は喫茶店ばかり行くがね」
♥️「まぁ 喫茶店だなんて
素敵ですわ お一人で行かれるの?」
♠️「なぁに いつもマスターに
ツケで飲ませて貰っているのさ」
♥️「あら、うふふふ」
♥️「ねぇ先生 今度私も
先生と一緒に町を歩いてみたいわ」
♥️「先生がどんな生活をして
なにに触れているか見てみたいもの」
♠️「私と? テレーゼ、
君が思うほど 我々庶民の
暮らしぶりなんて物は
楽しいものではないよ」
♥️「まぁ どうして?」
♠️「んん、庶民の生活と君の暮らしとは
天と地ほどの差がある
近代化近代化と言うが
ナポレオン戦争の影響は
我々市民の生活にも影響している…」
♥️「先生…先生!」
♠️「ンむ、すまない
なんだったかな」
♥️「もぅ先生ったら!
…ねぇ先生?」
♠️「なんだね?」
♥️「先生って 誰かを
好きになる事がありまして?
好きな女性のタイプとか」
♠️「また藪から棒に
なんだってそんな事を」
♥️「私、気になりますの
教えて下さっても
良いじゃありませんか」
♠️「あんまり意識した事が無いなぁ
私の場合 小さい頃から
宮廷音楽家の父が家に常にいて
みっちりピアノの稽古をつけていたから
人に恋する時間などなかったからな」
♥️「あら そうだったのですね、
私もですわ先生」
♠️「君も?
君ほどの女性なら
たくさん候補が居そうなものだが?」
♥️「でも…それはお父様が選んだ
相手だったり 社交界のお友達だったり…
わたくし 自由に恋愛した事がありませんの」
♠️「なるほど 確かにな
自身の身分と言う
鳥籠(とりかこ)からは
我々は出ることは叶わない
そう言う時代なのかも知れんな」
♥️「でも先生、いつの時代も
“身分の垣根を越えた愛”も
確かにありましてよ」
♠️「周りからの反対を押し切り
二人は新天地へ逃避行…
ひとつ曲が書けそうだ」
♥️「はぐらかさないで下さいまし先生」
♠️「はぐらかしてなぞない
実に良いモチーフだ 曲として」
♥️「先生は音楽が本当に
好きなのですね
わたくし尊敬しますわ」
♠️「私には、昔からこれしかないのだ
自身から出てきた感情を
旋律にし 楽譜におこす
何度も何度も練り上げ
やっと仕上げる それも
人々に届くかどうかなど分からん」
♠️「だが私は死ぬまでやるのだ!
ペンが持てなくなろうが
耳が聴こえなくなろうが
やれるまでやってやる」
♥️「まぁ…そんな死ぬなんて…
そんな先生をわたくしは
お側で、」
♠️「さて そろそろ日が傾く
今日の所はお暇させていただくよ
お父上にもよろしくテレーゼ」
♥️「あっ、先生
…はぁ 本当にズルいわ…
でも あの人のお側に居られたら
どんなに幸せか…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
♠️「うぅぅ…クソッ
駄目だ、むう〜……!!」
♠️(日々の生活と仕事の両立の最中
私の耳はだいぶイカれてしまった
持病とは言え 嘆かわしい…
少しの暇(いとま)をもらい
療養すべくテプリッツェに来たが…)
〈温泉地テプリッツェ 東屋にて〉
♠️「夜風が気持ち良いな…
この心地良さを感じるには
五感を…耳がもう少し
音が、音を感じられたら…」
♢「どなたかいらっしゃるのですね…」
♠️「おや、これは失敬
あんまり夜風が気持ち良いので
長居していたようだ」
♢「いえ お邪魔致します、
隣、よろしくて?」
♠️「もちろんですとも」
♢「それでは遠慮なく…
あら…? …まぁ!」
♠️「いかがされましたかな?
…アントニー? アントニーじゃないか!」
♢「そうよルイ!
まぁ懐かしいわ
まさかこんな所で会えるなんて…」
♠️「神の気まぐれにもほどがあるな
しかし 息災でなによりだよ
元気そうだな君!」
♢「えぇ 昔に比べたら本当に、
ウィーンで父の遺品整理をしていた
あの頃が懐かしいわ…」
♠️「そうだったなぁ
あの頃君は身体を壊しがちで
よくベッドで横になっていたな」
♢「そうよ、そんな私に
あなたは家の窓を全開にして
寝ている私に毎日ピアノを
聴かせてくれたわね…」
♠️「お見舞いにも お邪魔したね
懐かしいな その後はどうしてたんだ?」
♢「それから私は商人と結婚したの
今や大実業家の妻よ」
♠️「そりゃあ素晴らしい
どおりで少し淑(しと)やかに
なったと思ったんだ」
♢「あらご挨拶だこと!
あなたは今は?」
♠️「今はな、貴族の子供たちに
ピアノを教えていたり
気ままに作曲しては
売り込んで生計を立てているよ」
♢「宮廷や教会へ持ち込まないのかしら?」
♠️「んまぁ…貴族との付き合いは
あるにはあるが…
宮廷や教会の連中と
つるむつもりはないんでね…」
♢「相変わらずなのね
でも安心したわ
何も変わってなさそうで」
♠️「まぁ実は
何も変わってないと言う
訳でも無いんだがな」
♢「えっ」
♠️「実はここを訪れたのも
療養しに来たのだ
私は今 耳が聴こえない」
♢「ええっ…!?」
♠️「だが心配いらない
多少は聴こえているからな
作曲や日常生活には
支障は、無い」
♢「そうだったのね…
あなたも大変だったのね」
♠️「まぁ私は親父が
宮廷音楽家だったが
酒好きの碌(ろく)でもない奴だったし
酷い生活には慣れてるよ」
♢「その話聞くのも久しぶりね
よく語り合ったものね」
♠️「だが今の自分のなすことに
なんら不満はないさ
不満があるとするならば
未だに貧困に目を向けない
政治屋の連中だとも」
♢「あらまぁ…うふふ」
♠️「ところで君は
ひとりかね
旦那さんと来たんだろ?」
♢「あぁ…それが
私ひとりなの」
♠️「おや、これは不躾だったな」
♢「ううん 良いの…
実を言うと夫とはあんまり…」
♠️「…そりが合わんのか」
♢「そう…優しいのは優しいの
だけれど時として 社交界とかだと
私を添え物か何かのように、
段々距離を感じるようになって…」
♠️「ほほぅ、貴族の嫁も
楽ではなんだな」
♢「ここへ来たのも 普段の生活から
リフレッシュしたくてね
そしたら貴方に会えて
びっくりしちゃった」
♠️「ははは!
私もだよアントニー
君は扉のノックする音が
聞こえたかね?」
♢「扉?どうして?」
♠️「かく運命とは、扉を叩くものだ!
タタタターン! とね。」
♢「あら!うふふふ…!」
♢「ねぇ…ルイ?」
♠️「どうしたんだねアントニー」
♢「もう少しその運命が
違っていたら 私達は
どうなっていたかしら…」
♠️「そうさなぁ…」
♢「あなたと一緒に居られたら と
考えた事もあったわ…」
♠️「私も、君と結ばれたらと
想い描く事は…あった」
♢「なら…そうならルイ…
今からでも遅くはない…」
♠️「アントニー…」
♢「私を貴方のものにして頂戴!
贅沢な暮らしなんて…
貴方と、貴方の生み出す音と
一緒に居られたら…」
♠️「アントニー…
気持ちは嬉しい だがな
君が去った後 君の旦那さんは
どう思うだろうか
悲しむかも知れない
あるいは 君を軽蔑するかも知れない
その方が私は辛いのだよ」
♢「ルイ…私は…。」
♠️「君はもう 他人のものなのだ
私は生まれこそ貧乏だが
人のものを奪い取るほど
落ちぶれちゃいないし
君を救い出すほどの
地位を持ち合わせちゃいない」
♢「ルイ…ルイ…!」
♠️「だが覚えていて欲しい
我々の想い出は永遠だ
二人が生きている限り
二人の仲を裂くものなどない
“想い出と音”は不滅なのだ」
♢「あぁ…ルイ
あなたって本当に…ズルいのね」
♠️「笑ってくれ
不慣れでな こう言う時
どうしたら良いのか分からんのだ」
♢「もぅ…あなたって人…
大嫌いなんだから…!」
♠️「ふふ、いつかまた会おう
元気でな アントニー」
♢「…いってしまったわ
愛してるわよ ルイ…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〈マルファッティ家にて〉
♠️「よし、だいぶ良いじゃないか
よく出来たな テレーゼ」
♥️「はい先生!」
♠️「だいぶ仕上がったな」
♥️「ふふ…、 ??」
♠️「うん?どうしたんだいテレーゼ
私の顔に なにか付いているかい」
♥️「先生…最近何かございませんでしたか
何か…良い事とか」
♠️「良い事…」
♥️「ゆっくり療養できたからかしら
いつもと、目が違いますわ
それに物腰が柔らかく感じられます」
♠️「特に…いや 療養中にな
昔の馴染みにばったり会ってな」
♥️「昔馴染み…それは
どういった方ですの」
♠️「いやなに ただの友人さ」
♥️「先生、良い事を教えて
差し上げますわ
“女の勘”は 当たるものですのよ…」
♠️「ん、どういう意味かな」
♥️「…御婦人でしたのね」
♠️「まぁその なんだ
本当に昔の友人なのだ
隠すつもりはない」
♥️「温泉地でばったり…」
♠️「不埒な事はしてないぞ」
♥️「そんな…!
ですが先生、ひょっとしたら
その方 先生に想いを寄せていたのでは」
♠️「また突飛な事を言うな
やましい事など何もないさ
確かに 心を通わせていたが」
♥️「やっぱり…その、先生…!」
♠️「テレーゼ 落ち着きなさい
私は何があっても君の師であり
君は私の可愛い生徒だ
それは揺らぐ事は無い」
♥️「私の知らない先生が居たって
これから知っていきたいですわ!
…私は先生を尊敬しています
作り上げる音楽も ピアノの音色も
生き方だって… 」
♠️「私は褒められるような者じゃない
だが君は生まれに恵まれていて
…まだ子供じゃないか」
♥️「子供扱いしないで下さいまし
このくらいになれば
人を愛する事を知る年齢ですわ…」
♠️「誰を愛するって?」
♥️「ベートーヴェン先生
あなたを、先生を愛しています」
♠️「テレーゼ…」
♥️「…ごめんなさい
困らせるつもりはありませんわ
ただ、知って欲しかったの
先生は厳しくも いつも優しいわ
だからこそわたくしは 常に不安だった…」
♠️「…すまないテレーゼ」
♥️「謝らないで下さいまし…
わかってましたの
先生は気高いお方 わたくしを
選ぶはずはないもの」
♠️「そんな事…!
…くっ 私は…」
♥️「前にお話しましたわよね
“身分の垣根を越えた愛”の話…
いつか貴方の想いが
なにかに昇華されるよう
祈ってますわ…」
♠️「君は…満足なのかね
私を我が物にする事も
君なら出来なくは無いだろう」
♥️「そこに何の意味がありましょう
死が二人を分かつまで、
先生の旋律をわたくしに
お側で聴かせてくださいまし…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
♠️「私は…私は…!」
♠️(世界中の音がかすれていく
それは耳のせいなのか
かき乱された心のせいなのか
私にもわからなかった)
♠️「私は…選択しなくては、ならない!
しかし 選択するには
何もかも遅く 足りないのだ!」
♥️(先生…あなたのお側に…)
♠️「あぁ、テレーゼ……!」
♠️(死に物狂いで足掻き
ざわつく心をなだめ
ペンを走らせる)
♠️「私には…これしかない
地位も資格も無い
だが、まだ心は枯れていない!」
♢(愛しているわ、ルイ…。)
♠️「アントニーよ……」
♠️(書いては消し
肉付けし また書き
想いを全て注ぐ
全神経を使い
出していくのだ…!)
♠️「私は!
ルートヴィヒ•ベートーヴェン!
神よ…!これが答えだ…!」
♠️(親愛なる我が天使へ
君は私の全てで
自我そのものだと
告白しなければならない
だが我々には
障害が多すぎる
神は越えられぬ試練は
与えないと言うが
我々を試すつもりだったようだ
運命が我々を試している
だが忘れないで欲しい
君は私の心に永遠に留まり
たとえ離れていても
精神はひとつなのだ
永遠に君のもの
永遠に私のもの
永遠に二人のもの…)
■ベートーヴェンの死後
「不滅の恋人」へ宛てたとして
ある手紙が発見された
内容は非常に情熱的で
ベートーヴェンが相手に
多大な恋愛感情を抱いていたのが
わかるものであった
がしかし、この手紙が
誰に向けた手紙なのか 実際に
送られた相手に読まれたのか
今でも謎に包まれているが
ベートーヴェンはこの熱き想いを
手紙にしたためる事で
胸の奥底に秘める事を選び
聴くものの心に訴えかけ
その熱情を想起させる
名曲を書き続けたのは
言うまでもないだろう
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【あとがき】
ここまでお読み下さった皆様
演じて下さった皆様
本当にありがとうございます✨
作曲ができて モテてた
恋多き側面のあったベートーヴェン
今作はそんなベートーヴェンが
「不滅の恋人」に宛てたとされる
とある手紙から着想を得て
書いてみた声劇であります!
果たして「不滅の恋人」とは
誰だったのか…実は今でも
不明でありますが 有力候補として
上がるのは【アントニー•ブレンターノ】
両思いであったけれど結婚した彼女
手紙の中の「障害」は 難聴による苦悩
身分違いによるもの 既婚者である事が
彼にとっての最大のものだったと
研究者たちは推測しているようです
作中に出てくるお嬢様
【テレーゼ・マルファッティ】
知り合いの貴族の娘でピアノを
教えていたと言うが
実は隅に置けないベートーヴェン
なんとこの娘に求婚していたらしい(!)
しかし こちらも身分違いの結婚と
周りからの反対があったらしく
愛が実ることはなかったそう…🥲
今作ではあまり 「耳が聞こえづらい」
と言う部分にフォーカスせず書きましたが
このころのベートーヴェンは
補聴器を使いながら生活や
長い棒を加え 先端をピアノに押し当て
振動を 直接体内に響かせながら
作曲活動していたぐらい
難聴は進行していたようで
筆談し始めたのも1800年代と言われています
一説によるとベートーヴェンは
「不滅の恋人」への手紙に想いを秘め
【交響曲第7番】を作曲したとされ
アントニーへの永遠の愛を音に刻み、
1807年【エリーゼのために】を作曲し
テレーゼに不動の愛を捧げたとされています
(諸説あり 確証はありませんが…)
天才音楽家であり
苦悩と愛に溢れていた男
ルートヴィヒ•ヴァン•ベートーヴェン
この機会に彼の普段見ない裏側を
調べてみてはいかがだろうか✨🤗
