「オリーブの木がある家」(54)ミラーレスカメラ(後編)
家電量販店から帰宅して、瞳は冷たい飲み物を用意する。蒼は先程もらったカメラのパンフレットを広げる。俊樹は蒼が話し始めるのを待っていた。
「お父さん、僕欲しいカメラ決まった。これなんだけど……。OM-D E-M10 MarkⅣ EZダブルズームキット」
「パンフレットにはオープン価格ってあるけど、この手書きの金額がさっきの店の販売価格だね」
「そう。約10万円なんだけど、いい?」
「エントリー機でもそれぐらいはすると思ってたから、大丈夫だよ」
蒼がスマホの画面を差し出して話し始める。
「お父さん、これ見て!通販会社の最安値が92,780円なんだ。ぜひ、ここで買ってください」
俊樹は瞳にもパンフレットとスマホ画面を見せる。
「蒼がずいぶん検討したみたいだから、これを買ってあげたいと思う。いいよね?」
「レンズ交換式カメラなんて、もっと高いと思ってたのよ。意外にリーズナブルで助かるわ。しかも、これレンズが2本付いてるのね」
「ぼくが単焦点レンズを欲しいって言ってたの、お父さんたち覚えてる?」
「もちろん。で、どうするの?」
「ぼくね、一学期の間にいろいろな被写体撮ったんだけど、今一番興味あるのが人物写真なんだ。昼休みとか放課後に、少し離れた場所から友だちを撮った写真が自分でも気に入ってる。被写体の友だちに見せたら『俺ってこんな顔してた?』って驚いてた」
「それはきっとほめ言葉よね」
「ぼくもそう感じた。それで、被写体の人物にあまりレンズを意識させないで撮れるレンズが欲しいと思ったんだ」
「それで中望遠なんだね」
「うん、選んだカメラがダブルズームキットだから、この2本でほとんどの画角はカバーできる。でも、もうワンランク上の写真を目指したくて。ぼくが欲しいレンズはM.ZUIKO DIGTAL ED 75mm F1.8だったんだけど、よく考えてみた。違うレンズにしようと思ってる」
「それはどうして?」
「一番の理由は値段。このレンズ、実勢価格が10万円を超えるんだ。自分のお年玉貯金でなんて言ったけど、お年玉って元々親や親戚の人たちからもらった不労所得だよね。写真始めたばかりの自分がそのお金使って、簡単に手に入れてはいけないレンズなんじゃないかって思えてきたんだ。それで、もっと手頃な価格の単焦点を見つけたんだ。M.ZUIKO ED 60mm F2.8 Macro。接写もできる中望遠レンズ、ぼく、これを買おうと思う。しかも、カメラショップの通販サイトで中古の美品を見つけたんだ。37,200円。まだ売り切れてないから、お父さん、これ注文してください。代金はぼくのお年玉貯金から引き出してもらっていいですか?」
「瞳は、どう思う?」
「どうもこうも……。蒼がしっかり自分の考えを話してくれたから、ビックリしちゃった。いいと思うわ」
「よし、じゃ、決まりだね。さっそく注文しよう」
