【創作大賞2025参加作・連載小説】夜は暗い ⑯
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オダ・アツが終わろうとしている。
私は島野へ電話をかけた。
西湘バイパスに乗るのか、それとも小田原方面を目指すのか?を訊きたかったからだ。
島野は中々電話を取らなかったが、12回目のコールで出た。
「どうした?」
「グネグネの山道登ってて、助手席のスマホを向こう側に落としちゃったのよ。運転しながらだと拾えなくて…停めれる場所を見つけたので、すぐに停めて、電話に出たという訳」
「山道?どこへ向かってるんだ」
「今は芦ノ湖方面へ向かって走ってるわ。だいぶ遠いけど、まだ見失ってはいない」
「分かった。車が止まったら、こっちに知らせてくれ。俺はもうすぐ西湘バイパスへ乗る」
「ええ?早くない?」
「早いさ。反吐が出そうな程な。まだ吐かずにいてられてるけど、おまじないしてないととっくに吐いてるところだ」
「おまじない?どんなおまじない?」
「目を瞑って、心の中で「どうか、吐きませんように」って、願うんだ」
「なんだ、まんまじゃない」
「そう、言うなよ。これでも効果覿面なんだ。お陰で今のところ吐いてない」
「ああそう。待って、BMWがいなくなった…多分左折してんだと思う。やっぱり芦ノ湖を目指してると思うわ」
「分かった。こっちもなるべく早く着くように頑張ってもらうよ」
電話を切った。
GT-Rは更に加速した。
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西湘バイパスを降りてからは、本当の地獄を見た気分だった。
バイパスの出口の信号が青に変わってから、箱根湯本の駅前までは1分もかからなかったのではないか?
そこから、徐々に細い山道になってゆき、次いでグネグネのカーブが続くようになっていった。
途中、信号が点滅している横断歩道が何か所かあったが、金次郎君は一切減速する事なく、横断歩道を通り抜けた。
登りの斜度が上がる。車はスピードを落とさない。一つのカーブを曲がる度に、私は道路をはみ出し、山肌へ向かって車が飛び出していくような錯覚をした。
いかん、これでは本当に「袋」の世話になってしまう。
本当は目を閉じるのも怖いのだが、頑張って強く目を瞑り、両手で三点ベルトの真ん中のバックルの辺りを握った。
目を瞑ってしまうと、聴覚と嗅覚が冴える。
後輪が派手に滑る音と、タイヤが焦げる匂い。
この匂いは私は苦手だ。
それにしても金次郎君は何もしゃべらない。
異常なスピードの中なので、私も彼に話しかけずらい。
気を紛らす方法がない。
いよいよ打つ手なしだ。
次のカーブを曲がり終えた時、私は袋を持った。
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驚かないで欲しい。
恐るべき事に、私の乗ったGT-Rは、箱根湯本駅前から芦の湖までをなんと21分で走破した。
私はグダグダになっていた。
自分で使った袋の中身を捨てに公衆便所へ寄ってもらった。
中身を捨て、袋は水洗いしてからゴミ箱に捨てた。
まだ息が荒い。
深呼吸して、息が整ってきてから、私は電子タバコを出し一本吸った。
運転席には金次郎君が待機しており、車は低い音でアイドリングしていた。
タバコを吸い終わると、話す気になった。だから私は島野へ電話した。
「まさか、もう着いたの?」
「そのまさかだよ。今、観光船の船着き場の駐車場前に車を停めている」
「私はBMWを見失ってて、芦ノ湖の周遊道路を走ってるところ」
「合流しよう。僕が運転するよ」
「ええ、大丈夫なの?昨夜、沢山飲んだって言ってなかったっけ?」
「大丈夫だ。さっき、全部抜けたよ」
「本当?」
「ああ、本当さ。すっかり全部吐いちまった」
「なるほど…じゃあそっちに向かうわ。Uターンして方が良さそうなので、5分程待って」
「分かった」
私はGT-Rへ戻った。
運転席の金次郎君の様子がおかしかった。
彼はハンドルを抱くようにして、前屈みになっており、背中が震えてるのが分かった。
怖かったんだ…
それに気づくと、ツーンとしたアンモニア臭が鼻を衝いた。
私は自分の事で忙しかったので、一切気が付かなかったのだが、どうやら彼は走りながら漏らしたようだ。
私は助手席のドアを開けないようにした。そして、ウィンドウを二回ノックして、彼に指で「帰っていいよ」と伝えた。
彼は走り去った。
私は島野を待った。
もうすぐ今夜が終わる。
