【創作大賞2025応募作・ミステリー小説】サウザンド・ティアーズ㊴《最終話》~うまくいってるなんて思えた事は一度もない。ただ、涙を流さずに生きるだけで精一杯だ。
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那覇、国際通りにある漫喫。
時間は、朝の5時を少し過ぎたところだ。
女は、長い手紙をやっと書き終えた。
短い方の手紙は、とっくに書いていたので、いったん、部屋を出て、トイレに行き、お茶を取ってから、長い方の手紙を読み返してみようと思った。
女はマスクをして、鍵がかかる部屋を出た。
トイレを出て、お茶を取りに行く時に、ロビーの窓から外が見えた。
流石は沖縄だ。夏の5時過ぎなのに、辺りはまだ暗かった。
ロビーには、たくさん人がいたので、顔を見られないように気をつけながら、女はお茶を持ち、部屋に戻った。
そして、冷たいほうじ茶を飲み、さっき書き上げたばかりの長い手紙を読み返した。
クロム君
お元気ですか?
私は今回の事件で、ニュースでクロム君の本名が中牟礼勲だと、初めて知ったよ。
沖縄の子というのは知ってたけど、名前は知らなかった。
クロム君にこんな手紙を書くと、必ず検閲されるから、これ見たら、私のところにも警察が来そうで、怖いんだけど、私らは、こうやって手書きの手紙のやり取りで、ここまで来たから、どうしても止められなくて。今まで通りなら、毎週水曜日と、土曜日に漫喫で、隣り合わせに部屋取って、壁を越して、手紙をやり取りで来たんだけど、クロム君がそっちに行っちゃったじゃない。お陰で話ができなくて困ったわ。話す事が多すぎて。
そっちはどう?部屋って、エアコン効くのかな?エアコンないと、クロム君ブチ切れるよね。大丈夫?
クロム君、後悔してない?私は全然だけど…むしろ、まだ、やれてない事が多すぎて、これからどうやろうかと考えなきゃなんだけどね。でも、クロム君が一緒じゃなきゃ、私一人でできそうにないんだけどね。
Eパパのトラックのタイヤは、上手くいったねぇ。
クロム君の作ったナイフは最高だよ。カミソリみたいに薄く切れる。切れてるところが分からないぐらいに…
ただ、難点は、いつ事故るかが、こっちには分かんないとこだな。
Eパパの時は、高速道路だったから上手くいったけど、Kのバイクはうちの前で徐行してて、全然だった。失敗だよ。
アイツが、どっかでかっ飛んでる時にバーストしてくれたらよかったのにね。あのガキを後ろに乗せて、一緒に吹っ飛んだら最高だったんだけど、ホント残念だった。
上手くいかないって言えば、うちの親父だよ。アイツは悪運が強いよね。自家用のフリードも、いつも営業で使ってる軽バンも、両方とも、クロム君にタイヤ切ってもらったのに、全然、パンクしねえの。でさあ、Kの知り合いが、アイツを撃った時、私はやった!と思って、部屋で大声で叫んじゃったんだけど、でも、死なねえの。最悪だよ、最悪。
結局、一番先に消えて欲しいと思ってる親父は、未だに生きてる。次に消えて無くなって欲しかったのは、EパパとEママの家族だったんだけどさあ、ガキも含めてね。EパパとEママは上手くいったんだけど、ガキは生き残ったじゃない?それだけじゃなくて、Kが来て、親父と仲良くなって、ガキもなついて、そんで、今度はKが結婚するってさ。うちの社員の子とだよ、信じられなくない?そんで、うちの社員寮に住み続けるってさ。おかしいじゃん。
まあ、親父が変人だから仕方ないんだけど…マジ、親父だけは、ウザくてたまらない。
親父は、誤解の塊マンだから、全然、私の事、理解してないんだよ。
私さあ、昔、お母さんを追い出した話したよね。あの女、親父が一生懸命働いてる時に、浮気はするは、酒は飲むは、しまいには浮気相手と競馬とか麻雀とか、ギャンブルやりまくって、すごい借金作って。私、学校から帰ってきた時に、あの女が家で、浮気相手と抱き合ってたから、思わず、棒に火つけて、あの女と男に、台所にあったサラダ油をぶっかけて、その火を振り回して、「出ていけ!」って、怒鳴ったんだよ。男が「何だ、テメエ」って言って、私に殴りかかってきたら、本当に火をつけたんだ。サラダ油じゃあ、火はつかないって聞いてたんだけど、あの時は、何故か火がついた。男は慌てて水をかけに行った。それで、二人とも出て行った。
それから、あの女は、性懲りもなく、何度か家に来た。私は入れなかった。入れないどころか、アイツに言ってやった。「二階の部屋が赤くなってる時は、私はまだ怒ってる。だから、絶対にお前を家に入れない」ってね。だから、私は毎晩、自分の部屋を赤くしてるんだ。
親父は、私があの女に戻って来てもらいたがってる思ってる。そんな話を何度も私にしてきた事がある。その時、親父にきっちり否定しておけばよかったのかもしれないね。でも、もう遅いんだよ。家族なんて糞食らえだ。
クロム君もそうでしょう。クロム君、6人兄弟の下から二番目で、クロム君だけ内向性で、勉強できない子で、それで親が味噌っかすみたいに扱って、だから、クロム君は沖縄に帰らないし、家にも連絡しないんだよね。私も同じだ。でも、私は相変わらず、家にいるけどね。いっぺんは、私も出ようと思ったんだ。でもね、アニメの仕事やって、ブラックで、身体壊して、仕事辞めてって、してたらさあ、親父の誤解が止まらなくなっちゃってさあ。うちの会社の中に自分の家族もどきをジャンジャン作り出して…お母さん役はTなんだ。で、娘役はM、それと自分の息子家族がEパパと、Eママ、そして、息子のI。最悪だよね。もう勘弁してって、クロム君に言ったら、クロム君から「タイヤ切ってあげるよ」って、言われた。それから始まったんだよね。まず、一番初めにEパパのトラックが事故って、でも、あれは順番が違ったよね。Eママは免許なくて、自分の車がないからタイヤが切れない。そう言ったら、クロム君が「一度、自分で作った刀で人を切ってみたかった」って、言ってくれたから、Eママを処理する事ができた。
でも、誤算はKだよね。Kはうちに散々な事件をいっぱい持ってきてくれたけど、何だか知らないんだけど、いつの間にか、全部無事解決しちゃってさ。おまけに、自分のバイクのパンクでも無事だったし、アイツ、何とか処理したいと思ってるんだよねえ。親父はさあ、なんだかんだ言っても、もう右足が不自由だし、処分するのはもっと後でもいいと思ってるけど、Kとガキはすぐに消えてもらいたい。
幸せな家族なんて、見たくねえんだよ。
だけど、今はクロム君がいないから、私一人で何ができるのか、よく分かりません。
本当に、漫喫で手紙のやり取りでクロム君と話し合いたいです。
私たちはそれで、データも残さず、直接話す事もなく、これまでやって来たんだから。
まあ、最初だけはSNSで知り合ったんだけど、あれはもう7年も前の事だから、誰も追跡できないと思うんだけどね。
そう言えば、クロム君、これまで漫喫で私が書いた手紙、全部シュレッダーしてくれてるよね?私は、全部、店の人に頼んで、一回一回、ちゃんとシュレッダーしたけど、クロム君も大丈夫だよね?まあ、読んでも、よく分からない事ばかり書いてるので、そんなに心配はしてないけどね。
ああ、いっぱい書いて、ちょっとスッキリしました。
さっきも言ったけど、これで私が警察に追われて、もしかして逮捕されるような事になったら、牢屋は隣りあわせだと良いね。
まあ無理かな?それと、私はまだ、捕まっちゃいけないとも思ってて、現在、葛藤中なので、ひょっとしたら、クロム君を裏切る事になるかもしれません。
また、手紙を書くね。
ノンより
女は「これでいい」と頷き、部屋を出る準備をした。
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女は、近くの朝早くから開いてるカフェで朝食を摂った。
そして、アイスティーを三杯も飲みながら、スマホでゲームをやってると、郵便局が開く時間になった。
女はカフェを出て、切手を買いにカウンターへ行った。
カウンターの前で、30秒ほど悩んだ挙句、女は薄い方の封筒に切手を貼ってもらい、投函した。
薄い方の封筒には
中牟礼勲様
元気ですか?
色々と話がしたいので、また会いに行きます。
中牟礼操
と書いてあった。
中牟礼操とは、勲の実の姉だが、勲と女との間で、「操」名の手紙は女からのものだと、話がついていた。
勲はもう10年以上、操に会った事も話した事もなかった。
女は、分厚い方の封筒をリュックに戻した。
夏の沖縄に来てるのに、一泊目は漫喫で、一晩中手紙を書いて過ごした。
今日は、リゾートホテルに泊まろうと思い、スマホで検索を始めた。
ホテルが決まれば、フロントで分厚い封筒はシュレッダーしてもらえばいい。
女はそう思った。
女は赤いTシャツを着ていた。
了
