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【創作大賞2025参加作・連載小説】夜は暗い ⑦


定食を食べ終わった私たちは、ジャスミン茶と杏仁豆腐を追加で注文した。
この店の隠れた名品が杏仁豆腐であり、ジャスミン茶だ。
冷たい茶はペットボトルの既製品ではなく、ちゃんと葉から出す。
杏仁豆腐は親父の手作りだ。
この親父、雑な性格のように見せかけてるが、本当に繊細な味を上手く出す。
こんな褒め言葉を吐くと、いつもに増して悪態をつかれそうなので、本人には直接言った事はないが、私はこの店は本当に美味いと思ってる。

「で、君塚ケータ君の話を聞こうか。マンションまでは一緒に行ったのか?」
「行った」
「ケータ君は嫌がらなかったのか?」
「それが嫌がらなかったのよ。私も不思議だなって思ってたら、後でその理由が分かったの」
「どういう事?」
「私、玄関まで行ったんだけど、11時前なのに、家には親はいなかったの。それで、「お母さんはいないの」?って、ケータ君に訊いたら、「多分仕事。今日は帰ってこないかもしれない」って言って、「お母さんのお仕事は?」って訊いたら、「よく分かんない」って返事されて…中三の子だよ。親の仕事が何かなんて、分かりそうなもんだけど、それで、今度は「じゃあお父さんは?」って訊いたら、「中一の時に出て行った」だって。「離婚したの?」って訊くと、また「よく分かんない」だし、「お父さんの仕事は何?」と訊くと、今度は「知らない」」って言われて…」
「それで君は帰ってきたのか?」
「そう」
「じゃあ君は家の住所と、裕福そうなマンションだという事を掴んで帰ってきた訳だな」
「そうね。マンションの外観の写真と、マップに住所をポイントしておいたので、後で送るね。本当は親の顔を見れればよかったんだけど…」
「いや君は十分な働きをしたよ。ありがとう…」



ガラガラ!
ガラスの引き戸を乱暴に開ける音がした。

「コンバンワ!」中国語訛りが酷い人相、風体の良くない男たちがぞろぞろと入ってきた。
私は彼らに背を向けていたので、彼らが入ってきた時に一瞬振り向いてその姿を確認し、後は彼らと目を合わせないようにした。男たちは10人前後はいそうだ。どいつもこいつも20代から30代の血の気が多そうなヤツらだ。


何か、良くない事が起きそうだ。


夜特有の…


暴力的な何かが…



「また、おめえらか。もういい加減にしてくれよ。ウチはここから出て行かねえよ」
「違いますよ、杉原さん…僕らはただ晩ごはんを食べに来ただけです…」

そうだった、親父の苗字は「杉原」だ。

「じゃあお前さんたち全員帰ってくれ。あんたら、こないだ俺に店を畳めと脅しに来ただろう。俺はな、俺を脅すヤツに料理を作る気はねえんだ。お前らに食わせるものはここにはねえ。だから、帰ってくれ」
「何を!」

カウンターに座っていたこげ茶のエスニックなシャツを着た男が割り箸を掴み、親父へと向かおうとした。
私はすかさずその男の前に立ちはだかった。

「お前、その割り箸で何をしようとしてる?目を突こうとしてるのか?それとも耳の穴に突っ込むつもりか?」
「うわあ、黒崎…さん…何でここに?」
「飯を食ってたんだよ…お前らのここに入ってきてからの動きは全部撮ってるからな。まあ、諦めて帰れよ」

彼らは私に従って、店を出て行った。

私は刑事を辞めたが、刑事時代に作った色々の伝説が今も残り、今日みたいな悪らつなヤツらにとって、それはまだ恐ろしいらしい。

「親父、この店は持ち物か?」
「ああ、土地も建物も所有権は俺だ」
「頑張らなくてもいいんじゃねえか?ウチのビルに空きがあるから、ここを売っちまって、ウチに入って店を続けたらどうだ?」
「いや、断るよ。不良中国人の俺の土地は所有させねえ」
「なるほど、分かるよ」
「なあ黒さん、頼みがある。今みてえにヤツらが来た時、いつも助けてくれねえか?」
「ああいいよ。電話くれ。俺が来れなくても、誰かを必ずよこすよ」
「助かるよ」
「但し、条件がある」
「条件? 何だ?」
「さっきの豚ニラ、10回に一回って言ったろう。あれを3回に一回にしてくれ」
「まあ5回に一回だな。あの汁を作るのは本当に面倒臭えんだよ」
「分かった。手を打とう」

私たちは支払いをして店を出た。


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