議事録を作らせたら、うちのやり方と違った
【AIマスター編・第1話】
Part 1 Copilotの正体(1/5)|完全無料
文章が下手だ。」
上司にそう言われたのが、始まりだった。
50代になるまで、AIなんて触ったこともなかった。
自己紹介が遅れた。大学を出て27年、工場関係の仕事ひと筋でやってきた。サービスエンジニアから始まり、ライン作業、保全、現場監督を経て、今は安全を見ている。現場のいろんな場所を、いろんな立場で見てきた27年だ。「安全さん」と呼んでほしい。
ちなみに、文章を書くこと自体は初めてじゃない。足場、ダクト、配管——現場の実務を無料で解説する連載を、これまでにいくつも書いてきた。信じられなければ、そちらも見てほしい。ここに書くことも、同じくらい本気で書く。
正直に言えば、文章の下手さだけが理由ではなかった。ネットニュースで「AIがこれをやったら、人の仕事がなくなる」という記事を見るたびに、腹の底が冷えた。
自分たちは就職氷河期の世代だ。若いうちは安月給で我慢しろ、年を取れば年功序列で報われる、そう言われて働いてきた。だが蓋を開ければ、今の新入社員の初任給は自分より高い。NISAもなかった。その上、若手はAIを使いこなせるからと、さらに評価が上がっていく。年寄りは新しいことを覚えられない、体力もない、お払い箱――。踏んだり蹴ったりだった。
だから、藁にもすがる思いでAIに向き合った。最初はただ、文章のチェックだけだった。
それから1年経って、気づいたことがある。
経験の浅い若手が、AIを使って仕事をこなしているように見えても、実はAIの言っていることが正しいのか間違っているのか、本人には判断がつかない。長年現場を見てきた人間になら、AIが嘘をついた瞬間が分かる。「それは違う」と言い返せる。
AIを使いこなす若さより、AIの嘘を見抜けるベテランの経験の方が、これから先、価値が出る。
もう一つ、はっきり分かったことがある。
AIは、こちらが迷っていると必ず選択肢を出してくる。A案・B案・C案、どれにしますか、と。親切に見える。だがその選択肢は、AIが考えられた範囲でしかない。
若い人は、その中から選ぶ。選んだ時点で、AIの土俵に乗っている。
だが長くやってきた人間には、「そのどれでもない」と言える。その選択肢が的外れだと分かる材料を、持っているからだ。
もし、あなたにも心当たりがあるなら。
50代の管理職の63.2%が、まだAIを活用できていない。30代の約2倍だ。理由の58.5%は「具体的な使い方が分からない」。

そして50〜60代の72.7%が「AIには専門知識が必要だ」と感じている。

専門知識は要らなかった。 私が持っていなかったのは事実で、それでもできた。
誤解しないでほしい。40代・50代の管理職の88.7%は、AIを脅威でなく前向きに捉えている。嫌がっているわけじゃない。ただ、どこから手をつければいいか分からないだけだ。

やりたい人が88.7%いるのに、できている人は36.8%しかいない。 その差、約52ポイント。そこにいるのが、私であり、たぶんあなただ。
私もそうだった。怖かったのは、AIそのものより「このままだと置いていかれる」という漠然とした焦りだった。実際にやってみたら、怖さの正体は「やり方を知らないこと」でしかなかった。
だから、ついてきてほしい。バカにしてもらって構わない。私が先に間違える。悪い見本を、隠さず見せる。何をどう間違えたか、そこから盗んでいってほしい。
……と、ここまで真面目に書いていたら、Kさんに鼻で笑われた。
「お前、湿っぽい話ばっかりだと誰もついてこんぞ」
その通りだ。情けない失敗も、笑える失敗も、山ほどある。大真面目にやって盛大にすっ転んだ話も混ぜていく。
では、最初の話をする。
会社が配ってくれたAIで、議事録を作らせてみた
会社からCopilotが配られた。Microsoftのやつだ。せっかくあるのだから使ってみようと思った。
最初に試したのが、議事録だった。毎月ある会議の議事録づくりは、正直しんどい。録音を聞き直して、要点をまとめて、決まったことを書き出す。毎回2時間かかっていた。
Copilotに要約させた。数十秒で出てきた。速い。
読んでみて、そして固まった。
きれいな議事録だった。だが、うちの議事録ではなかった。
会議名があって、日時があって、参加者がいて、決定事項があって、次回の確認事項がある。教科書に載っているような、立派な議事録だ。
だが、うちの会議はそういう形で残さない。書く順番も、まとめ方も、載せる項目も、うちには決まった型がある。 何年も続いてきた形だ。読む人はその形に慣れている。
修正を頼んだ。少し良くなった。また違うところがずれた。また頼んだ。
何度もやり直した。 結局、自分で書き直した方が早かったのではないか、と思うくらいには。
なぜこうなるのか
腹を立てながら、ふと思った。
これ、新人に頼んだときと同じじゃないか。
新入社員に「議事録お願い」と言ったら、何が出てくるだろう。学校で習った形か、ネットで調べた形の議事録が出てくるはずだ。うちの様式なんて、教えていないのだから知るわけがない。
Copilotも同じだった。世の中の一般的な議事録の作り方は、よく知っている。だが「うちの会社のやり方」だけは、知らない。
考えてみれば当たり前だ。Copilotはうちの会議に出たことがない。過去の議事録も読んでいない。「この項目は課長が特に見る」とか「ここは去年から書き方が変わった」とか、そういう事情を何ひとつ知らない。
AIは欠陥品ではない。優秀な新入社員だ。 物覚えが悪いのではない。むしろ地頭はいい。ただ、右も左も分からないから、教える必要がある。
新人が指示を忘れたからといって怒鳴る上司はいない。マニュアルを作って、繰り返し教える。それだけの話だ。
「じゃあ、AIにも同じように教えればいいってことですか」と若手のNくん。
そういうことだ。次回、その具体的なやり方を書く。
一つだけ、先にはっきり言っておきたい
ここまで読んで、こう思った人がいるかもしれない。
「AIをちゃんと使うには、結局、技術が要るんじゃないか」
要らない。ここははっきり言っておく。
新人の作業を確認するとき、あなたはプログラムを読むだろうか。読まない。現場を見て、結果を見るはずだ。 議事録がちゃんとできているか、抜けがないか、それだけを見る。
AIも同じでいい。この連載でやる「確認」は、いつも見ているレベルの確認だ。 日付が合っているか。決定事項が漏れていないか。体裁が崩れていないか。新人の仕事を見るのと、何も変わらない。
プログラムの中身を読む話は、この連載では出てこない。 少なくとも、前半では一度も出てこない。
型:AIには「一般論」しか入っていない。「うちの事情」は自分が渡す
AIが知っていることと、知らないことを分ける。 一般論(議事録の書き方・メールの敬語・報告書の構成)は知っている。うちの事情(社内の様式・過去の経緯・誰が何を見るか)は知らない
やり直しが3回続いたら、指示を直すのをやめる。 直し方が悪いのではなく、最初に渡した材料が足りない。材料を足す方に切り替える
「一般的にはこうですよね」と言われたら、要注意。 それは「あなたの会社のことは知りません」という意味だ
腹を立てる相手を間違えない。 AIは知らないことを知らないと言えないだけで、隠しているわけではない
📊判断ポイント
| 場面 | 見るところ |
|---|---|
| AIの出力がきれいなのに使えないとき | 内容の質でなく、形式がうちのものかを疑う |
| 修正を2回頼んでも直らないとき | 指示の直し方でなく、渡した材料の不足を疑う |
| 「一般的には〜」という言葉が出たとき | うちの事情が伝わっていない合図 |
| 新人に頼むところを想像してみて | 新人にも同じ結果になりそうなら、AIのせいではない |
📋チェックリスト(今日から使える)
[ ] AIに頼む前に「これは一般論で足りる仕事か、うちの事情が要る仕事か」を分けたか
[ ] やり直しが3回を超えていないか(超えたら材料不足を疑う)
[ ] 「同じことを新人に頼んだらどうなるか」を一度考えたか
[ ] 出てきたものを、いつも通りの目で確認したか(プログラムを読む必要はない)
📝応用問題
さて、ここで一つ考えてみてほしい。
Copilotに「うちのやり方」を教えるとしたら、あなたなら何を渡しますか。
①「うちの議事録はこういう順番で書きます」と、言葉で説明する
②先月の議事録を、そのまま見せる
③どちらでもない、別のやり方
私は最初、①をやって失敗した。②が正解に近いのだが、そこにも一つ落とし穴がある。
答えは次回の冒頭に書く。もし今この場で自分の答えを決めておけば、次回それが合っていたかどうか分かる。 その方が、絶対に身につく。
AIマスター編 ― 現場27年の安全管理者が、1年かけて覚えたAIの使い方(全27話)
安全さんシリーズ 第2部(新受信編)|安全さん
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📚 脚立シリーズ(全5話)
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