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世界120カ国をつないだ経営者は、なぜ地方の駅前でサウナを始めたのか

「サウナで打ち合わせしませんか?」
株式会社B.L.T.代表の中村浩二さんから、そんな魅力的なお誘いをいただいた。

サウナで打ち合わせ。

会議室でも、カフェでもなく、サウナ。

それは面白そうだと思い、豊後大野市の三重駅前にある「サウナデイズ」へ向かった。

サウナに入り、汗をかきながら、会社経営や地域の未来について語り合う。そんな、少し変わった打ち合わせになるはずだった。

ところが、到着してみると、サウナデイズは多くのお客さんでにぎわっていた。

さすがに、混み合うお客さんの隣で経営や地方創生について話し続けるわけにもいかない。

残念ながら「サウナで打ち合わせ」は実現せず、今回はサウナの外で話を伺うことになった。

暑かったので室内に移動しました

しかし、実際に多くの人が集まっている様子を目にしたことで、この場所が単なるサウナではなく、地域に新しい人の流れを生み出していることを感じることができた。

打ち合わせでいただいたコーヒーは、豊後大野市大野町の福祉事業所「なごみ園」が焙煎する「nagomi coffee」だった。

地域や福祉の現場で生まれたものを積極的に取り入れているだけでなく、「博愛会でも提供できる商品やサービスはありませんか」と、私たちの就労支援の取り組みにも丁寧に耳を傾けてくださった。

その姿勢からは、一つの事業だけを成功させるのではなく、地域全体で価値を循環させようとするプロデューサーとしての視点が感じられた。

中村さんは、もともと観光や地方創生を専門にしてきた人ではない。

長年、インターネットビジネスの最前線に立ち、日本の商品を海外へ届ける越境EC事業を育ててきた経営者だ。

世界約120カ国と日本をつないできた人が、なぜ故郷へ戻り、地方の駅前でサウナを始めたのか。
話を聞いていくと、その二つの仕事は、中村さんの中では一本の線でつながっていた。

株式会社B.L.T.代表の中村浩二さん

日本の商品を世界へ届ける仕組み
海外には、日本の商品を求めている人がたくさんいる。

アニメグッズやフィギュア、洋服、家電、文房具、地域限定の商品。

しかし、海外から日本の通販サイトを利用する際には、言葉、決済、配送、通関など、さまざまな手続きが必要になる。

中村さんたちが育てたのは、その手続きを支え、日本の商品を海外へ届けやすくする仕組みだった。

日本の通販サイトから届いた商品を国内の倉庫で受け取り、複数の商品を一つの箱にまとめて海外へ発送する。

海外の利用者は、日本の商品を購入しやすくなる。

日本の販売会社も、特別な海外対応を行わずに商品を販売できる。

この仕組みは、世界約120カ国へと広がった。
特に人気が高いのが、日本のアニメ関連商品や中古品だという。

海外では入手しにくい限定グッズや、すでに販売が終了したフィギュアが、日本のメルカリなどを通じて世界へ届けられている。

私は以前、TOKYO MXでアニメや通販に関わる仕事をしていた。

かつてはDVDをどのように販売するかが重要だったが、現在では配信サービスによって、日本のアニメが世界中で見られるようになった。

作品が世界へ届き、それに伴って関連商品も世界へ動いていく。

日本のコンテンツが持つ力を、物流とテクノロジーによって広げてきたのが、中村さんたちの仕事だった。

最初の5年間は、思うように伸びなかった
今では世界120カ国へ広がった事業だが、最初から順調だったわけではない。

サービスを始めてから5年ほどは、なかなか思うように伸びなかったという。

事業を続けるべきか、社内で検討した時期もあった。それでもサービスを継続し、利用者にとって使いやすい仕組みへと改善を重ねた。

その後、円安が進み、海外から見た日本の商品に魅力が生まれた。

さらに、配信サービスによる日本アニメの世界的な普及や、コロナ禍をきっかけとしたオンライン消費の拡大も追い風になった。

中村さんは「運も良かった」と話す。

しかし、追い風が吹いたときに事業を続けていなければ、その風に乗ることはできない。

すぐに結果が出ない時期にも仕組みを残し、磨き続けたからこそ、時代の変化を成長へと結びつけることができたのだと思う。

約20年間の会社員生活を終え、故郷へ
中村さんは2003年に会社へ入り、2023年末に退任した。約20年間、インターネットとグローバルビジネスの最前線を走ってきたことになる。

会社を辞めた時点では、次に取り組む事業がすべて決まっていたわけではなかったという。

ただ、故郷である豊後大野市のために、自分の経験を生かしたいという思いがあった。

市役所の人たちと話し、地域の取り組みや、これからの可能性について意見を交わした。

その中で出会ったのが、「サウナのまち」という取り組みだった。

豊後大野市には、豊かな自然を活用したアウトドアサウナがある。

温泉地とは異なる地域が、その自然環境を生かしてサウナを観光資源として打ち出す。

外から見ても、とても魅力的で独自性のある取り組みだ。

一方で、この魅力を観光に訪れる人だけでなく、地域で暮らす人たちにも、もっと身近に感じてもらえる余地がある。

地元の人が日常的に利用し、集まり、語り合える場所があれば、「サウナのまち」という取り組みは、地域にさらに深く根づいていくかもしれない。

地域の中にサウナを身近に感じられる拠点をつくる。

そこから新しい交流や文化を生み出す。
中村さんは、その可能性を駅前に見いだした。
そして、豊後大野市の駅前にサウナデイズをつくった。

サウナから、町の新しい流れをつくる
中村さんは、サウナだけで町のすべてが変わるとは考えていない。

サウナデイズは、地域に新しい流れをつくる最初の一歩だという。

駅前には、これまで大切に受け継がれてきた店や建物があり、これから新しい活用が期待される場所もある。

そこに、まず一つの新しい灯りをともす。

サウナを目的に人が訪れる。

帰りに近くのカフェや店へ立ち寄る。

駅前を歩く。

地域の人と出会う。

そして、
「この町で、何か新しいことができるかもしれない」
と思う人が現れる。

一つの場所をきっかけに、人の流れや新しい取り組みが少しずつ広がっていく。
それが中村さんの描いている未来だ。

世界規模の事業を経験してきた経営者が、故郷では「小さな挑戦を増やす仕組み」を考えている。
そこが、とても興味深かった。

若い人が挑戦できる町をつくる
中村さんは、これからの町をつくっていくうえで、若い世代の挑戦が大切だと考えている。

自分がすべてをつくるのではなく、若い人が店を開いたり、新しい仕事を始めたりすることを応援したい。

地域には、長く愛されてきた店や、暮らしを支えてきた場所がある。

そこに新しい感性を持つ店や施設が加わることで、町の魅力はさらに豊かになる。

良い場所が一つできると、そこから刺激を受け、次の挑戦が始まる。

それぞれの店が個性を発揮しながら、地域全体の魅力を高めていく。

多少距離があっても訪れたい。
その空間で時間を過ごしたい。
人に紹介したくなる。

そうした体験を提供する場所が増えれば、人の流れが生まれる。

「あの町には面白い場所がある」
という評判が広がる。
良い場所が、次の良い場所を呼ぶ。

サウナデイズは、その流れを生み出す最初の装置なのだと思う。

訪れる人だけでなく、暮らしたい人を増やす
地方創生では、「関係人口」や「交流人口」という言葉がよく使われる。

観光に来る人。
地域と継続的に関わる人。
外から地域を応援してくれる人。

もちろん、それらは大切だ。

中村さんは、その先に、
「この町で暮らしてみたい」
と思う人を増やしたいと考えている。

そのためには、働く場所が必要だ。
挑戦できる環境が必要だ。
そして、ここで暮らすことを楽しんでいる人の姿が必要だ。

大きな企業が進出すれば、雇用が生まれ、地域に新しい動きが生まれることもある。

一方で、小さな店や仕事が少しずつ増えていくことも、地域の未来をつくる大切な力になる。

若い人が挑戦できる場所をつくる。
魅力のある店を増やす。
地域で楽しそうに働く人を増やす。

小さな変化を積み重ね、結果として、住みたいと思われる町をつくる。

大きな理想を持ちながら、現実に動かせる一歩から始めている。

世界120カ国をつないだ仕事と、駅前のサウナ
越境ECと地方のサウナ。
一見、まったく違う仕事に見える。

しかし、中村さんがやっていることは、一貫している。

海外の人が日本の商品を購入するときには、決済や言葉、物流など、さまざまな手続きが必要になる。そこで、その手続きを支え、商品が届く仕組みをつくる。

地域の人と訪れる人が自然に交わるには、きっかけとなる場所が必要だ。
そこで、駅前にサウナをつくる。

人や商品、町が持つ可能性を見つけ、それが動き出すための仕組みを整える。そして、新しい流れをつくる。

世界120カ国をつないだ経営者が、故郷の駅前で始めたのは、単なるサウナ事業ではない。

町に新しい人の流れをつくる事業であり、次の挑戦者を応援する事業でもある。

地域の人たちが、
「この町には、まだまだ新しい可能性がある」
と感じるための事業なのだ。

サウナは、肩書を脱いで話せる場所
中村さんは、サウナデイズを単なる入浴施設ではなく、「第三の居場所」にしたいと話す。

家でもない。
職場でもない。
仕事上の利害関係から少し離れて、人と自然に話せる場所。

サウナの中では、肩書が薄くなる。

経営者も、会社員も、地域の人も、旅人も、同じ空間で汗をかく。

会議室では生まれにくい会話が生まれる。
今回は残念ながら、サウナの中で打ち合わせをすることはできなかった。

しかし、地域の多くの人が常連となりサウナデイズに集まっている姿を見て、この場所がすでに人と人をつなぐ装置として動き始めていることを感じた。

もしかすると、サウナでの雑談から、次の事業や、地域の新しいプロジェクトが生まれることもあるのかもしれない。

地元の人が常連として通いやすい月額プラン

プロデューサーの頭の中を、もっとのぞいてみたい
中村さんの話を聞いていて、改めて感じたことがある。

私は、何かを成し遂げた人の「結果」だけでなく、その人が、どのように人や場所、アイデアをつないでいるのかに興味がある。

目の前にある素材を組み合わせ、新しい価値をつくる。

まだ注目されていない人や場所に光を当てる。
人と人の間に入り、新しい流れを生み出す。

中村さんは、世界と日本をつなぐ仕事から、故郷の駅前に人の流れをつくる仕事へと進んできた。

事業の規模や形は変わっても、そこには一貫したプロデューサーとしての視点がある。

最近、TBSラジオ『脳盗』などでも知られるTaiTanさんの発信や仕事に触れながら、プロデューサーという存在への関心が、ますます強くなっている。

表に立つ人だけでなく、その後ろで企画を考え、人をつなぎ、場をつくり、物語を動かしている人たち。

彼らは、何を見ているのか。
どのように企画を思いつくのか。
人や地域の魅力を、どうやって見つけているのか。

これからも、さまざまな分野で人や場所を動かしているプロデューサーたちにインタビューをしていきたい。

そして、その人たちの頭の中にある「企画のつくり方」や「人のつなぎ方」を、このnoteを通じて紹介していきたいと思う。

次こそは、サウナの中で打ち合わせをしてみたい。

サウナ上がりのスムージー美味しかったです


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釘宮謙悟 「やさしさは、社会を面白くする。」そんな実践を発信していきたいと思っています。いただいた応援は、取材や書籍購入など次の発信のために活用させていただきます。