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トトノウを体験したい。《卒業編》

「潜ります」

私は右手を高く挙げた。
息を止め、深く深くジェットバスの底に
体を沈めていく。

水流は大きくて、私の体はぷかんと浮力に負けてゆっくりと浮かんでいく。

水の中で、なぜ尻はこんなにも軽いのだろうかと、そんなことを考える。

「潜ります」

私は再び右手を挙げて、
果敢にジェットバスへ潜る。

目下には女性の垂れた尻が揺れている。
人の尻も大腿部も、水流に自然と馴染み、気泡だらけの湯船の中でただ、揺れている。

ジェットバスの水圧と
41度という水温に
私の目はくしゅくしゅと痛む。

事の発端は、サウナだった。

私は、満天の湯というスーパー銭湯で
サウナを楽しんでいた。
すっかりとトトノウを体験した私は、
湯船には目もくれず帰ろうとしたのだが、
ちらっと、左手を見ると、「エステジェットバス」の文字が目に入る。

立湯スタイルのそれは、
美容オタクの私の深層心理を掴んだ。
入るしかない。

体はトトノっている。
ダメ押しに血流改善するしかないじゃないか。
美への飽くなき探究心は私の最大のストロングポイントである。

足をそっとジェットバスに落としていく。
悪くない。
心地よい水流と刺激は体に瘙痒感を包みながらも、外的刺激にうっとりする。

全身がブルブルブルと、
水流に捲し立てられる。

そうしているうちに、
右腕にはめたプラスチック輪っかのついた
ロッカーキーが水の揺れで、どうしようもなく、
痒いことに気がつく。

しばらく我慢した。
目を閉じた。

ブルブルブル

やはり痒い。

私はそれを外し、足首に付け替えることにした。


すん


鍵は、ジェットの中にあっという間に
包まれて消えていった。





水面の泡が酷く大きいことに、今更気がつく。
目視できる範囲に鍵はもう見当たらない。

仕方がなく、足を伸ばして床全体を撫で回すと、それらしいものが足の親指に直感的ふれたことがわかった。

みつけ・・

た、と思った先に、もう、
それはなくなっていた。

私は清掃スタッフを見つけると、
大きめに「はいっ!」と、声を出し挙手をした。
風呂場の声はよく響く。

事の始終を話すと、清掃スタッフの姉さんは虫取り網のようなアイテムを持ち、
周囲を掬ってくれた。

掬ってはため息をつく攻防戦を、我々全裸ジェットバッサーの女たちは固唾を飲んで行く末を見ている。

掬いが甘い。
ダメだしをしたい衝動に駆られたが、
掬わせている張本人がそんなことを言えるはずもなく、我々は、ただ、そのなにも掬えない様をひたすらに眺めている。

一向に鍵は見つからない。

やっちまった。みんな全裸で迷惑そうな顔をしている。鈍感な私も、流石に全裸の状態で申し訳がないと、反省はしている。

そんななかでも、遠くの方で、人の波が大きく動いていることを私は見逃さなかった。

全裸の大移動である。

「アロマアウフグースはじまりまーす」

ん、なんやて・・
行くしかないじゃないか。
すでに6SETのトトノウを完了していたけれども、アロマなんて聞いていない。

時間がない。
リアル24である。
頭の中の秒針が音を立てて猛スピードで
進んでいる。

私は決意した。

しわしわになった、右手を挙げて。

「潜ります」

その後は冒頭の通りである。

鍵を見つけた私は、海坊主の如く、エステジェットバスから息も絶え絶えに這いつくばりながら陸に上がると、
水浸しの全裸の状態で、ジェットバスにつかる女たちに、この上ないほど深い会釈をした。

顔をあげると、皆、神妙な顔つきで会釈を返してくれた。

全裸の絆はこうして生まれるのだと、
私は初めて知った。

その足でアロマアウフグースをしっかりと受け、12分の1SETを終えた。

水風呂が体に染み渡る。
外気浴が、気持ちいい。
私の閾値は史上最強の悦に達した。

ここは、天国かもしれない。

そして、気づいたのだ。一度死にかけるほどにエステジェットバスに入水し続けることが、
トトノウの最上級なのだと。

禁断の扉を開けてしまった。
私はもう2度とこの
閾値を味わうことはできない。

サウナ卒業である。


↓サウナシリーズ 初体験編・克服編・応用編。


#saunaシーズン1終了

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