20年前のあの選択が、家族をどこに連れて行ったのか【ちび創作大賞】
「守り抜く」と、根拠もないまま決めた日
妊娠中、たまたま休みが取れた日でした。
妻に付き添って検診に行き、そこで告げられました。
「生まれてこられるかわからない」
200万人に1人の病気だと言われました。
「なぜ、うちの子なのか」
医師の話を聞いた後すぐに
私は一つだけ選びました。
この子がどんな形で生まれてきても、守り抜く。
根拠なんて何もないまま、ただそう決めました。
あれ以上の人生の選択は、今のところありません。
娘は、生まれる日から生後手術する日まで、
すべてあらかじめ計画された形で生まれてきました。
生まれてすぐNICUに入り、
妻は体力が回復しないまま、
毎日搾乳した母乳を片道30分かけて届けていました。
あの頃の妻の辛さはどれほどだっただろうか。
でも私も一杯一杯で、うまくフォローができませんでした。
私は、長女と家を守ることで精一杯でした。
毎日手を引いて保育園に行き、
休日は公園に連れて行く。
それが当時の私にできる、精一杯のことでした。
フォローできなかった妻を見ながら、それでも「長女を守る」を選んだこと
娘がNICUにいた間
妻は毎日、片道30分かけて搾乳した母乳を届けていました。
体力もまだ戻っていないのに。
私は、というと、長女のことで精一杯でした。
まだ幼い長女を保育園に送り、
休日は公園に連れて行く。
妻が壊れそうになっていることは薄々わかっていました。
隣で崩れそうになっている妻に
手を伸ばす余裕が当時の私にはありませんでした。
それぞれが、それぞれの持ち場で、一人で耐えていました。
「長女を守る」ことを選んだつもりでしたが、
本当は、妻を一人にしてしまうことから、
目を逸らしていただけなのかもしれません。
あの時、何が正しかったのか、今でも分かりません。
ただ、あの頃の妻の背中を、一生忘れないとおもいます。
一人きりのクラスで6年間。あの選択を、娘はどう思っていたのだろう
特別支援学校に通った6年間、
娘は発語ができる子が他にいなかったため、
ずっと一人きりのクラスで過ごしました。
友達と話す、一緒に笑う。
そんな当たり前のはずのことが、娘にはありませんでした。
一人で教室にいる娘を見るのは、苦しかった。
あの環境を選んだのは、結果的に私です。
もっと娘に合った場所が、他にあったのかもしれません。
それでも当時の私は、
「この子には、こういう環境が必要だ」
と信じて、その道を選びました。
娘は今でもあの頃の話しはしたことがありません。
多分、思い出自体が無いのでしょう。
娘は今、車椅子に乗って、毎朝仕事に出かけています。
「普通の道を選ぶ」ということ。それが正しかったのかは今も分からない
6年間の特別支援学校を終え、
次の進路を考える時期がきました。
娘を普通学校に入れたいと申し出た時、
自治体は拒否しました。
理由は、昇降施設がないから。
その時、私は思いました。
「戦ってでも、普通学校に入れるべきなのか」と。
娘が特別支援学校で守られながら過ごす道もあったはずです。
周りに合わせて無理をさせるより
その方が娘にとって安心な環境だったのかもしれません。
それでも私は、
「普通の中で生きていく力をつけてほしい」と思い、
戦うことを選びました。
要望書を書き、市議会議員さんに動いていただき、
資料を整理して教育長に向けて説明する。
それまでの営業人生で身につけたやり方を、
すべて注ぎ込みました。
その結果、娘は普通級の中学校に進むことができました。
あれは本当に、娘のためだったのか。
それとも、「普通であってほしい」という
私自身の願いを押しつけてしまっただけなのか。
守られた環境で過ごす道もあったはずなのに、
あえて厳しい方の道を選んだこと。
あの選択が娘を苦しめることにもなりました。
今も、何が正しかったのか分かりません。
今も、あの日の選択に、答えは出ていない
守り抜くと決めた日から、
ここまでずっと、選び続けてきました。
妻か長女か次女か。
飲み込むか戦うか。
守るか、外の世界に出すか。
そのたびに、
これが正解だと信じて選んできました。
でも今振り返ってみると、
正解だったと言い切れるものは、一つもありません。
妻もあの頃の傷を今も抱えながら、ほんの少しずつ前に歩いています。
長女は、先月から一人暮らしを始めました。
次女は、車椅子に乗って、毎朝仕事に出かけています。
それぞれの後ろ姿を見送るたびに、
救われる思いがします。
あの時の選択に正解があったのか、私にはわかりません。
答えも、出ていません。
たぶん、これからも出ないのかもしれません。
それでも、それぞれの道を歩き始めた家族がいる。
その事実だけを頼りに、また次の選択をしていくんだと思います。

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