オシロスコープの受動プローブについての小知識
電子回路の設計、試作などを請け負っています。今回も計測・テスト・通信・制御に関わる現場で役立つ、記事をお届けします。回路設計の視点ではなく、ユーザー(使う人)側の視点から、できるだけわかりやすく説明しています。
今回はオシロスコープの受動(パッシブ)プローブの取り扱い上の注意点について、Q&A形式も含めて解説します。
パッシブプローブの基本
オシロスコープのプローブにはアクティブプローブ、電流プローブ、差動プローブなどがありますが、ここではパッシブ(受動)プローブに限定して説明します。多くの数100MHz以下のオシロスコープには、x1(1倍、1:1)とx10(10倍、1:10)の切り替えが可能なパッシブプローブが付属しています。
パッシブプローブは単にターゲットに接続する電線ではなく、波形をできるだけ正確に観測できるように工夫されたツールです。x1のときは入力電圧がそのままオシロスコープに入力されますが、x10のときは0.1倍の電圧が入力されます(すなわち、10倍の電圧まで測定可能になります)。
基本的な使い方は、
オシロスコープの入力(BNC)にプローブを接続
プローブと本体の設定を合わせ(x1 or x10)
プローブ先端を信号とGNDに接続する
だけです。しかし、取り扱い上いくつか誤解されやすい注意点があります。以下でQ&A形式で整理したいと思います。
Q&A
Q1) 波形の電圧が大きくなければ、通常は高感度のx1設定で使ってよいですか?
A1) いいえ。基本はx10設定で使うのが無難です。理由は以下のとおりです。
入力抵抗が高い:x1では入力抵抗が1MΩなのに対してx10では入力抵抗が10MΩになり、ターゲット回路への影響が小さくなります。
入力容量が小さい:x10では入力容量が10~20pF程度ですが、x1では100pF前後程とかなり大きくなります。特に高速信号ではプローブを接続することで回路信号に影響が出やすくなります
帯域が広い:受動プローブの仕様としてはx10設定での帯域が記載されています。x10設定での帯域に関わらずx1設定では帯域が狭くなります。10MHz以下に制限されることが多いです。
その他に、誤って高電圧を入力してもx10の方が入力許容電圧が高いため、壊れにくいという利点もあります。低振幅の信号を高感度で観測したい場合にはx1を使用しますが、上記の特性がある事に注意してください。
Q2) プローブx1設定では信号がそのままオシロスコープに入力されるのであれば、普通のBNCクリップケーブルなどを使用しても特性はあまり変わりませんか?
A2) いいえ。x1設定のプローブと普通の同軸ケーブルとでは特性が異なります。受動プローブの芯線には数百Ω/m程度の抵抗線が使われており、高速信号の過渡特性(リンギングなど)を改善するための工夫がされています。x1設定でもプローブの帯域が制限されており、高速信号のオーバーシュートが出にくく、回路への影響も同軸ケーブルより小さくなっています。
Q3) 複数チャンネルの測定時にプローブ1本だけGND接続すれば他のチャンネルは繋がなくても測定できますか?
A3) オシロスコープ内部でGNDは繋がっている(絶縁タイプ等除く)ので1チャンネルだけしかGNDを接続しない状態でも波形は観測できなくはありません。しかし、正確な波形を得るには各プローブのGNDを信号源の近くに短くでGNDに接続する事が必要です。GNDを接続していないプローブではGNDへの接続距離が長くなってしまいます。この影響でプローブ性能を十分に活かす事ができず、観測波形の乱れなどにつながります。
Q4) 標準GNDリードが長く高速信号が正しく観測できません。短くする方法はありませんか?
A4) 高周波測定ではGNDリードの長さによるインダクタンスで波形が乱れる事があります。標準のGNDリードは利便性を優先して長めに作られていますが、高周波では無視できない影響があります。一般的な目安として10MHz以上や立ち上がり10ns以下では注意が必要です。対策の一つとしてはプローブに付属のGNDスプリングを使う方法があります。

GNDスプリングが信号に当てにくい場合は、市販のリードアダプタ等を工夫して使う方法でも改善できます。

このアダプタの先はソケットになっています。これだけでも短くはなりますが、さらに短くするには電線を短く加工するなど工夫する方法もあります
その他の注意点
50Ω信号の測定
50Ωでインピーダンス整合されている信号を入力するにはプローブを使用せずに普通の50Ω同軸ケーブルをそのまま接続します。オシロスコープに1MΩ/50Ω切替がある場合は50Ωに設定してください。切替がない場合はオシロスコープの入力コネクタに外付けの50Ω終端アダプタを使います。
プローブの調整
プローブには調整用のトリマコンデンサがあり、付属のドライバで調整して使用します。オシロスコープの基準信号(矩形波)を観測し、波形が歪まないように調整してください。調整がずれていると波形が歪み、周波数によって振幅が変動します。同じオシロスコープでも入力チャンネルごとに特性が異なるため、プローブはチャンネルごとに調整が必要です。プローブ付属のカラーリングで区別しておくと便利です。

プローブのBNCコネクタ付近にある調整穴に挿して波形調整する時に使用します。

調整用信号の出力です。調整したいブローブの先端で掴みます。信号とGNDを間違わない様に接続してください。

調整ドライバを回すと波形が変化するので調整が適正になる様にしてください。回しすぎて壊さないように注意してください。
オシロスコープのアース接続の必要性
オシロスコープの電源ケーブルはアース(接地極)付き3Pです。アースはオシロの信号GNDと接続されています。アースを適切に接続しないと信号GNDが接地電位に対して数10V程の電圧になることがあり、感電する恐れや機器が破損する危険があります。これはオシロスコープの電源入力にあるノイズフィルタ経由で漏れ電流がアース端子側に流れるためです。測定対象の都合で接地に接続できない場合は、高電圧差動プローブを使うか、オシロの2チャンネルを同時使用して差電圧として測定してください。
以上パッシブプローブを使用する際の注意点をいくつか述べました。正しい取り扱いを心がければ、オシロスコープ測定の信頼性が大きく向上します。参考になれば幸いです。
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