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VCP-XREF:なぜ「両者が記録する」だけで不正が暴けるのか


はじめに

2024年から2025年にかけて、世界中で80〜100社のプロップファーム(自己勘定取引会社)が倒産しました。

業界全体の13〜14%が消えたのです。

理由はさまざまですが、根本にあるのは「信頼の崩壊」でした。トレーダーは「利益を出したのに支払われない」と訴え、会社は「ルール違反があった」と反論する。そして、どちらが正しいかを証明する手段がない。

なぜなら、取引記録はすべて会社側が管理しているからです。

この構造的な問題に対して、私たちは一つの技術的解決策を提案しています。それが「VCP-XREF」です。


証拠の非対称性という問題

トレーダーと取引会社の間で紛争が起きたとき、何が起きるでしょうか。

トレーダー側には、自分のパソコンに表示された取引履歴があります。でもこれは「クライアント側のデータ」であり、会社側からすれば「改ざんできるもの」として扱われます。

一方、会社側には、サーバーに保存された「公式な」取引記録があります。これが「権威ある証拠」として採用されます。

問題は明らかです。

証拠を作る側と、その証拠で裁かれる側が、同じ会社なのです。

これは「証拠の非対称性」と呼べる構造的な欠陥です。悪意がなくても、この構造自体が不信感を生みます。そして悪意があれば、この構造は簡単に悪用できます。


「両者が記録する」というシンプルな解決策

VCP-XREFの発想は極めてシンプルです。

「同じ取引を、両者が独立して記録すればいい」

トレーダーは自分の側で、注文を出した瞬間の記録を作ります。会社は会社の側で、その注文を受け取り執行した記録を作ります。

そして、両方の記録に同じ「照合ID」を付けておく。

あとで両者の記録を突き合わせれば、食い違いがあるかどうかは一目瞭然です。

「注文価格が違う」「タイムスタンプがずれすぎている」「そもそも相手側に記録がない」

こうした不整合は、どちらかが記録を改ざんしたか、あるいは記録自体を作らなかったことを意味します。

そして重要なのは、この不整合の検出に「信頼」は必要ないということです。数学的な検証だけで済みます。


なぜ「外部への固定」が必要なのか

ここで一つ疑問が浮かぶかもしれません。

「両者が共謀したら、意味がないのでは?」

その通りです。もしトレーダーと会社が結託して、両方の記録を書き換えれば、不正は発覚しません。

だからVCP-XREFには、もう一つの仕組みが組み込まれています。それが「外部アンカー」です。

外部アンカーとは、記録のハッシュ値(指紋のようなもの)を、自分たちがコントロールできない場所に刻み込むことです。

たとえば、公的なタイムスタンプ機関に送る。あるいは、ビットコインのブロックチェーンに書き込む。

一度刻まれたハッシュ値は、もう変更できません。後から記録を書き換えても、ハッシュ値が合わなくなるので、改ざんが発覚します。

つまり、不正を成功させるには、以下のすべてが必要になります。

一つ目、トレーダー側の記録を改ざんする。 二つ目、会社側の記録を改ざんする。 三つ目、トレーダーが使った外部アンカーを破壊する。 四つ目、会社が使った外部アンカーを破壊する。

もしトレーダーがDigiCertのタイムスタンプ機関を使い、会社がビットコインを使っていたら、両方を同時に攻撃する必要があります。

これは事実上、不可能です。


「記録がないこと」自体が証拠になる

VCP-XREFには、もう一つ重要な特性があります。

「相手側に記録がない」という事実自体が、証拠として機能するのです。

たとえば、トレーダーが「この注文を出した」と主張し、照合IDつきの記録を外部アンカーに固定していたとします。

会社側にその照合IDに対応する記録がなければ、二つの可能性しかありません。

会社がその注文を受け取ったのに記録しなかったか、会社が記録を削除したか。

どちらにせよ、会社側に説明責任が生じます。

逆もまた然りです。会社が「このトレーダーはルール違反をした」と主張しても、トレーダー側の記録にその証拠がなく、かつトレーダーの記録が外部に固定されていれば、会社の主張は疑わしくなります。

「記録がないこと」を証明するのは、通常は悪魔の証明です。でもVCP-XREFでは、「本来あるべき記録がない」ことを示せます。


具体的な使い方

少し技術的な話をします。

VCP-XREFでは、すべてのイベントに「CrossReferenceID」という照合IDを付けます。これはUUIDと呼ばれる、世界で一意の識別子です。

注文を出す側(イニシエーター)がこのIDを生成し、受ける側(カウンターパーティ)が同じIDを参照して自分の記録を作ります。

両方の記録には、注文ID、タイムスタンプ、価格、数量といった共通の情報が含まれます。

そして、定期的にこれらの記録をまとめてハッシュ化し、外部に固定します。

あとは、両者の記録を突き合わせるだけ。照合IDで紐づけて、各フィールドを比較して、許容範囲内のずれなら「一致」、範囲外なら「不一致」と判定します。

この検証は、第三者でも実行できます。両者の記録さえあれば、誰でも同じ結論に到達できます。


規制との関係

VCP-XREFは、単なる技術的な提案ではありません。規制要件との整合性も考慮されています。

EUのAI法(AI Act)は、高リスクAIシステムに対して自動ログの保持を義務付けています。アルゴリズム取引システムはこれに該当する可能性が高く、VCP-XREFはその要件を満たす一つの方法を提供します。

MiFID IIのRTS 25は、アルゴリズム取引における注文ライフサイクルの完全な記録を求めています。VCP-XREFの照合メカニズムは、この要件に追加の保証を与えます。

SECのRule 17a-4は、証券会社に対して改ざん不可能な記録保持を求めています。2022年の改正で「監査証跡代替」が認められましたが、VCP-XREFはこの代替要件を超える保証を提供します。

規制当局にとっても、VCP-XREFは利点があります。独立した二つの記録があれば、どちらかの主張だけを鵜呑みにする必要がなくなるからです。


信頼から検証へ

プロップファーム業界の危機は、技術的な問題というより、信頼の問題でした。

トレーダーは会社を信頼できない。会社はトレーダーを信頼できない。規制当局はどちらの証拠も信頼できない。

VCP-XREFは、この「信頼の問題」を「検証の問題」に変換します。

信頼は主観的です。「あの会社は評判がいいから信頼できる」「このトレーダーは過去に問題を起こしていないから信頼できる」。こうした判断は、新しい情報で簡単に覆ります。

検証は客観的です。「両者の記録が一致している」「ハッシュ値が外部アンカーと整合している」。これらは誰が確認しても同じ結論になります。

"Verify, Don't Trust"(信頼するな、検証せよ)

これは私たちのスローガンですが、同時に設計原則でもあります。


おわりに

VCP-XREFは、VeritasChain Protocol v1.1で導入されたオプション拡張機能です。

基本的なVCPログに「照合ID」と「カウンターパーティ情報」を追加するだけなので、既存システムへの影響は最小限です。

仕様はCC BY 4.0ライセンスでオープンソース公開されています。GitHubで全文を読むことができます。

私たちは、この仕組みがプロップファーム業界だけでなく、ブローカーと顧客の関係、取引所と参加者の関係、さらにはAIシステムとその運用者の関係にも適用できると考えています。

「両者が記録する」というシンプルな原則が、信頼の構造を根本から変える可能性を持っています。

興味を持たれた方は、ぜひGitHubリポジトリをご覧ください。質問や提案も歓迎します。


VeritasChain Standards Organization (VSO) https://veritaschain.org https://github.com/veritaschain/vcp-spec

お問い合わせ:info@veritaschain.org

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