ベトナムの“覆う文化”と日本のUVカットパーカーの進化【前編】
日本でも、いよいよ日差しを意識する季節が長くなってきました。
最近は各衣料品ブランドから、紫外線対策のための「UVカットパーカー」の新作が次々と登場し、その進化ぶりに目を見張ることが増えています。
そんな中でふと、ハノイの夏の光景を思い出します。
というのも、日本のUVカットパーカーはここ数年で“覆う面積”が明らかに増え、あのベトナムでおなじみだった日差し対策用のパーカーにデザインが近づいてきているように感じるからです。今年の大手衣料品チェーンの新作は特にその「覆いっぷり」の進化がちまたでも話題になっています。
日本の街角でも、顔まわり、首元、手の甲まですっぽり覆われたUVカットパーカーをまとって、自転車を走らせる女性を見かけるようになりました。ひと昔前なら、顔や肌をほとんど隠した「ちょっと怪しめ」にもみえる見た目を気にして躊躇する人も多かったのでは、と思います。
実際、ベトナムに持っていくパーカーを日本で探していた10年ほど前。すでにUVカットの機能面が優れた商品は多かったものの、覆う面積を増やすことに注力されたデザインは少なく、親指を通す穴がついた長めの袖の普通のパーカーがせいぜいという程度だったのを思い出します。
ベトナム女性の鉄壁日差し対策「アオ・チョン・ナン」

ハノイで「いよいよ夏が近づいているな」と沸き立つ瞬間。その一つが、路上を埋め尽くすバイクの人々が、一斉に日差し対策の上着をまとい始める光景でした。
この日差し対策の上着は、アオ・チョン・ナン(Áo Chống Nắng)と呼ばれています。「Aó (アオ:服)」「Chống (チョン:防ぐ)」「Nắng(ナン:日差し)」で、その名の通り「日差しを防ぐための服」です。
深くかぶれるフードに、口元まで覆うファスナー。さらにバイク運転中に最も日差しを浴びる手の甲までしっかり隠す設計になっています。上着タイプだけでなく、ベトナムの女性にとって通勤時などの短いボトムスのときに重宝する、下半身を覆う巻きスカート型やロングタイプもあります。ローカルのお店で数万ドンから購入できるベトナムの「常備服」です。
当時主流だったのは、色とりどりの柄の布で作られた、やや厚手でしっかりした作りのアオ・チョン・ナン。中には二重構造になっているものもあり、「機能素材」というよりは“布の厚みそのもの”で日差しを遮る設計でした。試しに着せてもらったことがありますが、見た目以上にずっしりと重かったのを覚えています。
アオ・チョン・ナンをはおり、フードをかぶり、さらに布マスク、サングラス、ヘルメットを装備したその姿は、もはや肌の露出がほぼゼロとなり、誰が誰だか見分けがつかない完全防備となります。
ベトナム女性は日焼け対策に余念なし

40度にもなるハノイの夏。この暑さと重さに耐えてまで防備を固める人たちの姿に、当初は圧倒されました。しかし、通勤ラッシュ時に色とりどりの柄の布に包まれたバイク集団が道を埋め尽くす光景は、一つの様式美にも見え、ハノイの夏を感じさせる圧巻の風物詩でもありました。
ベトナムの友人たちにこの話をすると、彼女たちは笑ってこう言いました。
「だって日焼けしたら大変じゃない。日本人は違うの?」
当時、日本での日焼け対策といえば、日焼け止めを塗るか、せいぜい薄手の長袖を羽織る程度が一般的。暑さに耐えかねて結局は上着を脱いでしまうことも多い日本側の感覚に対し、ベトナムの女性たちの対策は徹底していました。美しい肌を維持することに一切の余念がないその姿勢からは、日差しに対する切実なまでの向き合い方の違いを実感しました。
アオ・チョン・ナンのバイク女性を象徴する用語「Ninja Lead」
このアオ・チョン・ナンの女性たちの姿は、北部だけでなく、年中日差しにさらされている南部などベトナム全土でみられます。
そしてベトナムではこうしたアオ・チョン・ナンを全身装着してバイクに乗る女性を象徴する「Ninja Lead(忍者リード)」という言葉も定着しています。
ベトナムの Ninja Lead は、アオ・チョン・ナンで全身を覆いホンダのLEAD(シート下の収納スペースが広く、ベトナムで女性に人気のバイク車種)に乗る女性の俗称です。顔まで隠す姿が「忍者」のようで、さらに彼女たちの予測不能かつ独特な運転スタイルがまるで「忍術」のようとされたのが由来となっているとのこと。現在は「忍者の運転には気をつけて」という安全運転のスローガン的な意味合いでの使われ方も多く、インターネットやSNSでも頻繁に話題になっている言葉です。
【後編へつづきます】
