HYROXの年商は200億円!?健康がカルチャーになる時代のビジネスチャンス。
先週千葉で開催され、大きな話題になったHYROX。
周囲にもトレーニングの様子をSNSに上げている人が何人もいたので気になって調べてみると、2017年にドイツで生まれたこの競技は、わずか8年で売上200億円規模まで来ています。
なぜここまでの熱狂が生まれているのか。
既に多くのビジネスパーソンが考察を書いているのを見かけますが、ブランド経営者の目線で改めて紐解いてみました。
自分たちのブランド事業にそのまま持ち帰れる話が多かったので、ぜひご一読ください。
そもそもHYROXとは何なのか
ルールは驚くほどシンプルで、1kmのランニングと1種目のステーションを8回繰り返す。
合計8kmを走りながら、その合間に8つの種目が挟まれています。

ステーションによってはかなりパワーの求められるものもあり、筋力と持久力の両方が揃っていないと完走できない設計になっています。
そして特徴的なのは、世界のどの国で開催されても、競技フォーマットが完全に同じであることです。
屋内開催なのでコースの起伏も天候差もほとんどなく、東京で自分が出したタイムと、世界のどこかで誰かが出したタイムが、そのまま比較できます。

同じくレース系のイベントで少し前から話題になっている、スパルタンレースと比較してみましょうか。
こちらは「大型障害物レース」という感じで、5〜21km以上のランニングに加え、壁を乗り越える、ロープを登る、重りを運ぶなど20〜30個の障害物を乗り越えてゴールを目指します。

(V inc.のメンバーにもHYROXに勤しんでいるメンバーがいるので話を聞いてみたところ、スパルタンレースは多少走れれば気合いで乗り切れるが、HYROXはしっかり鍛えていないと完走も厳しい、とのこと。)
そんなHYROXですが、競技の内容自体は、昔からあるサーキットトレーニングとほぼ同じです。
中身が革新的ではないのにこれだけ伸びているのか?
それは中身ではなく意味付けを変えたからだと僕は思っています。
そしてHYROXのもう一つの特徴が、世界のどの国で開催されても、競技フォーマットが完全に同じであることです。
屋内開催なのでコースの起伏も天候差もほとんどありません。
だから東京で自分が出したタイムと、アメリカで誰かが出したタイムが、そのまま比較できます。
8年で売上200億円、そして収益の8割がチケット
初大会は2018年4月、ドイツのハンブルクで開催され、参加者は650人でした。
そこから2023年には17.5万人・65大会、2025/26シーズンは5大陸85都市で105大会、参加者は130万人を超える見込みです。
こうした急拡大の裏側には、資本の話が絡んでいるケースが多いです。
実際、2020年にスポーツマーケティング企業のInfront Sports & Mediaが株式の半分を取得し、2022年には過半数を握っていました。
さらに直近では、L Catterton(LVMHのアルノー家がバックにいるプライベート・エクイティファンドで、韓国のアイウェアブランドGentle Monsterなどへの投資でも知られています)が、大型出資に向けて独占交渉に入っていると報じられています。企業価値は7億〜10億ユーロ規模と見られているようです。

スポンサーの顔ぶれも厚く、PUMAが2030年までの冠パートナー契約を結んでいて、そこにRed Bull、さらに自動車メーカーのBYDまで入ってきています。

財務面では、報道ベースで2025年の売上が1億3,000万〜1億4,000万ユーロ。日本円にすると200億円強です。2026年は2億ユーロ超という予測も出ています。
ただ、僕が一番驚いたのは売上の絶対額ではなく、収益の構造でした。
マラソンをはじめとする大規模参加型スポーツの大会は、収益のおよそ9割がスポンサー由来です。
ところがHYROXは、75〜80%がチケット由来。つまり参加者からの課金で成立しています。

大型スポンサーが付いているのに、収益の主軸はスポンサーではない。
これは、プロモーションで需要を作ったのではなく、需要が先にあったことの証明だと思います。
鍛えている人には、「見せる場」がなかった
では、その需要はどこから生まれたのか。ここからは考察を書いていきます。
この10年、特に都心では筋トレをする人はかなり増えたと思います。
ジムに通うことは、もう特別な趣味ではなくなっていますよね。
でも、鍛えた結果を見せる場は、ほとんど存在しなかったんですよね。
フィジークやボディビルの大会に出るという選択肢はありますが、あれは一般の人がいきなり手を出せるものではありません。
かといって、トレーニング中の自分をインスタのストーリーに上げるのは、正直ちょっとナルシストだと思われがちですよね。
発信することを仕事にしている人以外は、やっていることを表明する手段がなかったわけです。
そこにHYROXは「レース」という形を持ち込みました。
同じサーキットトレーニングでも、ワークアウトではなく「レース」と呼び、種目ではなく「ステーション」と呼びます。
タイムが出て、世界中の誰とでも比較でき、ランキングが付きます。
その難易度から完走したこと自体がそのままステータスになり、その先にはタイムやランキングがあるわけです。
似た構造で思い出したのが、トライアスロンの「アイアンマン」です。
トライアスロンという競技そのものは昔からあったのに、アイアンマンという名前が付いた瞬間、それに出ていることと、ロゴの入ったTシャツが、その人のアイデンティティになりました。
HYROXも同じで、参加していること、そのためにトレーニングしていることが、堂々と語れる属性になっています。
「俺、鍛えてるんだよね」は言いづらいけれど「HYROXのトレーニング、一緒にやらない?」なら言える。 この差はとても大きいと思います。
しかもフォーマットが統一されているので、2回目の人は前回の自分のタイムと比較できます。
ランキングと標準化が、そのままリピートを生む仕組みとして効いているわけです。
人と会う理由が、酒からスポーツに移っている
もう一つ、この競技の強さを支えているのが、男女問わず「一緒に出られる」設計です。
HYROXにはシングルスだけでなく、2人で出場するダブルス、そして男女ペアで出るミックスがあります。
互いに声を掛け合い、励まし合いながら8kmを走り切ります。
スパルタンレースには基本的にこの仕組みがなく、友人と一緒に会場に行っても、走るのは各自シングルスです。
取り組んでいるメンバー曰く、HYROXはトレーニングの過程そのものが「一緒にやるもの」になっているそうです。
ダブルスで出ると決めた瞬間から、二人で頑張ろうという関係が始まります。
これは、社会人になってからほとんど失われていた部活のあの感じなんですよね。仕事の関係とはまったく別種の楽しさがあります。
この構造は、海外ではさらに露骨に出ています。
北米では、マッチングアプリのSurf DatingがHYROXのオフィシャルパートナーになりました。

レース会場で独身者向けのリストバンドを配布し、レース前のシェイクアウトラン(軽く体をほぐすジョギング)や、レース後の公式アフターパーティーまで運営しています。
マッチングアプリが公式スポンサーに入るということは、そこが出会いの場として機能していることを、運営側も認めているということだと思います。
若い人の話を聞いていると、周りでランニングやトレーニングの習慣がある人たちは「相手も走ったり運動したりする人じゃないと嫌だ」と、その多くが口を揃えていうそうです。
自分がやっているからこそ、相手にも同じ生活リズムを求めるわけです。
若者がお酒をあまり飲まなくなった時、どこが出会いの場でになるのか?
マッチングアプリにも疲れている人が多い。
そこに、自然な口実があって、健康的で、終わった後に気持ちよく別れられる場が出てきました。
これは今の時代に対して、かなり納得度が高いのではないでしょうか。
僕自身も今トライアスロンのトレーニングをしていますが、それ自体が一つの用事になるので、年代を超えて人と集まる理由になります。
お酒と比べると翌日にダメージが残らない分、時間の使い方としての効率も良くなります。
日本ではフィットネス人口そのものは、思ったより増えておらず、伸びているのはおそらく都市部のアーリーアダプターの層。
一方で、トレンドが先行しているアメリカや韓国では、SNSに上がる投稿がお酒からトレーニングへ明確に置き換わっています。
日本もその方向に動いていくのだろうと予測できます。
PUMAがHYROXで取り返したポジション
ブランド側の話でいうと、PUMAの動きが個人的にはかなり見事だと思っています。
正直なところ、国内でのPUMAはNikeやadidasに比べて一歩劣後した立ち位置に見えています。
ところが今、HYROXに関わる人たちがみんなPUMAのロゴが入ったシューズやウェアを着たり、当日の会場ではPUMAのタトゥーシールをつけています。

その様子がSNSに上がり続けることで、「PUMAはイケてるブランドだ」という認識が刷り込まれていきます。
2030年までの冠契約は、その意味でとても良いポジションの取り方だと思います。
ここで重要なのは、スポンサードの価値が「会場に出せる」「その場で商品に触れてもらえる」だけではない、という点です。
シェアされやすい競技に入ると、会場にいない人の視線まで取れます。
L Cattertonのようなコンシューマー領域に強いファンドがここに入ろうとしているのも、同じ文脈だと思います。お金をかけて何かを買う人ほど、フィットネスを日常に取り入れている——その重なりが、年々大きくなっているということです。
最後に - 学びを事業に活かす面白さ
長くなりましたが、僕がこの競技から持ち帰った学びを、最後に3つだけまとめさせてください。
1つ目:初期設計とゴールの高さがすべてを決めるということ
HYROXの創業者は「1億人が参加できるグローバルな競技フォーマットをどう作るか」という問いから事業を設計しています。
一方でクロスフィットは「最高のトレーニングを作る」という思想から始まっています。
だから、きつくてしんどいもので終わってしまいます。
どちらが優れているという話ではなく、最初に立てた問いの違いが、そのままビジネスの構造の違いになっているわけです。
ダブルスがあるのも、統一フォーマットなのも、ステーションという呼び方も、すべて「1億人」から逆算すると必然です。
後発でありながらシェアを取れている理由は、プロモーションの巧拙ではなく、プロダクトとしての強さにあるのだと思います。
後発だからやめよう、と考えてしまう場面は多いのですが、領域選定と初期設計が違えば、後から入っても面は取れます。
2つ目:プロダクト自体がマーケティングを内蔵しているということ
HYROXは、広告が上手いのではありません。プロダクトそのものが、広まるように作られています。
これまで僕たちは「SNSでシェアされるかどうか」を、プロダクトデザインやパッケージ、いわゆる映えるかどうかの軸で考えがちでした。
でもHYROXを分析して強く思ったのは、「人との交流の中に現れるものかどうか」が、それ以上に効くということです。
一人で完結するものは、発信されません。
誰かと一緒にやるもの、誰かに見せる理由があるものだけが、自然にコンテンツになっていきます。
しかも、投稿する側に後ろめたさがありません。
発信のハードルを下げた分だけ、コンテンツの総量が増える設計になっているわけです。
3つ目は、楽しさは消えないニーズだということ。
僕たちV inc.でいえば、Mehlography Lab.やAMATERAS(現:Wabi)のように、コンテンツを大事にしているブランドほど、この考え方が効いてくると思っています。
一人で使うものとして設計するのか、誰かと一緒に使う場面まで含めて設計するのか。
買った後に、その人が誰かに話したくなる理由を仕込めているか。
使うシーンが自然と思い浮かぶクリエイティブを、購入導線の近くでどれだけ量産できるか。
HYROXは、それを競技という形でやり切っています。基準として、これ以上ないくらい分かりやすいお手本です。
そして根っこにあるのは、結局「楽しい」という感情だと思います。
人と繋がっていたい、一緒に何かをやりたいという欲求は、時代が変わっても消えません。
届けるものも、作るコンテンツも、そして組織そのものも、楽しくやる。その重要性は、これからもっと高くなっていくのではないでしょうか。
現実に起きている熱狂の中身を分解して、その構造を自分たちのものづくりやサービスへと昇華していく。
それが、僕たちV inc.の思う理想の仕事の仕方です。
そんな風に学び続けながら、素敵なブランドを一緒に作っていきたい。
心から、そう思っています。
・圧倒的に成長したい。
・普通では出会えない人や仕事に触れたい。
・全体を見渡す視点を身につけたい。
・ブランド、事業を創りたい。
もしそんな想いがあるなら、今のV inc.は最高の環境になるでしょう。
そして2〜3年後、あなたのキャリアは今想像している以上の景色を手にしているはずです。
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