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イタリアワイン、味の時代的変容について

Vol.054
イタリアワインの味は、時代によって傾向が変わります。ブドウ栽培の改善や化学的な醸造法の進化なども含め、“いまの時代”にふさわしいワインが造られるからです。見方を変えると、造られたワインは、生産者が選んだ味といってもいいかもしれません。わたしたちが飲んでいるワインは、わたしたち自身が欲した味とは簡単には結び付けられないのです。
今回は、時代が流れるように変容したワインの味を、ヴィーノサローネ主の視点で論考します。

わたしたちが「美味しい」と感じて飲んでいるワインを、ひと言でいい表すことは、実は困難です。なぜなら、味覚は個人的な感覚だから(いったん留保は必要ですが)。しかし、こんな状況はよくあります。

たとえば、ワインバーやレストランで、白ワインを何人かで飲んでいるとき、「スッキリとして爽やか」「果実味がしっかりとしている」といった共通した感想を交わします。それはどういうことか。つまり、同じように感じ取れる味覚は、いわば“ワインの骨格”です。ブドウ栽培、醸造をとおして生まれる、最も特徴的な味を読み取っているのです。

続いて、そのほかの味わいは? と聞いた場合。それぞれ異なった感想が出てきます。最初に共通して感じた味は、「ワインを支配する主要な味」で、よく飲まれている人気のワインであればあるほど、その時代を象徴する味となります。

この路線で、大胆に論を進めます。
現在、イタリアで最も注目されているワインは、オレンジワインと断言できます。オレンジワインの好き嫌いは別にして、ナチュールワインという大きな枠組みにも入るオレンジワインは、上り調子の人気です。
オレンジワインを起点に、時代を遡り「イタリアワインの味の時代的変容」をみてみましょう。
今年は、2025年ですが、各時代でマーケットを賑わせたワインをわかりやすく図式化します。

●オレンジワイン      2025年
●ナチュールワイン     2010~現在
●ロゼワイン        2007~10年
●白ワイン/品種を活かす味 2003年~現在
●白ワイン/バリックの香り 1995年~現在(減少)
●赤ワイン/熟成フルボディ 1980年~現在(下降)


さて、どんな味の傾向が読み取れるでしょうか。

フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州の銘醸「ラディコン」のブドウ畑。
ラディコンのホームページから転載。


順を追って説明しましょう。
2010年代前後にはじまったナチュールワインのブームは、なにが発端となったのか。いくつかの要因はありますが、明らかな点は、ワインの造り手の意識改革です。
そのころ、より自然な状態でブドウを栽培し、ワインを醸造させるという考え方が広まり出しました。それまでの、ブドウ畑に除草剤をまき、害中も除去し、いかにして人為的にブドウの成長を保護する、という仕事を真っ向から対立する思想。それは地球環境保護の観点からも、納得できるワイン造りの道となったのです。

その前のロゼワインブームは、とてもシンプルな理由です。ワインを販売する側のプロモーションの狙いとして、赤でもない白でもない、“ロゼワインが美しく、新鮮”だと広めたのです。

このように時代を下りながらワインの傾向を説明すると、山の上から裾野を眺めているようで、造り手の思想や、ワインプロモーターの策略が手に取るようにみえてきます。

2003年ごろから、造り手が意識しはじめたことは、ブドウ品種の個性を活かした白ワイン。これが現在主流の白ワインの味わいです。ここに行き着いたのは、ある種の反動だろうと主は考えています。
1990年代半ばあたりは、白ワインといえば、ほとんどの品種はシャルドネを使い、フレンチオークの新樽で十分に熟成させたもの。当時、思い出されるいい方が、「バリック、バリバリ」。フレンチオークの樽はバリックといいます。そして、バリバリとは、たっぷりと樽香を白ワインにしみ込ませた、冗談交じりのオノマトペでした。

ここでポイントがふたつあります。まず、イタリアのワインが世界に認められるために、ニューヨークを中心にした北アメリア市場を征服しなければならなかったこと。それには、アメリカ人の味覚にあう、より濃厚な味と香りのワインが必要でした。それを満たすための醸造が、「バリック、バリバリ」だったのです。
そんな白ワインはいま、傾向としては減少気味です。ブドウ品種の個性を活かした、ピュアな白ワインやナチュールワイン、その延長線上にあるオレンジワインの人気をみれば、明らかでしょう。

もうひとつのポイントは、その前時代、熟成したフルボディの赤ワインが世界のマーケットを占領していたことです。それは、最も重要な売り先となった、アメリカ人の味覚が世界の中心だったことを意味します。要するに、フルボディの赤ワインに負けない味と香りに比肩する白ワインは、「バリック、バリバリ」に熟成させなければ味わいが物足りなかった、と主は読んでいます。

この50年あまりを、大きな視点でワインの味や香りの変遷をざっくりとまとめます。
1980年代からはじまった世界的なワインブームは、北アメリカがマーケットの中心になり、濃厚な味覚が好まれた。シャルドネの白ワインがそれに追随する。その後、ブドウの自然な味わいを大事にするべきだ、と造り手の意識が変化し、そのあいだに、目先を変えるロゼワインブームが起こる。そして、原点回帰ともいえる、より自然なワイン造りへと向かい、現在にいたっています。

いわば、デコラティブで濃厚なスタイルから、ピュアで本質的なワインへ。これ、なにかファッションの時代変遷(トレンド)と似ていますね。

次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。

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