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今度は男の子! 〜Vの家にようこそ🤹‍♂️②〜

 皆さんは、何か無心で単純作業をしていたりする時に、いきなり頭に脈絡のない言葉がポンと浮かんだり、或いは突然どこかから落ちてきたかのように言葉が浮かぶ、という経験がおありだろうか。

 そんな時、Vの場合は何もない空間、薄いグレーと薄い茶色の混ざったような色の空間に文字が浮かぶ。

 何かで読んだことがあるのだが、それは無心な状態の時、脳が情報を整理しようとしている、ということらしい。

 以前、ポンと頭に浮かんだのは、『ヴィレッジヴァンガード』だった。Vはそれが何の名前か分からず、Yahoo検索した。都会にある、本や雑貨を扱うお店。へぇ。

 そこに今度行ってみようと思って意識していたわけでもなかったので、思わず自分の頭の中に向かって、『だからそれが何?」と聞いてみた。返事はない。
 
 きっとTV番組の中で店の紹介でもあって、名前が脳に記憶されていたのだろう。どうやら脳が必要のない情報を消去している際に、弾き出された言葉の一つであったのだろう、と理解した。

 かといってそんな経験が度々あったわけでもなく、たまに思い浮かんで、『何これ?』と思った程度のことである。

 このところ、ある分野に関して、いきなり頭の中に言葉が落ちてくる、という経験が続いた。非常に狭い分野にまつわることで、その時必要な情報であったから、あ、思いついた、良かった良かった、と思っただけのことである。
 ただし、何故それを思いついたのかは謎で、とても不思議だった。


 もうそろそろ人形の話はやめろ、と皆さんに呆れられそうな気もするけれど、昨夜また起きたことなので、書いてみたい。

 昨日は土曜、Oは本日日曜に仕事関連の会合があるので、土曜は犬を連れて出かけたがっていた。どこに行くか、はい、いつものアンティークマーケットだ。Sophiaに出会った場所。

 気楽に品物を眺め、毎回出店する八百屋さんで野菜や果物を沢山買い、お茶を飲んで帰って来る。
 ただそれだけのことなのだが、美しい木立の中に並ぶ店、毎回違う品物を眺める楽しみ、スーパーよりも安い野菜、そして街中よりも安いカフェ、とても気楽で楽しい。このドリンクスタンドで出されるソーセージを挟んだ小ぶりなバゲットのサンドイッチは絶品で、ドイツに来て食べた食べ物の中で一番美味しい、とOもVも口を揃える。

 外側はカリカリ、中はしっとりした卵形のバゲット、太いソーセージの塩味も絶妙で、他のビアガーデンやカフェなどで出されるものよりも遥かに美味しい。
 どうしてこんな場所の、気楽な店のものなのにこんなに美味しいのか、と毎回話している。そのくらい美味なのだ。

 土曜日にどこかに行く?と話が出た場合は、必ずこのアンティークマーケットを差すのである。
 午後はそのまま郊外の大型ショッピングセンターに行ったりもするが、沢山の店が並んでいて華やかで便利だけれど、広すぎて疲れるし、混み合っていて正直言って楽しくない。

 さて、いつものように車を置いて、敷地内に入ると、一番最初にあった店に目を引く品物があった。
思わず引き寄せられるように向かうV。

 男の子のビスクドールだ。この子が売られているのを初めて見たが、大変可愛らしい。男の子の人形を買おうと思ったことはこれまでなかったので、少し自分でも驚いたのだけれど、顔の出来、凝った洋服や帽子、とても良い人形だ。

 Vはこれまで街のおもちゃ売り場や専門店に行くことがあれば、いつも人形を眺めていたのだけれど、数もさほどなく、気にいるものはまず見つからなかった。その為、ドイツのビスクドールに関しては何も期待せず、メーカーの検索などもしたことはなかった。

 こちらから見つけようとしなくても、お気に入りの子とは偶然の出会いがあった。家に来ることになる人形は、必然があってVの目の前に現れる。だから積極的に探さなくてもいい、そういうものだと思っていたのだ。

 最近、人形との出会いが続いていたし、そのせいで家の棚には置き場所もなくなっている。もう買うこともないだろう、と思っていたのに、また出会ってしまった。

 Oの方を見ると、犬と一緒に少し先を歩いている。一番初めのこの店は、帰りにも必ず前を通る。その時にもう一度見てみよう、とOの後を追った。

 2時間ほど見て回り、買い物をして、お茶を飲んで帰ることに。人形を見た店が近づいてきたので、
「あの入り口近くの店に、すごく良い人形がいたの」とOに話してみた。
「どんな?」とO。
「男の子が2体」
もうOも人形慣れして麻痺しているので、また人形?などと言うこともなく、
「男の子って珍しいね。じゃあ帰りに寄ってみればいいじゃない」と寛容である。

 店には先程のまま、2体が並んでいた。よく見ると付属品らしいそばの木箱にCoca-Colaの文字が。
「これはCoca-Colaとのコラボ商品みたいね」



フランクリンミント社 Coca-Colaコラボビスクドール


 人形にも付属品にもラベルが付いたままの新古品だ。
 先ほどよりもゆっくり顔を見てみると、まつ毛もある。ぱっちりとした目はまつ毛に縁取られてとても可愛らしい。


 ビスクドールのまつ毛は、絵付けされているものが多いのに、この子はリアルまつ毛だ。珍しい。上質な人形の証だ。




 洋服はジャケットの襟や前立ての仕立てが丁寧で、前身頃の茶色のパイピングが効いている。これを挟み込んで作るのはとても面倒な作業なのだ。また七分丈のニッカボッカーのウエスト部分は、ベルト部分がちゃんと作られ、ベルト芯も入れられている。ジャケットの裾で隠れているというのに。


ニッカボッカーウエスト部分



 ベルトを外して裏を見ると、カギホックを受ける部分は糸でループが作られている。大変丁寧な作りだ。日本の既製品でも、今時はこんな風には作らない。
 靴は合成皮革の編上げ靴。よくできている。



「すごく服も凝っているし、顔も可愛い」 
家にはもう置く場所がないけれど、良い製品であるので、やはり褒めてしまう。
 店の人に来歴を聞いてみると、やはりコラボ商品で、新古品。人形だけではなくCoca-Colaを運ぶ木箱もセットでの価格だという。

 Oは一言、
「買っていけばいいじゃない。良い人形だよ」
 Sophiaを買った時の3倍ほどの値段ではあるけれど、勿論お買い得価格である。Oの価値基準に合致したようだ。
 
 Vは置く場所がないことは忘れた。
「‥‥連れて帰る」

 気がかりなのは、別のデザインの洋服を着たもう一体の人形である。でも比べるとやはり好みなのは一体のみ。
「ごめんね。誰か良い人に買ってもらってね」とVは呟いて、袋に入れてもらった人形をそっとバギーに積んだ。
 車に戻る前に、客の何人かとすれ違ったが、彼女たちは皆、袋からのぞく人形の顔を『あら?』という表情で眺め、それからVの顔を眺めてにっこりした。
『可愛い子を買ったのね。良かったわね』
そんな表情だ。やはり人形というのは、眺めると何か特別な感情が湧くのだ。


 家に帰って、洋服や帽子を洗濯する。手洗いで3回洗剤液をとり替えたが、長い間の埃で茶色の水になる。
 改めて、付いていたラベルを眺めると、フランクリンミント社とある。ラベルは人形の取り扱い説明書も兼ねている。
[洋服の洗濯は、ドライクリーニングのみにしてください]
 既にぬるま湯でお洒落着洗いをしてしまった‥‥それも3回も洗濯液を替えてジャブジャブと。
 

 人形の頰は薄っすら汚れている。これは取扱説明書の通り、中性洗剤を使い、コットンで優しく拭き取った。洗剤が残ると嫌なので、顔も手も丁寧に洗い流して拭き取る。
 綺麗になった人形は、タオルにくるんで服が乾くまで寝かせておく。


 Vは知らなかったのだが、フランクリンミント社は、ビスクドールのメーカーとして有名な会社のようだ。
 日本のフリマサイトにも何体か載っている。おや、日本にも一定数のファンがいるようだ。手放すのであるから、熱烈なファンとは言えないのかもしれないが、一度は愛されて家に迎えられた子たちだ。この子たちが再び新たな家に迎えられますように。


 夕食後、この子に名前を付けようと思い立つ。ドイツ人の男の子の名前でVが思いつくのは、ルートヴィヒ、マクシミリアン、カール、クラウス、ルドルフ、エミール等、王族の名前や物語の主人公の名前ばかりだ。
 この子に似合いそうな親しみやすい名前は、取り敢えず思い浮かばないので、最近の人気の名前を検索してみる。


1位:Matteo マッテオ
名前の意味:神から与えられた、神の贈り物

2位:Noah ノア
名前の意味:平和をつくる、落ち着き

3位:Leon レオン
名前の意味:ライオン、強い、戦士

4位:Finn フィン
名前の意味:白い、公正な、ブロンドの

5位:Elias エリアス
名前の意味:主は私の神

6位:Paul パウル(ポール)
名前の意味:謙虚な、小さい

7位:Ben ベン
名前の意味:ラッキーな、幸福な

8位:Luca ルカ
名前の意味:輝く者、光る者

9位:Emil エミール
名前の意味:熱心な、熱中した

10位:Louis ルイス
名前の意味:著名な戦士

AIによる 2021年のランキング


 
 一年一年、ランキングは変動する。マッテオやレオンはここ数年急激に人気が出た名前のようだ。

 Vは短い名前が似合いそうだと思っていたこともあり、Lucaがいいかな?と思った。意味も良い。
 一応Oにも話してみる。Oはさほど興味を示さないものの、
「良いんじゃない?」と。

 ルカは良い名前だと、V自身がそう思って決めたことなので、ひとまず決定して、シャワーを浴びることにした。

 
 髪を洗いながら、
『あれで良かったのかな? 良い名前だけど、頭の中に落ちてきたわけじゃないから』
とVは思う。


 人形の名前についてはこちらを↓



 この記事のコメント欄でのやり取りの最中に、人形の話題が出された。

『そういえば、ヴェネツィアから来た道化師の衣装の人形に名前を付けていなかった』
とVは思い出した。男の子ということもあってか、思いつかず、ピンと来なかったので保留にしていたのだった。

 ふと目を上げて、人形を眺めたその瞬間、頭の中に名前が落ちてきた。
《Carlo》
 いつも何かを思いつく時の状態と同じ、薄いグレーと茶色が混じった何もない空間の中に、アルファベットの綴りが浮かんだのだ。
 
 『あなたカルロなの? 』
名前を考えたのではない、落ちてきたのだ。Vはカルロという名前に馴染みがなかったので、どこの国の名前かもわからず、検索してみた。
 イタリア人の男子名、意味は『自由』
あの子にぴったりだ。



 Sophiaはずっと好きで準備していた名前だった。そして長い年月を経て、その名前を受け入れる人形と出会うことになった。
 《Carlo》は頭の中に落ちてきた。元々その名前だと決まっていたかのように。

 それを思うと、
『Lucaは良い名前だけど、それで良かったのかな、無理に付けると馴染まないんだけどな』


 シャワーの温かいお湯を浴びながら、Vがぼんやりと考えていたその時に、ふいに頭に言葉が落ちてきた。

[ぼく、Theoだよ。Theodor]

 『え?!』

 Vは背中がまたゾワゾワした。また来た!
『ぼく』って言った! 😱
急いでシャワーを終えて、浴室を出た。

 スマホを取り上げ、テオドールを検索した。
[ヨーロッパで人気のある名前。ドイツ、イタリアに多い]
 ドイツ名で問題ない。Vはいつも人形に製作された国の名前を付けている。

 また落ちてきた名前が、その国の名前に該当していた‥‥Vにはさほど馴染みがなかったので、思いつきもしなかったテオドール。二文字で呼びたかったので、愛称はテオ。ぴったりだ。

 Theodorの意味は『神の贈り物』。うわ‥‥✨✨
意図した訳ではないのに、名前の意味までもVの理想だ。

 何よりVがゾワゾワするのは、Carloの時もそうだったが、頭の中に浮かんだのはアルファベットの綴りだった。
 自慢ではないが、Vはイタリア語のカルロ同様、ドイツ語のテオドールの綴りも知らなかった。

 背中がゾワゾワする。何故綴りまで合っているのだろう。
『Vの弛まないドイツ語の研鑽による結果』では絶対ない。ドイツ語の会話は勉強しても、人の名前はさして必要がないから書いたこともない。

 
 Vはしばらく固まっていたが、今回も世の中には不思議なことがあるのだ、ということにした。


「この子の名前ね、テオだった。テオドールだって」
Oに伝える。

「‥‥だった?」
 Oはそう言葉に出したけれど、それ以上聞いてはこなかった。Vもそれ以上の説明はやめた。

「テオ、我が家へようこそ」
 Vは、タオルにくるんで寝かせておいたテオを抱き上げて、そう呼びかけた。



OパパとVママのお家の子になったよ



                —了—


【あとがき】
 人形を語ることはら私にとって何であるのか、自分自身でも不確かな部分であった。

 
 そのことをエッセイを書く意味や在り方と結びつけて、また人生の中で切り離せないで執着してきた事柄や思いについて、武智倫太郎氏が語ってくださった。

 いつも私が立ち返り、体験の中から更にそれを更新しつつ継続していくことを、[定点観測]と定義していただいた。

 身内ですら呆れたり不思議がっている私の生き方を、no+eの中で、こうして昇華させてくださったことに、心より感謝を申し上げる次第である。



 テオは、Coca-Colaのお仕事のお手伝いはしばらくやりたくないように見えたので、昨年同じマーケットからやって来ていたお姉様方に荷車をお譲りしました。


ホホホ🎶 私たちのサイズね

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