柚あそび〈ゆあそび〉
~1500文字~
(性的表現あり)
金黄の柚子の半身を握りつぶす。ぶしゅぶしゅと気の抜ける音が静かに響き、実をくるむネットの内側に果肉が漏れだす。
放たれた芳香を含んだ湯気が漂う。
鼻の奥が、熱っぽい酸味でつんと突かれる。
握っては、緩める。
何度も繰り返すと、硬くて張りの強い皮にぐったりと折り目がついた。
皮の微かな油分で、心なしか湯あたりが和らぎ、手ですくうとゆったりとした丸みを感じられる。
何度か両手を湯で満たしては、首や二の腕をさする。
………肌に柚子の香りが残るのでは?
ふと、そんな疑問が湧いた。
もしもそうならば、それは………俺ではなく、むしろ妻の身体が香る方が、愉しいものじゃなかろうか。
半年前に結婚した2才年上の妻は、季節の催事が好きだ。
そういう自分も、独身の頃は、入浴剤なんかで誤魔化しながらも、冬至は柚子湯という母の教えを踏襲していた。
柚子を手にしていると、小学生の頃が思い出される。ふざけすぎて、果肉まみれになった湯船に大慌てで浴槽の栓を引っこ抜き、排水溝を詰まらせて母親に咎められた。
四十にもなって、同じ事故を起こすわけにはいかない。
もみほぐした柚子のネットを軽く放り投げた。ぼちゃりと湯の中に沈んでから、ぷかりと再び湯船に顔を出す。
弄ばれ乱れきり、力尽きたような無防備な柚子を残し、湯船からあがった。
*
脱衣所の鏡の中の自分の半裸を眺める。
だいぶたるんだよな、最近ジム行けてねぇし、やべぇなと腹の辺りに目をやってから、右の二の腕を顔に近づける。
………香りがするような、わからんような………
唐突にランドリールームの引き戸が開き、妻が顔をのぞかせた。
「お風呂、出たのよね?」
「今出たとこ」
「どうだった?柚子」
「ん、気持ちよかった」
妻は中に入って来ると、俺の身体に両手をまわし、胸元で微かに鼻を鳴らした。
「どうした?」
「……柚子のにおい、するかなぁって思って」
「俺もおんなじこと考えてた。どう?」
「ん-、わかんない」
「風呂出たら呼んでよ、俺もやりたい、それ」
「んー、覚えてたらね」
「狡い」
「じゃあ、あたしも入っちゃおうかな。追い炊きできないし」
「じゃあ、俺も、もう一回一緒に入っちゃおうかな」
「えー?今出たところでしょ」
クスクスと笑い、パジャマとってくる、と彼女はランドリールームを後にした。
…………結局、肌には残らないのか。
はんなりと漂う全身の残り香を鼻先で確かめながら、肌をくまなく味わってみたかったのに。
────いや、もしかしたら、あんなに柚子の果汁が染み出た湯船に入っていたら、微かに味がするかもしれない。
再び二の腕を顔まで持ち上げ、口元まで近付ける。
………やめた。
男が自分の肌を舐めたって嬉しくねぇし。
フリースのパジャマを抱えて戻って来た妻に、「よぉ~く、あったまってきなよ」と声をかけた。
Tシャツを着ようと手に取ると、「あ、待って」と妻の小声に引き止められた。
─── 一瞬、右胸に妻の舌先が這う。
「……んー、味もしないかぁ」
「……あのさぁ」
「ん?」
「俺が思いついたことを先回りしてやっちゃうの、やめてくれる?」
「えー?そうなの?思いついたらすぐ行動しないとね」
笑いの余韻を残しながら、妻はスウェットのパーカーをたくしあげる。
その胸元に、今度は俺の方が吸い付き、舌先で味わう。
「……もぉ、お湯がぬるくなっちゃうからダメ。あっち行ってて」
「……思いついたからさ」
「何を?」
「柚子の風呂に入る前と後で味が変わるかなーって、比べんの」
お付き合いくださり
ありがとうございます。
「柚」は、「ゆ」とも読みます。
古くはこの一文字で
柚子を意味していたそうです。
恋したい、
誰かといたい、
誰かとしたい、
愛し合いたい。
そんな気持ちを擽る言葉を
綴ってゆきます。
ゆったり、
マイペースで書き続けます。
お気に召されたら、
また遊びにいらしてください。
