カゴの中身を客と店員で共有しているような温かさ
スーパーのカゴに、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、牛肉。
――カレーやろ?
サーモン、アナゴ、海苔、卵、キュウリ、ミツバ。
――巻き寿司やん!
レジの店員に今日の献立を見透かされてしまう買い物は結構恥ずかしい。
あえてポテチなどもカゴに放り込んでごまかしたり。
***
以前チラッと書いたが、大学生の頃に八百屋でバイトをしていた。
釣銭がザルに入って天井からぶら下がっている昔ながらのスタイル。
店は角地にあって広く、店員が買い物カゴを持ち、買い物客について回る。
客が指す野菜を次々とカゴに入れながら、代金を暗算で加算していくのだ。
「そこのジャガイモとニンジンくれへん? ジャガイモはメークインが崩れんでえぇわ。それとこのタマネギも入れといて。肉は…ないわな。ガハハ」
――ふふふ…カレーか。
「あ、キヌサヤ忘れとったわ。パリッとしたん入れといて」
――ひょえー…肉じゃがかい!
――えっと…いくらやったっけ…
「キヌサヤってシャキシャキでおいしいやろ? スジ取るんめんどくさいけどな。これ卵とじにするねん。帰りに卵屋も寄らんと」
――えー肉じゃが違うやん、絶対カレーやん…
30年前、ミルクボーイみたいなおばちゃんがすでにこの世にいたのだ。
心でツッコミ入れながらついて回った僕は、途中で暗算を完全に放棄した。
「えっと、2300円です」
「うそやん、なんでよ。高すぎるって」
いや、なんでと言われましても、あなたが途中で肉じゃがを匂わせるから、と口をついて出そうだったが、勝ち目はないのでぐっと心に留めた。
そんなお笑い劇場のような京都の八百屋。
***
今晩の材料を買いに来たものの、まだ献立が定まっていない客も多かった。
うーん…と悩む客には、カゴの中を見てこちらから献立を提案する。
「今日はいい男爵入ってますよ。お子さんポテトサラダ嫌いですか?」
ニンジンとキュウリがカゴに入っている客にそう声をかけると、たいていの場合、「あぁそれでいこ! あと一品に困っててん」となる。
毎回ポテトサラダというわけにいかないので、こちらも勉強だ。
ニンジン、タマネギで止まっている客に、ダイコン、トマトを勧めてミネストローネとか、ピーマン、シイタケ、キクラゲを勧めて八宝菜とか。
***
食品はスーパーで無言のうちに買うのがあたりまえの時代。
レジで「今日は肉じゃがですか?」「いやカレーなんですよ」とにこやかに話せたら、カゴを見られても恥ずかしくないのかもしれない。
八百屋には、カゴの中身を客と店員で共有しているような温かさがあった。
買い物の現場からどんどん消えゆくコミュニケーションを憂う。
(2022/3/26記)
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