📚 安くても高くても、なぜその価格?┃価格の正体┃女性起業家向けの話
安くても高くても、なぜその価格?
価格の正体
\ 女性起業家向けの話 /
その日、二人が同じテーブルに着いたのは、ほとんど偶然だった。
小さな交流会の、終わりがけ。人がまばらになったカウンターの端で、結(ゆい)は冷めかけたコーヒーを前に、ため息をついていた。隣に座った直美(なおみ)が、それを見て、ちょっと笑った。
「すごいため息」
「あ、ごめんなさい。値段のこと考えてたら、つい」
「値段。……わかる。私も、そこでずっと止まってる」
結は、ハンドメイドのアクセサリーを作っている。手は、たぶん悪くない。でも、いざ売るとなると、どうしても高くつけられない。
「この前、思い切って三千円にしてみたんです。そうしたら、なんだか申し訳なくなっちゃって。こんな小さなもので三千円なんて、図々しいかなって。結局、千八百円に戻しました」
直美は、それを聞いて、目を丸くした。
「逆だ。私、まるっきり逆」
直美は、エステサロンを開いている。技術には自信がある。だから、強気の値段をつけた。九十分のフェイシャルコースで、一万五千円。つけたまま、半年、ほとんど予約が入らない。
「私は、下げたくないの。下げたら、自分の技術を安く見られる気がして。でもね、ほとんど、来ないの。だから、もう、間違ってるのが値段なのか、それとも私自身なのか、わからなくなってきて」
「一万五千円……」結が、小さくつぶやく。「私からしたら、すごいです。よく、その数字を出せますね」
「つけるのはね。つけるだけなら、できるの」直美は、ちょっと肩をすくめた。「問題は、その値段で、来てもらえないこと」
二人は、しばらく黙った。
「ねえ」と、直美が言った。「私たち、正反対だよね。あなたは安すぎて、私は高すぎる。なのに、なんで二人とも、同じくらい行き詰まってるんだろう」
結は、少し考えてから、答えた。
「私が三千円をつけられないのは……たぶん、自分の作るものに、それだけの値打ちがあると、思えてないからです。手は、動かせる。でも、これにそんな価値があるのって聞かれたら、答えられない」
「私は、その逆」直美が言う。「私は、自分の技術に一万五千円の価値があると、思ってる。思ってるから、その数字を出した。でも……お客さんに、それが伝わってない」
「伝わってない、っていうのは」
「うーん」直美は、言葉を探した。「私、メニュー表に、コースの中身は全部書いてあるの。クレンジング、角質ケア、リンパマッサージ、パック、九十分。使う化粧品のブランドも。漏れなく、書いてる。でも」
「でも?」
「それを読んでも、一万五千円の理由には、ならないんだよね。九十分で一万五千円。この辺の個人サロンって、だいたい六千円から一万円くらいなの。だから、高い、って思われて、終わり」
結が、ふと、顔を上げた。
「……それ、私と、同じかもしれない」
「同じ?」
「私も、説明には、素材は何で、何センチで、どんな技法で、って全部書いてるんです。でも、書けば書くほど、なんだか、ただの『材料費プラス手間賃』みたいに見えてきて。だから、千八百円が妥当な気が、してくる」
二人は、顔を見合わせた。
「……待って」直美が、ゆっくり言った。「私たち、さっきからずっと、値段の話をしてるつもりだったけど。本当は、値段の話、してなくない?」
「……してない、ですね」
「私は『九十分で何をするか』の話をしてた。あなたは『何センチで、何の素材か』の話をしてた。どっちも……値段そのものの話じゃ、なかった」
結の手が、止まった。
店内の音が、少しだけ、遠のいた気がした。
結は、自分のアクセサリーのことを、思った。なぜ、自分はこれを作るんだろう。前に、買ってくれた人が、ひとり、こう言ってくれたことがある。これをつけると、背筋が伸びる気がする、と。自分のこと、少しだけ、好きになれる気がする、と。
「私……」結は、ほとんど独り言みたいに言った。「つけた人が、自分を好きになれるものを、作りたかったのかも。材料の話じゃ、なかった。あの、背筋が伸びる、っていう……あの感じだったのかも」
直美も、自分のサロンのことを、思っていた。一万五千円で渡していたのは、九十分の工程、じゃない。施術のあと、鏡を見た人が、ふっと表情をゆるめる、あの瞬間。「最近、自分の顔、見るのも嫌だったの」と言っていた人が、また鏡の前に立てるようになる。たぶん、その変化のほうだった。
「私が渡してたのも……時間じゃ、なかったのかも」直美が、ゆっくり言った。「鏡を見るのが嫌だった人が、また自分の顔を見たくなる。その変化。なのに私、九十分の工程のほうに、値段をつけてた」
「じゃあ」結が、おそるおそる聞いた。「値段は、どうしたら、いいんでしょう」
直美は、少しだけ、笑った。
「わからない。でも……たぶん、それは、今すぐ考えることじゃ、ない気がする。私が『また自分の顔を見たくなる』って、ちゃんと言えたなら。値段は、そのあとで、見えてくる気がするの。あなたも、『自分を好きになれる』って言えたなら……千八百円なのか、もっと上なのか。もう一度、ちゃんと、考えられるんじゃない?」
結は、コーヒーを、ひとくち飲んだ。すっかり冷めていたけれど、さっきより、少しだけ、飲めた。
「私たち、ずっと、数字ばっかり動かしてましたね」
「うん。上げたり、下げたり。……でも、動かすところ、そこじゃ、なかったのかもね」
二人は、それぞれ、紙ナプキンを一枚ずつ取った。どちらからともなく、ペンを出す。
そこに何を書いたのかは、二人にしか、わからない。
ただ、書いている途中で、何度も手が止まっていた。書いては、消して。また書いては、首をかしげて。簡単には、いかないらしい。それでも二人は、さっきまでとは、少し違う表情をしていた。
値段の話は、まだ、何も決まっていない。
決まっていないのに。もう、数字をいじる手は、止まっていた。
ここまで読んで、もし、心当たりがあったなら。
あなたも今、値段を上げたり下げたりしながら、本当は値段じゃないところで、立ち止まっているのかもしれません。
このあと、二人は、紙ナプキンの上で、実際に自分の一文を探しはじめる。何度も輪郭に戻って、書いては消して。でも、隣で問いを返してくれる人がいて、最後には、二人とも「これだ」という一文にたどり着く。直美が、自分が本当に渡していたものを言い当てる、その瞬間まで。
その、たどり着くまでのやり取りそのものを、有料部分で書きました。「中身が大事」と分かっても、自分の一文は、それだけでは出てきません。二人が、どんな問いをきっかけに、どうやって自分の言葉を掴んだのか。同じ手順を、あなた自身の仕事でなぞれるワークも、最後に付けてあります。
紙ナプキンを前に、結のペンは、止まっていた。
「……書けないです」結が、小さく笑った。「中身を書こうとすると、結局、また素材の話に戻っちゃう」
「わかる」直美も、自分のナプキンを見て、ため息をついた。「私も。『また自分の顔を見たくなる』って、さっきは言えたのに。いざ書こうとすると、つい『九十分のフェイシャルで』って、書き出しちゃう」
そのとき、二人の話を、隣で聞いていた人がいた。私だ。交流会で、たまたま同じ並びにいた。
「あの、すみません」と、私は声をかけた。「さっきから、おもしろい話をされてるなと思って。……ひとつ、聞いてもいいですか」
二人が、こちらを見た。
「直美さん、でしたっけ。さっき『九十分のフェイシャルで』って書きかけて、やめましたよね。その九十分のあいだに、お客さんの顔って、どう変わるんですか」
この先は、有料です。
市場相場の分析や、利益の計算、価格表づくり、高単価商品の組み立てなど。これは、価格設定を本格的に設計する講座ではありません。
安くしないと売れない気がする、高くすると申し訳なくなる、自分の商品になぜその価格をつけるのか説明できない。
そういう人が、時間や回数や工程ではなく、自分が本当に渡している価値に気づく。そのための記事です。
まずは、自分は何に値段をつけているのかを見直してみたい。そう思う方には、ちょうどいい内容です。
それに、この気づきの物語を読んで、実際に手を動かしてワークをやってみると。お客さんに「なぜ、その値段なんですか」と聞かれたとき、時間や工程ではなく、お客さんが得られるメリットで、答えられるようになります。
自分のサービスの値段を、お客さんに、価値として伝えやすくなるでしょう。
この記事を購入された方には、価格以上の価値をお届けできるかと思っています。
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