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短編小説「憂鬱」

白々しい蛍光灯が、無機質な光で部屋を満たしていた。床のほこりまでくっきりと照らし出すその光の下、私はベッドに寝転がり、スマートフォンの画面をぼんやりと眺めている。

指先で弾かれるたびに、次々と流れ去っていくショート動画。その中の一つ、猫が小さな箱に必死で収まろうとする滑稽な姿に、乾いた喉から「ふふっ」と息が漏れた。

その、ほんの僅かな笑い声が引き金だった。私の中に潜むアイツが、ゆっくりと目を覚ます。

『楽しい?』

囁きかける声が頭に響く。

『でも、あなたの問題は何ひとつ解決していないじゃない』

冷たい指先が、私の思考に触れた気がした。途端に、スマートフォンの鮮やかな色彩が褪せていく。壁のポスターも、読みかけの本も、ベッドの柔らかささえも。あらゆるものが輪郭を失い、透明な膜の向こう側にあるように、実感をなくしていく。

胃の少し下あたりが、冷たい手で握られたようにじんわりと冷え始める。ふいに、体がベッドから五センチほどストンと落ちるような、ヒヤリとした浮遊感に襲われる。かいてもいない冷や汗が背筋を伝うのを感じ、意識は白く霞んでいく。

どこまでも続く、薄い膜のような気持ち悪さ。終わることが想像できないその感覚に、激しい嫌悪感が湧き上がる。

私は慌てて、震える指で画面をなぞった。透明な世界から何かを必死に手繰り寄せるように、「大丈夫」という言葉の羅列を探す。「ありのままの自分でいい」「そのままのあなたで素敵」どこか上滑りするような言葉たちを必死にかき集め、電気を消して布団の中に深く潜り込んだ。

固く目を閉じて、うっすらとした「大丈夫」の欠片を包みこむように丸くなって眠ろうとする。

今日もまた、「憂鬱」という名の夜に足を踏み入れた。

(712文字)



#原稿用紙二枚分の文芸賞
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