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~アンカーに希望と信頼を託す ⑹ 走錨、他船と衝突の事例〜

錨泊は決して難しいものではない。船乗りになったからにはある程度の知識は持っているのだから、先ずは航海士の頃からの投錨/揚錨作業にかかる手順、要領等をしっかり頭に刻み込む。次にどうするのか、何がリスクなのか、何処に危険があるのかなど様々な課題を把握しておくことだ。

船に乗っていると言っても錨泊する機会は意外にも少ない。近年、船の大きさ、種類や航路等によっては錨泊は年に数回、あるいは一度もなかったと言うことも珍らしくない。その為、錨泊する機会があればそれを逃さずに、投錨/揚錨作業の繰り返しの積み重ねで航海士の時に必要な知識を吸収しておくことである。

ウネリで大きくローリング中の外船

今日、陸上勤務が長くなり乗船経験の短い船長の中には錨泊を嫌う方もいる。沖待ち仮泊だけでなく錨泊(自ら投錨操船をする)の経験が一度もない。ましてや荒天錨泊などの経験が一度もないなど、中には苦手だからなどと言う方もいると聞く・・・が理由である。私は錨泊が好きだった。それこそアンカー一丁で本船の安全と乗組員の休養を確保できるからである。 

走錨し制御不能となり座礁

一方、荒天予想で風波が強まり、船首の振れ廻りが大きくなってくるとあらたな判断をしなければならない。その材料にはこれまで蓄積してきた知識、経験、仲間の体験談、他船の事故事例などが重要となる。外力には敏感に!油断大敵!常に初心を忘れずに!等々。

船首が飛沫に覆われる

【発生日時 2017年8月7日 06時08分頃】発生場所 香川県三豊市詫間港外(港界外付近)
船 種   A船:貨物船(1万7019トン)   
B船:液化ガスばら積船(2230トン)
気 象   天候r、風向NE、風速13.9〜20.7m/s、視程4〜10km海 象   上潮初期、潮高は1.2m

船首が激浪へ突っ込む

【事故概略】
A船は詫間港の三玉岩灯標から275°1500m付近の錨地に、5日09時00分頃、水深約12m、底質泥に左舷錨(6SS:約165m)を投下し、他船との船間距離を十分確保。

水先人は大型船が三豊市三埼沖で錨泊をすることが多いこと、及び風が強く吹いてきたら錨鎖を伸ばすように船長Aに助言して下船。

7日03時00分頃、船長Aが昇橋したところ、風速が約11〜17m/sと強くなっていることを確認、ENGを直ぐに使用できるよう指示、航海士Aとともに守錨直を開始。

☆ 船長が昇橋する前から、風速が強まっているのに船長への報告がない。
同05時35分頃、船長Aは航海士から本船が約0.5knの速力で船尾方向へ走錨しているとの報告を受け、同船長は当初の投錨地付近に戻って再投錨しようと思い、船尾方向に錨泊中の第三船に注意し、05時37分頃揚錨を開始した。

☆ 走錨を確認したのに、当初の投錨地付近に戻って再投錨しようと考え、しかも走錨の原因は底質が悪い、あるいはブロートアップしていなかった可能性あり。更に風のみならず、潮流も考慮する必要があり、適正な錨地を検討し海域を変えなければならなかった。

本船は抜錨後、06時00分頃に再投錨地付近に至り、B船の東側約700mの地点(水深約12m、底質泥)で、風波を右舷側から受けて左舷方に圧流されながら風下舷側の左舷錨を用いて再度投錨した。

錨鎖を5SS伸出したが効果を得られず、風波を右舷方に受ける姿勢でWSW方に圧流を続けたので、船長AがVHFでB船を呼出して、「本船は流されている、貴船と衝突の危険のおそれがある」ことを通報喚起した。

☆ 再投錨地付近はB船の東側約700mと至近距離であり、安全距離を確保できていない。

しかも錨鎖をわずか5SS伸出とは? 普通の判断であれば、風上舷のアンカーを用いて錨鎖8SS以上の繰り出しをすべきである。また、できるなら航走すべきである。

B船は粟島南方海域で待機の為、8月5日09時30分ごろ右舷錨(7SS)を投下し単錨泊を開始。7日05時30分頃、航海士BはA船が揚錨している状況を視認し、その後、06時00分頃に再投錨後も流され、B船に接近しているのを確認したので、注意喚起として汽笛を吹鳴した。

06時05頃、B船の船長が衝突の危険を感じ、06時06分頃VHFによりA船から呼出しを受けて応答。

相手船の言葉が聞き取れず、内容を理解できないまま交信を終えたところ、06時08分頃にA船の左舷前部がB船の右舷船首部に衝突した。(完)

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