【短編小説📖】奪還の夜、友情の海嶺(かいれい)
こんにちは。わたさん◇創作絵日記作家です。
雨の祝日で暇すぎたので思いつきの短編ストーリーを書きました。
深夜二時。
月は雲に隠れ、街灯の届かない路地裏は濃い影に沈んでいる。
僕、嶺男(ミネオ)は、足音を殺してアスファルトを這うように進んでいた。
「ターゲット確認。マンション一階、一番奥のベランダ」
首から下げた双眼鏡を覗き込み、口端をわずかに吊り上げる。そこには、夜風に揺れる紺色のセーラー服があった。清純の象徴が、無防備に晒されている。
僕は衣擦れの音がしない特殊な素材の黒ずくめに身を包み、あらかじめ把握しておいた監視カメラの死角を縫う。
「……あいつの教え通りだ」
手に持った伸縮棒のフックを伸ばす。カチリ、と小さな金属音が響く。
緊張で肺が焼けるようだ。だが、このスリルこそが僕を突き動かす。
ようやく、あの服に手が届く。
一気に引き寄せ、手中に収めた。
柔らかな布の質感。達成感が全身を駆け巡る。
これは、僕のセーラー服だ。
僕は獲物を抱え、影から影へ飛び移るようにして現場を離脱した。
逃走経路の先、待っていたのは「俺」こと、海斗(かいと)だった。
家の中に入ると、海斗が安物のアイスコーヒーを飲みながら、鋭い眼光を向けてきた。
「……成功したみたいだな」
「ああ、ありがとう。海斗、君のアドバイスのおかげだ」
僕は奪ってきたばかりのセーラー服を、宝物のように机の上に広げた。
海斗は満足げに頷き、一言。
「それでこそ友達だ」
話は数日前に遡る。
僕は真剣な悩みを、親友である海斗に打ち明けていた。
「海斗、僕は……セーラー服を盗みたいんだ」
海斗は眉一つ動かさず、静かに答えた。
「それは犯罪だぞ、嶺男。捕まればお前の人生は終わる。山のように積み上げてきたキャリアも、海の藻屑だ」
「わかっている。だが、止められないんだ。買えばいい、と自分に言い聞かせても、あの『盗む』というプロセスが伴わなければ、僕の心は満たされない」
僕は真面目だった。いつだって本気だった。
海斗は腕を組み、窓の外の水平線を眺めるような遠い目で考え込み、やがて指を鳴らした。
「わかった。俺が知恵を授けよう。お前の『盗みたい』という欲求と、日本の法律を両立させる方法だ」
「そんなことが……可能か?」
「まず、セーラー服を通販で買え。新品でいい。特定の誰かが着たものへのこだわりはあるか?」
「いや、服そのものの造形美と、シチュエーションが重要なんだ。誰のものでも構わない」
「よし。なら、買った服を俺に一度譲渡しろ。あるいは貸せ。そして、俺の家のベランダに干しておく」
海斗は不敵に笑った。
「お前は、俺の家のベランダから、そのセーラー服をこっそり持っていけばいい。持ち主(俺)の許可を得た上での、所有物(お前または俺の物)の移動だ。第三者の権利は一切侵害していない」
「なるほど……お前から『盗む』という形式をとるわけか!」
「そうだ。これはお前の所有権、あるいは俺との合意に基づく正当な占有だ。警察が来ても、『友達と高度なごっこ遊びをしていました』で通る。法的には一点の曇りもない、完全な白だ」
僕はその論理の美しさに、思わず海斗の手を握った。
「いつもすまない、海斗」
「気にするな、嶺男。お前が真面目に変なことを追求するなら、俺も真面目にそれに応えるまでだ」
現在。
机の上のセーラー服を眺めながら、僕たちはガッチリと握手を交わした。
外から見れば、大の大人が二人で何を、という話だろう。
けれど、山の頂のように高く、海の底のように深い友情が、そこには確かにあった。
「いいセーラー服だな。明日は俺が買い増して、もう少し難易度の高い位置に干しておいてやろうか?」
「助かるよ、海斗。次は三階あたりに挑戦したい」
僕たちの「合法な夜」は、まだ始まったばかりだ。
何書いているんだか😁
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