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タモギタケ

これまでの人生でいちばんたくさん食べたキノコ。
同時に、一緒にいちばんたくさんの時間を過ごしたキノコ。

明るい黄色の、味の濃いキノコ。香りはあまり強くはない。

食べた量を合計すると20kgを超えると思う。時間はあえて計算しない。

何故こんなに。
答えは、気合を入れて栽培していたから。

大学、大学院博士課程を通じての8年間の研究材料がタモギタケだった。

一回の実験で処理できる量はせいぜい100-200gぐらい。でも、それを得るために、数倍の量が獲れるだけの栽培瓶を用意する。全く同じペースでは成長しないから。当然余った分は食べる。多い時は1回の栽培サイクルで数キロ作り、数百グラムを実験に使って残りを食べた。友達も、下宿のおばさんも、1回目は喜んでくれたが、それが続くとちょっと。。

アマチュア無線部のジンギスカンパーティーに、袋いっぱいの黄色いキノコを持って現れた時も、ちょっと引かれた。

これだけ栽培していると、キノコの声が聞こえるようになる。

最初は、他の菌や細菌を混ぜないで、というタモギタケ菌の声:
まず、鋸屑と糠を混ぜて水を加えて800mLのプラスチックの瓶に入れ、滅菌をしてタモギタケの菌を植え付ける。大量に栽培するときは、この植え付けの無菌操作が何時間も続く。当然無菌操作の名人になった。失敗するとカビだらけになるが、キノコの声を丁寧に聞いたせいもあって、実は一回も失敗していない。

次に、キノコになる前のタモギタケ菌糸の声:
23℃湿度60%程度の真っ暗な部屋(菌まわし室)で、キノコの菌(菌糸)をおが屑と糠の中で成長させる。毎日一本ずつ瓶を調べて、ちょっとでもカビの色が見えたら、その瓶は外に出し、他にうつらないように滅菌して中身を捨てる。こうやって瓶の数は減っていくわけだが、実は、ここでもほとんどカビを生やしたことがない。この部屋に入った時の、タモギタケに教えてもらった肌で感じる温度、湿度と匂いで、このキノコが気持ちの良いと感じる環境かどうかがわかるようになっていた。

タモギタケが生えて成長する時の声:
栽培瓶の中見が菌で真っ白になったら、もっと高湿度で照明のある明るい部屋に移してキノコを生やす。ここでもコンディションは大切。換気のフィルターが詰まって酸素濃度が少しでも下がると、ひだが粗くて細いラッパ型のキノコになる。湿度が低すぎると成長が遅く、形が歪になりカビが生えやすい。湿度が高すぎると、キノコに、透明な「ス」が入り、この状態のキノコは長持ちしない。部屋に持ち込まれたウイルスや細菌に侵されると、キノコの形と匂いが変わり、こうなると大掃除と除菌作業。発茸室(ハツジシツと読む)の空気を肌で感じとり、早め早めにタモギタケの声を聞いて対策することで、形の良い、綺麗な(実験に使える)キノコになる。

毎日、数十本から時には100本を超える栽培瓶の1つ1つをみて、環境を調節し、ちょうどいい形と大きさになったものを収穫する。

毎日1、2時間をキノコの見回りに使い、定期的に丸1日をおが屑と糠を混ぜて栽培用の瓶に詰めて滅菌することに使う。当然そのあと1−2日は菌を植える無菌操作。もちろんこれに並行して種となる菌の培養も行う。

これが、普通「青春」と呼ばれる20代の自分の生活。もちろん実験台の上でキノコ(の細胞、DNA、タンパク質)を使っての生化学や分子生物の実験にも多大な時間を使うが、この栽培中のタモギタケとの対話が、森での他のキノコとの対話と合わせて、たまらなく好きだった。

タモギタケとの生活が終わって東京で職につき、人間との生活に慣れて結婚したのは30代も終盤。妻はいつ自宅でキノコとの生活が始まるかと初めはびくびくしていたらしい。(結婚直後に妻を連れて昔の研究室を訪問したのが原因)

まだ関東でのキャンプでタモギタケに出会っていないのがちょっと残念

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