酔っぱらい学™基礎理論序説― 全国の酔っぱらいに贈る行動観察 ―
本稿は酔っぱらい学™(Drunkenology)の研究成果の一部である。
本研究は、長年にわたる実地観察に基づく。
主な調査地は金曜夜の居酒屋および終電車内。
被験者は筆者を含む全国の酔っぱらい諸氏である。
本研究の目的は明確だ。
人はなぜ、
分かっている過ちを繰り返すのか。
特に、なぜ酔っぱらいは同じ過ちを繰り返すのか。
第一法則:座席は罠である。
椅子は優しい顔をしている。
柔らかく、静かで、空いている。
だがそれは錯覚である。
椅子は捕食者だ。
「10分なら大丈夫」
「端ならいける」
「今日は寝ない」
酔っぱらいは自ら理論を構築し、
自ら納得し、
自ら罠にかかる。
立てば助かる夜がある。
だが人は座る。
結論:座るな。
第二法則:反省は揮発性である。
朝、人は誓う。
もう飲まない。
絶対立つ。
次こそ理性を保つ。
だがその誓いは保存できない。
本研究では、意志の保存期間は平均8時間と推定された。
朝:反省
昼:まだ反省
夕方:まあ軽く
夜:乾杯
反省は揮発する。
これが酔っぱらい時間学の基本原理である。
第三法則:終点は勲章である。
目覚める。
知らない駅。
自販機の光がやけにまぶしい。
普通なら敗北だ。
だが酔っぱらいは語る。
「俺、終点まで行った」
距離は誇りに変換される。
酔っぱらいは無意識に旅している。
計画性ゼロのフィールドワークである。
終点は敗北ではない。
報告会の前日である。
以上の検証結果から、本研究は次の結論に至った。
酔っぱらいは学ばない。
だが分かり合う。
本稿はその共感の記録である。
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