【ギリシア哲学】『イオニア学派アナクサゴラス』
【はじめに】
世界は何からできているのか。
タレスは水、
エンペドクレスは四元素と言いました。
では本当に、
世界には「材料」が必要なのでしょうか。
この問いに対して、
「材料など存在しない」
と答えた哲学者がいます。
それが――
アナクサゴラスです。
彼は万物を
性質の混合と『ヌース(知性)』で説明しました。
そしてもう一つ重要なのは、
彼は哲学をアテネへ持ち込んだ人物でもあります。
ソクラテス以前のアテネ哲学は、
ここから始まります。

【① 世界に「根源材料」はない】
それまでの哲学はこう考えていました。
• 水からできている
• 空気からできている
• 火からできている
つまり
万物には根源材料(アルケー)がある
という発想です。
しかしアナクサゴラスは言います。
特定の材料など存在しない
世界は、
• 冷たい
• 熱い
• 湿った
• 乾いた
• 明るい
• 暗い
といった
性質の混ざり合いでできている。
たとえば土は、
• 冷たさが濃い
• 湿りが濃い
• 暗さが濃い
から「土に見える」だけです。
つまり彼は、
物体=材料ではなく
性質の濃淡として理解した
最初の哲学者でした。

【② すべての中にすべてがある】
アナクサゴラスの最も有名な原理があります。
「すべてのものの中に、すべてのものの分け前がある」
これは衝撃的な思想です。
なぜなら彼はこう考えたからです。
もし髪の成分が存在しないなら、
髪は生まれません。
もし肉の成分が存在しないなら、
肉は生まれません。
しかし現実には、
• 食べ物 → 血になる
• 血 → 肉になる
• 肉 → 髪になる
つまり、
髪の成分も肉の成分も
最初から混ざっている
と考えるしかない。
したがって変化とは、
• 新しく生まれることではなく
• 混合比率が変わること
です。
これは
「無からは何も生まれない」
という存在原理を
徹底して守った結果でした。

【③ パルメニデスを最も真面目に継承した哲学】
当時の哲学界には
避けられない前提がありました。
それはパルメニデスの命題
「存在は分割できない」
です。
アナクサゴラスはこれを
最も真面目に受け入れます。
もし存在が分割できないなら、
• 元素に分ける発想は矛盾する
• 最小単位は存在しない
• 無限に分割可能なはず
だから彼は
材料なし・無限分割・全面混合
という世界像に到達しました。
彼は、
パルメニデス哲学を最も忠実に継承した思想家でもあります。

【④ なぜ世界に違いが生まれたのか】
しかし疑問が残ります。
もし世界が完全混合なら、
すべて同じになるはずです。
なぜ違いがあるのか。
ここで登場するのが――
ヌース(知性)
です。
ヌースは
• 混合を回転させ
• 濃淡を分離し
• 秩序を生む
働きを持つ原理です。
イメージは遠心分離です。
回転すると、
• 重いもの
• 軽いもの
• 粗いもの
• 細かいもの
が分かれます。
世界の違いも
この分離から生まれました。

