【第25話】離婚戦記完結編
「離婚届さえ出せば、この頻繁な連絡も、執着も、すべて終わるはず」
その時の私は、一刻も早くこの生殺しのような状態から抜け出したくて、半分投げ出すような気持ちになっていました。
相手の自分都合な要求に、結局は妥協した形のまま協議書を作成し、判を押したのです。
それは、経済的な面でも大きな爪痕を残す選択でした。
これからの子どもたちの生活を支えるための、養育費。
法律が目安として定めている「養育費算定表」の金額よりも、はるかに低い、信じられないほど不当な額で妥協してしまったのです。
「これじゃ足りない」
頭では分かっていました。看護師として働いているとはいえ、これからの子育てにかかる費用を考えれば、算定表以下の金額で応じるなんて本来ならあり得ないことです。
でも、その時の私は「お金は私が稼げばいい。だからお願いだから、早く解放して」と、心の中で悲鳴を上げていました。
さらに、一度は味方になってくれた弁護士さんとの契約も解除しました。
途中で解約するとなれば、当然のように発生する違約金。身を削って貯めたお金から、決して安くない違約金が消えていく。財布も心も、ガリガリと削られるような痛みを感じました。
「でも、これで本当に自由になれるなら。お金で平穏が買えるなら、それでいい」
そう自分に言い聞かせ、協議離婚は成立しました。戸籍の上が他人になれば、さすがに相手も諦めて、連絡の頻度も減るだろう。そう信じて疑いませんでした。
けれど、現実はそんなに甘くありませんでした。
離婚が成立したあとも、スマホの通知音は鳴り止みませんでした。
「終わった」と思ったのは私だけで、相手にとっては、私との繋がりを続けるための新しいフェーズが始まったに過ぎなかったのです。
大人1人分の家事は減り、子どもたちとゆっくり作品作りを楽しめる静かな部屋を手に入れた。
なのに、手元のスマホを開けば、変わらない相手からのメッセージが並んでいる。
手元には、算定表以下の養育費が書かれた、妥協の塊のような協議書。
「離婚届は、魔法の紙じゃなかった」
終わらせるためにすべてを差し出したはずなのに。私は、離婚という手続きの先にある、さらに深い現実と向き合わざるを得なくなっていました。
でも。
手元に残ったのが妥協だらけの協議書だとしても、違約金で財布が軽くなったとしても、私はもうあの暗闇の家にはいません。
目の前には、私を信じて笑ってくれる子どもたちがいる。
ここから先は、誰かに傷つけられる物語ではなく、私たちが自分たちの手で幸せを掴み取っていく物語です。
――というわけで、私の過酷な脱出劇を描いた『離婚戦記』は、この第25話をもって一度幕を閉じたいと思います。
次回からは、「3人暮らしの日常編」として、
経済的な現実に向き合う話、ワンオペ育児のバタバタ、そして何より、誰の目も気にせず子どもたちと机を並べて作品作りを楽しむ、愛おしい毎日の断片を思いのままに綴っていく予定です。
嵐が去ったあとの、不器用で、でも最高に自由な私たちの新しい一歩を、これからもゆるりと見守っていただけたら嬉しいです。
