『愛犬中毒』の正体:なぜ、あなたの愛犬は、あなたがいないと「無」になるのか
愛犬の『笑顔』が、実は『SOS』だったとしたら?
意味がわからないかもしれない。
だけど、まず初めに、何も言わずこれを見てから、記事に進んで欲しい。
やっぱり、私がいなきゃダメなんだわ。
そう意気込んで、愛犬のために生きる。
愛犬のために動ける飼い主は素晴らしいと思う。
私も、いち愛犬家として愛犬のために尽くす派だ。
だけど、時にその愛が重たくなり過ぎて愛犬に背負わせ過ぎていないだろうかと振り返ることがある。
15年間、トリミングとトレーニングの現場で1,000頭近い犬たちを預かってきてわかったことがあります。
あまりにも、共依存に陥っている犬と飼い主が多いということです。
飼い主がいる時といない時が551の豚まん状態の子達をどれだけ見て来たことでしょう。
これを多くの人は「愛情」や「甘えん坊」と呼びます。
しかし、本当は、愛情という名の「高純度の糖分」を与え続けることで、犬が本来持っている「自立という筋肉」を麻痺させていく病ではないかと思うのです。
これはトリマーとしての私の実体験です。
トリミング中ずっと私の手が犬の体に触れていないとピーピーと鳴くトイプードルがいました。カットしている最中はとても大人しい。手が少しでも離れると、パニックになって鼻を鳴らし、悲鳴を上げる。聞けば、その子は家でもずっとそんな状態だったそうです。その子はもうすでに、常に誰かに触っていてもらえないと、自分を保てなくなっていたのです。
1.飼い主という「強力な麻薬」が切れる時
幼稚園やトリミングで犬を預かると、興味深い現象が頻繁に起こります。
飼い主と一緒にいる時の顔と、飼い主がいない時の顔の落差です。
飼い主に抱かれている時の犬の表情は、普通の人から見れば「嬉しそう」に見えるかもしれません。しかし、時折その姿が、私には異様な光景に映ります。
瞳孔が開き、目が泳いでいる。体が固まっている。口角が引き上がり、呼吸が浅く速い。警戒か興奮か・・・。
幸せな表情というより、薬物中毒のようなギラギラした目、あるいは「自分だけの王座」に固執して震えている独裁者のような、異様な緊張感があります。
これは、トリミングで預かる時だけの話ではなく、飼い主さんと一緒にドッグランで過ごしている時、お散歩で出会った時など様々な状況で出会います。
ここで一つ、知っておいてほしいことがあります。
飼い主が「笑顔」と呼ぶその表情は、実は脳がオーバーヒートしているサインかもしれません。 あるいは、強力なドラッグで「ハイ」になっている状態に近いと言えるでしょう。
そういった子達は、飼い主の腕の中から他者に吠えかかって攻撃をしかけようとすることがあります。
しかし、そんなオーバーヒート状態で依存しきっているところから、飼い主が立ち去り、その「ドラッグ」が抜けた途端、犬たちは極端な二面性を見せ始めるのです。
一つは、飼い主がいなくなった途端、それまでの「ハイ」な状態が嘘のように消え、石のように硬直して動かなくなる子。
それを見た飼い主は、
「私がいなくて寂しがっている」
「甘えん坊だから仕方ない」
「この場所が怖いのね」と、愛犬の性格や場所のせいにします。
でも、それは違います。自力で立つ「筋肉」を奪われ、飼い主という杖を失って、ただ世界との関わり方を忘れてしまった姿なのです。
もう一つは、飼い主が去る瞬間までは泣き叫び、飼い主が見えなくなると何事もなかったかのように、自分の足で床を踏みしめ、においを嗅ぎ、世界を探索し始める子もいます。そういった子は、飼い主がいる時には見せなかった、驚くほど静かで、凛々しい顔が現れます。
こういった子は、家庭では飼い主の後追いをしたり、飼い主にべったりしますが、留守番は平気です。飼い主がいる時のみ症状が出ることがあります。
もちろん、単純に経験不足なだけということもあります。
ですが、経験のあるドッグトレーナーや訓練士なら、 誰でもそのことを知っています。
飼い主がいる時の犬は、飼い主という鏡に映った姿でしかない。
本当の「その子自身」は、独りになった時にしか現れない。
でも飼い主には見えない。 なぜなら、飼い主がいない場面に飼い主はいないからです。
もうすでに、耳・・・いや目を塞ぎたくなりましたか?
大丈夫です。最後まで読んでいただければ、このループから抜け出す道が必ず見つかります!
2.「心の生活保護」が奪うもの
なぜ、彼らは環境に弱く、飼い主から離れられないのでしょうか。
なぜ、時に攻撃的になってしまうのでしょうか。
そして、なぜ、いつまでもその渦の中から抜け出せないのでしょうか。
その本質は、「ストレス処理能力の退化」にあります。飼い主が「安心の不労所得」を過剰に与えすぎているからかもしれません。
硬直する子: 依存が深すぎて、自立の筋肉が「麻痺」しかけている。
凛々しくなる子: まだ筋肉は残っているが、飼い主という「ノイズ」のせいで使い方がわからなくなっている。
温室で育てられた植物を想像してください。
一定の温度、適切な水分、最適な光量。何不自由ない環境で育った植物は、美しく見えます。
しかし一度温室の外に出た瞬間、あっという間に枯れてしまう。風に揺れることも、乾燥に耐えることも、経験したことがないからです。
そんな犬達を何故か、飼い主達は外に連れ出そうとします。
本来、犬が不安を乗り越えたり、他者と折り合いをつけたりするプロセスは、脳にとっての「筋トレ」です。
しかし、少しでも不安そうな顔をすれば抱き上げ、「大丈夫よ」と声をかけ、何もしなくても「撫でる」という報酬をバラまく。
なるべく犬の思い通りにことが進むように整えていく。
この状態は、脳にとって「努力なしで手に入る高純度のドラッグ」を常に摂取しているのと同じです。
犬は「常に満腹状態」なのです。
結果、些細なストレスに対する耐性がゼロになっていく。
自律神経が乱れていく。犬としての能力が、使われないまま衰えていく。
においで環境を読む力。
自分でストレスを処理する力。
知らない存在と関わる力。
不安な状況を自力で乗り越える力。
これらはすべて、使わなければ急速に衰えます。
飼い主がいる時だけが幸せ。
飼い主が"551の豚まん"になっている。
旅行に連れて行けばずっと鳴いている。
環境の変化に適応できない。
特定の人間以外には心を開かない。
学ぶ意欲が失せる
飼い主が全てに手を出して守っていくことで、本来できるはずのことが、できなくなっていきます。
飼い主が551の豚まんになることは愛犬家にとって、嬉しいことでありながら、同時に、愛犬の心を鎖に繋ぐということなのです。
3.ドーパミンという「壊れたスロットマシン」
私は、この依存を加速させているのは、脳内の化学物質による「報酬系」のバグと考えています。
①オキシトシン
前記事で詳しく説明したように、オキシトシンは「感情の増幅器」です。飼い主との密着で分泌され続けることで、「安心は飼い主からもらうもの」という回路が強化されていきます。自力で安心を作るスイッチが使われなくなり、錆びていく。これが「オキシトシンの外注依存」です。
さらに、抱っこによる「絆」は、同時に「排他性」を強めます。
飼い主の腕の中という、世界で一番狭くて安全な「檻」から出られなくするのです。
②ドーパミン
ドーパミンは「報酬への期待」で分泌されるホルモンです。飼い主が帰ってくる。抱っこしてもらえる。声をかけてもらえる。その予感がある時に出ます。
ここで、ドーパミンのやっかいな性質が二つあります。
一つ目は「予測できない時ほど強く出る」という性質。
テンションの上がる遊び、たまにもらえるおやつ、
飼い主の高い声かけ。
当たるか外れるかわからないスロットマシンが犬の脳内でドーパミンを爆発的に分泌させ、依存をさらに深めていきます。
二つ目は「行動そのものが報酬になる」という性質。
多くのドッグトレーナーは「吠えた結果、何か得をした経験が吠える行動を定着させる」と説きますが、半分正解で半分不正解です。
吠えると、脳はスッキリします。
吠えただけで、ドーパミンは分泌されるのです。
脳内のドーパミン自体が報酬になる。
これがドーパミンが「脳内麻薬」と呼ばれる理由です。
つまり、吠えることをやめさせようとしても、
その行為自体が犬の脳に快感を与え続けている。
外から報酬を取り除いても、内側から報酬が出続けている。だから吠えはなかなか消えないのです。
オキシトシンで「外注依存」の土台が作られ、ドーパミンで「求め続ける衝動」が加速する。
あなたが「笑顔」だと思っている愛犬の表情は、実は脳がオーバーヒートし、麻薬的な快楽と不安の狭間で喘いでいるサインかもしれません。
飼い主たちはそんな愛犬の目を「可愛い」と言うのです。
4.心の穴を埋めるパーツとしての犬
抱っこをしないようにといくら伝えても、気がつけばまた抱いている。
撫でている。触れている。
それが問題であることに、飼い主は気づいていません。
あるいは、、、薄々気づいていても、やめられない。
なぜなら、触っていることすら、飼い主も無意識だからです。
ここで、私たちは残酷な真実に向き合う必要があります。
愛犬を抱きしめて心が落ち着いているのは、犬ではなく、飼い主自身ではありませんか?
犬のためと言いながら、自分の不安を犬で埋めている。
自分の孤独を犬で満たしている。
「この子には私が必要だ」という感覚が、飼い主自身の心を支えている。
犬を自立させないことで、自分の必要性を確認している。
犬はそれに応えます。飼い主の不安を感じ取り、そばにいようとする。
鳴く。ついてくる。離れない。それを見て飼い主はさらに抱きしめる。
誰も悪意を持っていない。でも、誰も幸せになっていない。
犬と飼い主が、お互いの依存を深め合っていきます。
飼い主もまた、このドーパミン依存のループの中にいます。愛犬が自分を求めてくる。それが飼い主にとっての報酬になっている。
現代人の私たちは、おそらくほとんどがドーパミン中毒なのです。世の中には甘い報酬が多すぎる。
愛情という名の「高純度の糖分」を与え続けることで、犬が本来持っている「自立という筋肉」を麻痺させる病を患っているのは、犬ではなく、飼い主の方かもしれません。
飼い主もこの脳内麻薬の被害者なのです。
愛犬を抱き上げたくなったら、もしかして今、麻薬に手を出そうとしていないか、立ち止まって考えてみると良いかもしれません。
もしかして、愛犬中毒になっていませんか?
ここまで、飼い主の振る舞いについて書いてきましたが、
実は遺伝子レベルの研究では、オキシトシン受容体の型の違いにより、社会的行動の個体差があるという研究があります。
個体によってオキシトシンの感受性が異なることも、報告されているそうです。犬種や個体によっても差があります。また、オキシトシンのみが分離不安や依存に関わっているわけではありません。
実際に、私が育てた5頭のトイプードルたちは同じように接していても、分離不安が起こりやすい子と、そうでない子の差が大きくありました。
そして、分離不安を抱えやすい子は抱っこが好きな傾向にあることを現場で実感しています。
だからこそ、飼い主の配慮が必要です。
5.今日からできること
今日から、愛犬を抱きたくなった時に、ぜひ一度止まって問いかけてみてください。「これは犬のためか、自分のためか」と。
答えが出なくてもいいんです。その「問い」を持つこと自体が、愛犬を閉じ込めている檻の鍵を開ける最初の一歩になります。
愛犬の「楽しい」と「興奮」を見分けられる飼い主は、そう多くありません。
だから、愛犬の目を、表情をよく見てください。
目は落ち着いていますか?ギラギラと輝いていませんか?
体は落ち着いていますか?小刻みに震えていませんか?
呼吸は整っていますか?
飼い主がいる時と、いない時の落差はありませんか?
そして、愛犬の自立筋力を鍛えていきましょう!
何か困ったことがあった時、抱き上げる以外の方法を考えましょう!
特に小型犬はすぐに抱き上げてしまいがちです。
自分の足でしっかり歩く。これは自立の第一歩です!
一歩引いて待つ、
愛犬を信じて背中を押す(リードを引く)、
愛犬が落ち着ける手法を工夫する
あるいはプロに相談してみる
愛犬の自力を引き出す鍵を持てるのは、飼い主なのです。
一緒に寝よう!と誘っても、「今日は暑いからいいです」と、途中で犬が自ら離れていくくらいのドライな関係が、意外と健全なのかもしれません。
6.最後に
本来できる子が、どんどんできなくなっていく。
そんな犬たちの過程を見てきて、思うことがあります。
犬は、飼い主が思っているより、ずっと強い。ずっと賢い。ずっと多くのことができる。
私は、その力を使わせてもらえていない犬を見るたびに、胸が痛くなります。
愛犬を幸せにしたいなら、まず「幸せそうに見える顔」を疑うことから始めてほしい。
その顔は本当に幸せなのか。それとも、脳がオーバーヒートしているサインなのか。
人は弱い。だからこそ、同じように犬を弱い生き物のように守ってしまう。まるで自分自身を守るように。
犬の強さを信じること。
それが、本当の愛情の始まりであり、犬と飼い主の心が育つ時だと、私は思っています。
愛犬は自分自身の心の中を全て映し出す鏡です。
愛犬と向き合う前に、少し目を瞑って呼吸を整えてみるのはいかがでしょうか。
次回は「テリトリー意識の謎」——なぜ散歩中に吠えるのか、なぜ家族に噛みつくのか、考察します。
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