会計では見えない未来を掴む:実務で使える資金繰り管理術
大局的な資金繰り管理の重要性
会社が倒産する直接の原因は赤字ではなく、お金が足りず期日までに支払いができなくなること、つまり資金ショートです。損益計算書上は利益が出ているように(業績が良いように)見えても、資金ショートで倒産してしまうケースがあります。それがいわゆる黒字倒産です。
建設業や製造業、不動産業、BtoBの受託制作業(システム開発業、広告代理店業、デザイン業など)は受注や仕入れから入金までの期間が長くなる傾向があるため、黒字倒産のリスクが高い業種と言えます。
黒字倒産を防ぐためには資金を十分に持っておくことが重要ですが、資金ショートを過度に恐れて受注や仕入れの機会を逃してしまうのは事業存続の観点から考えて望ましくないでしょう。次に同じような良い受注や仕入れの機会があるとは限りません。
大きな受注や仕入れの機会が見えた場合には、自己資金だけで対応するよりも、金融機関や投資家を頼ることが得策であることも多いでしょう。そうした事業資金を提供してくれるステークホルダーは、会社の損益計画はもちろん、中長期の資金繰りを重視します。
つまり、資金ショートを回避しつつ受注や仕入れの機会を最大限に活かすためには数か月先から数年先までを見通せる大局的な資金繰り管理が大いに有用です。
本稿では、大局的な資金繰り管理に必要な考え方やデータの整理方法・分析方法を述べようと思います。
資金繰り=実績+予定+予測
「資金繰り」と「財務三表=貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書」には大きな違いがあります。資金繰りは主に未来を説明するものですが、財務三表は過去を説明するものです。
したがって、財務三表には実績しか含まれませんが、資金繰りには実績だけでなく「予定」と「予測」も含まれます。ここでは「予定」を「債権・債務が確定している収入と支出」とし、「予測」を「債権・債務が確定していないものの一定の確実性がある収入と支出」として区別します。
具体例を挙げますと、4月中に工事が完了して5月末に施主から1,000万円の入金を受ける取引が成立している場合、4月末時点では5月に1,000万円の入金「予定」があります。
また、4月に1,500万円で受注した工事があってその工期を5月初めから7月末までと見積もっており、入金が完了の翌月という条件である場合、4月末時点では8月に1,500万円の入金「予測」が立ちます。既に受注が成立していることを考えればこの予測の確実性は高いと言えるでしょう。
そして、「予測」には確実性の低いものも含まれます。例えば、受注はもらえそうだけれども開始時期が確定していない工事の収支については、一定の仮説のもと予測を立てる必要が生じますので、確実性は低いと言えます。受注できるか定かではない工事の収支についてはさらに確実性が低くなります。
「予定」は取引条件にもよりますが1-2か月先の収支になることが多いですが、決済手段として約束手形や電子記録債権を利用する際には5-6か月先の収支になることもあります。
「予測」は数か月先や数年先の収支になりますが、何年にもわたって継続的な取引をしてくれている得意先や、売れ行きが安定している定番の製品・商品については確実性の高い収支予測を立てることができます。逆に言えば、突発的な取引や人気の短い製品・商品が多ければ確実性の高い収支予測を立てることは難しいでしょう。

このように、資金繰りは「実績」と「予定」と「予測」に分解することができ、この中で最も重要なのは「予測」です。確実性の高い収支予測を立てることで資金繰りの説得力は増し、説得力のある資金繰りは金融機関や投資家から資金調達を行う際に大いに効力を発揮してくれます。
では、どのようにして確実性の高い資金繰りを作ればよいのでしょうか。そのためには実績の蓄積と分析が必要です。
資金繰りの実績データの蓄積
会計データは決算書を作るのに必要であるためほぼ全ての企業で蓄積されていますが、資金繰りデータ(実績)を蓄積している企業は多くありません。しかし、確実性の高い資金繰りを作るためには、資金繰りデータが不可欠です。
会計データが整理されていれば、会計データから資金繰りデータを作ることは難しくありません。基本的には総勘定元帳の「現金」や「預金」の相手勘定の金額を次のいずれかの収支項目に分類すればよいでしょう。
営業収支:「売上入金」「その他入金」「仕入支出」「販管費支出」「税金支出」「支払利息」など
投資収支:「固定資産取得」「固定資産売却」「有価証券取得」「有価証券売却」など
財務収支:「借入」「返済」など

ただしその分類作業は難しいものではないですが、手間がかかるものではあります。会計データに決まった科目や決まった摘要が入っていれば自動的に分類するようなプログラムをVBAなどで組み込むことで作業時間は短縮されるでしょう。
それでも、最終的に人の目でチェックすることは必要ですし、例えば借入れと同時に利息を支払った場合、入金額は利息分が差し引かれた額になっているので、借入れと利息を分解して入力しなおす必要があるように、適切な収支項目分類のための修正は避けられません。
このように、会計データをもとにして資金繰りデータを作成し、データベースとして蓄積することが資金繰りの第一歩です。
資金繰りの実績データの分析:波動を捉えよ
資金繰り実績のデータベースができたら、実績の資金繰りを表にして月次で並べてみます。この時、表を年度で区切る必要はありません。会計は年度で区切りますが、資金繰りに年度はないからです。
実績データが多く蓄積されていればいるほど、表は横に(縦に?)長くなるでしょう。そして各収支項目、特に営業収支に含まれる「売上入金」「仕入支出」「販管費支出」などの項目について、少なくとも1年間――できれば数年間が望ましいのですが――の推移を見ると、特に「売上入金」や「仕入支出」は月によって金額が変動していることが多いです。

この変動を業界用語で「波動」と呼びます(経営者がよく使っている言葉です。士業の教科書には載っていません)。売上入金や仕入支出に波動が存在する場合、1年間の合計金額を100としたとき、5の月もあれば、20の月もあるということです。この波動を予測に使うことで、資金繰り予測の確実性を高めることができます。
「販管費支出」の波動は賞与支給の月を除いては小さいことが多いので、こちらは賞与の月以外の平均値を取って予測に使うことで十分でしょう。後で、賞与の月に賞与分を足せばよいです。細かくやろうとすれば労働保険の支払月の販管費を多くするなどの工夫もありますが、労力と相談しましょう。
そして、投資収支や財務収支などの予測は営業収支の予測が前提になってきます。これらは明確な予測を立てやすい項目ですから、ここまで来れば資金繰りの作成は難しくはないでしょう。
結局は普段の事業努力が最重要
あとは実績と予定、予定と予測の混ざるところをうまく切り分ける作業もありますが、基本的には以上の流れで一定の説得力のある資金繰りを作ることができるでしょう。
ただし、先述したように資金繰りの予測の確実性を高めるには、何年にもわたって継続的な取引をしてくれている得意先や、売れ行きが安定している定番の製品・商品を持つことが最重要です。
つまり、こうした信頼性の高い取引先や商品を育てていくための普段の事業努力が、会社の信用力を高め、事業の存続と繁栄に繋がっていくことを忘れてはならないでしょう。
