見出し画像

稀に見るお粗末な引継ぎに遭遇した税理士が語る、顧問選びで本当に大切な“たった一つ”のこと


きっかけは、あまりにもお粗末な引継ぎだった

 先日、とある税理士法人の担当者から法人クライアントの税務顧問を引継いだのですが、まあこれがとんでもなくお粗末な引継ぎでした。税理士法で禁止されている信用失墜行為に抵触する可能性があるのでその税理士法人の実名称は記載しませんが、端的に言えばその税理士法人の担当者Sが「請け負った記帳代行を完了せずに業務を強制終了した」ということです。

半端な記帳、マイナスの仮払金

 先月の7月22日に、その担当者Sともう一人の担当者Kと私とでオンライン会議を開いて引継ぎの段取りを相談し、7月末までに引継ぎを完了させることで合意しました。結局、その段取りはスケジュール通りに実行されず3週間も遅れ、8月21日になってようやく資料が出てきたのですが、その会計データの中身を見ると3月~6月の会計処理が7割程度しか終わってなかったわけですね。

 特に300万円の入金が仮払金と記帳されていたのには呆れました(300万円の出金がその前にあったわけではないので仮払金勘定はマイナスになっていました)。年商3,000万円の企業で300万円の入金があれば即確認でしょ……しかも仮勘定にするとしても仮払金じゃなくて仮受金とするところですし。

素人か!

言い訳、責任転嫁、そして出てこない上司

 すぐにその担当者をゴン詰めしましたが「クライアントから資料が出てきている分だけは、会計処理を終わらせました」と言い訳をするだけでした。いやいや、業務が終わっていないなら受け取った報酬をクライアントに返金すべきですよね。その担当者Sは8月でもう退職してしまうので、もう一人の担当者Kに連絡してどう責任を取ってくれるのかと聞きましたが、返事は次のような、これまたお粗末なものでした。

 「私の役割は担当者Sが受け取った資料をクライアントに返送することです。私は実際の業務には関わっていませんので、業務に不備があるかどうかは分かりません。私から担当者Sの上長に申し送りをしますので、その上長が担当者Sの業務を確認した後、会社として然るべき対応を行うことになると思われます。」

じゃあなんで面談に参加したんやお前……

クラウド化で半日。旧態依然のやり方への疑問

 当該税理士法人が提供したこの一連のお遊戯レベルのお仕事は、税理士の懲戒処分の事由となりうる「業務け怠」に該当する可能性があるので、後日クライアント様と相談してしっかりクレームを入れます。

 担当者Sは弥生会計でちまちま入力していたようですが、私はまず弥生会計から会計データをエクスポートし、それをマネーフォワードにインポートすることで会計ソフトの移行を10分で終わらせ、並行してクライアント様にマネーフォワードで銀行口座とクレジットカードの明細を連携していただいたので、半日で会計を十分整理できました。

 適切な会計ソフトを使いデータ連携をするだけで資料収集の時間を大幅短縮できるにも関わらず、従来の業務方法に固執してクライアントから資料が出てこないと文句を垂れる。そんな暇があるなら業務のやり方を改善しろっていう話です。何より恐るべしは、その担当者Sの上長とやらがいまのいままで一切顔を見せないことです。

どうなってんだこの会社……

顧問税理士選びで大切なこと

 さて、前置きが長くなりました。ここからが本題です。私は別に仕事の愚痴を書きたかったわけではありません(当該お粗末税理士法人にはネタを提供してくれたという一点だけ感謝していますが)。皆さまの中にはいま事業をしていて顧問税理士を探している方や、これから事業を始めて顧問税理士を探す機会がある方もいらっしゃるかもしれません。特に事業をしていなくても、相続があれば税理士を探すことになるかもしれません。

まずはAIに聞いてみると…

 そこで、あくまで私見にはなりますが、中小企業や個人事業主(以下「中小事業者」とします)が顧問税理士を選ぶ際に大切なことを本稿で述べたいと思います。とりあえず、GeminiProさんに聞いてみると次のような答えが返ってきました。

具体的には、以下の7つのポイントを総合的に判断することが大切です。
1. 相性とコミュニケーションのしやすさ(ストレスなく対話できるか
2. 業務範囲と料金体系の明確さ(複数の税理士から見積を取る)
3. 自社の業界や事業規模への理解と専門性
4. 積極的な提案力(会社の利益につながる提案をする姿勢)
5. レスポンスの速さ
6. ITツールへの対応
7. 税務調査への対応力

「顧問税理士選びで大切なことは?」GeminiProさんの回答をまとめたもの

しかし、私の答えはもっとシンプルだ

 GeminiProさんの答えは間違ってはいませんが、私の答えは次のとおり、もっと端的です。

顧問の担当者がクライアントの立場で考え、行動してくれるか?

なぜ「顧問の担当者」が重要なのか?

 この答えには2つの重要な点があります。1点目は「業務の質は担当者に依存する」ということです。税理士法人や税理士事務所(以下「税理士事務所等」とします)と顧問契約を結んだ場合、中小事業者との直接のやり取りには、基本的に担当者以外の人間は関わりません。代表者や担当者の上長、所長が出てくるのは大抵、最初と重大なトラブルが起こったときだけです。偉い人が出てきて「あとはよしなに!」ってやつです。

 この傾向は顧問契約の相手が税理士法人でも税理士事務所でも変わりません。どこかで「税理士事務所よりも税理士法人を選べ!」なんていう記事がありましたが、私に言わせればピントがずれています。

「担当者変更」が現実的ではない理由と「資格の有無」の本質

 そして、「担当者の働きにご不満があれば担当者を変更します」ということを言う税理士事務所等もいますが、実際に担当者変更が行われるのは稀なケースと言えます。なぜなら、税理士事務所等の側からすれば、担当者変更は追加コストにすぎないからです。

 もちろん、年間数百万以上の報酬を支払ってくれている大口クライアントや昔から長い付き合いのある古株クライアントからの要求であれば、税理士事務所等の側がやむなく担当者変更を受け入れることもあります。しかし、大口でないクライアントやそれほど長い付き合いのないクライアントから担当者変更を要求されたとしても、のらりくらりと躱し続けてクライアントが諦めるのを待ちたいというのが税理士事務所等の本音なのです。

 したがって、中小事業者からすれば、税理士事務所等の担当者の質がその税務顧問契約の質を決めるといっても過言ではないでしょう。その点では個人の税理士と契約するか組織的な税理士事務所等と契約するかは本質的な問題ではないわけです。それこそが、私が「税理士事務所よりも税理士法人を選べ!」という浅はかなオヌヌメ思考にアンチテーゼを提唱する理由です。

 そして担当者が税理士か非税理士かということも実質的にはあまり関係がないとも言えます。というのも、中小事業者が税理士事務所等と顧問契約を結ぶ場合、そこで「職員として働いている税理士」は個人としてクライアントから税務業務の委嘱を受けるわけではなく、あくまで税理士法人や所長(開業税理士)の補助として業務を行う立場であるからです。そういう意味では「職員として働いている税理士」の責任の重さは「非税理士の職員」と同じであり、あとは中身の勝負になるわけです。

 すると、クライアントにとっては、税理士資格があろうとなかろうと、実務経験を積み正確な税制知識を常にアップデートしている担当者が頼りになるのは言うまでもありません。ちなみに先日、「税理士試験の5科目合格者が一番ドヤれる、次に会計士税理士、国税OB。一番肩身が狭いのは大学院科目免除税理士だ」なんていう記事をみかけて爆笑してしまいました。そんな時代は20世紀で終わっています。21世紀に入ってもう25年も経ってるので、そんなことを言っていられる人はもうおそらく現役ではないでしょう。税理士会の飲みの席や懇親ゴルフでロートル先生の面々がそんなことを言ってるのかもしれませんが、飲みの席や懇親ゴルフを戦場にできるごく一部の名士の方々はそれでいいのでしょう。お疲れさまでした。「あとはよしなに!」

 なお、ここでいう「職員として働いている税理士」は「所属税理士」を指していて、税理士法人の「社員税理士」を指していません。実は、税理士法人は会社法上の「合名会社」と同様の扱いが適用される特別法人であり、税理士法人の社員は「社員税理士」に限定され、その「社員税理士」は全員が税理士法人の持分を有し、そして無限連帯責任を負います。

 つまり、税理士法人が倒産した場合には、社員税理士が持分の額に関わらず個人財産も投げうって法人の負債を弁済しなければいけない可能性があるということです。この無限責任を負うという点で、税理士法人は株式会社と大きく違います。株式会社で株主が負うのは有限責任ですから、会社が倒産したとしてもその損失は出資額以下になります。最悪、株券が紙きれになるだけで株主個人の財産は守られます(オーナー社長が借入れに個人保証を付している場合は別ですが)。しかし、税理士法人が倒産すれば社員税理士は全員自己破産に追い込まれる可能性があるわけです。社員税理士が負う責任は極めて重いのです。なお、蛇足ですが会計士の法人組織である監査法人は有限責任にできたりと士業の種類によって法人の規定は異なるのですが、別の話になるのでまたいつか書こうと思います。

 その点では社員税理士は、職員とは一線を画す覚悟を持つ存在と言えます。ただし、多くの税理士法人においては、社員税理士はもっぱら職員のマネジメント業務(及び取引先とのお付き合い)に従事しているので、社員税理士がクライアントの担当者になるケースは殆どないでしょう。大抵は前述したように顧問契約の開始時や重大なトラブルの発生時しか出てこないものです。

 話が少し脱線してしまいましたが、中小事業者のクライアントの税務顧問業務に関わるのは基本的に担当者だけであり、他の人物は上長含めて殆ど出てこないことが重要な点の一つ目です。

「クライアントの立場で考える」担当者の2つの条件

 重要な点の二つ目、「クライアントの立場で考え、行動する」とはどういうことでしょうか。言葉にするのは簡単ですが、その意味は深く、そして変化し続けるものです。ただ明確に言えることとしてはまず「適正なサービスを適正な価格で提供する」ことがあると思います。

1.担当者の能力が低いと、料金が高くなるという矛盾

 奇妙に聞こえるかもしれませんが、税理士業界では「担当者が有能でなければ値段が高くなる」という(経済の法則を無視した)事態が起こりうるのです。

 この事態を理解するにはまず、税理士事務所等の中には、税務顧問を単純な労働集約型のビジネスとして考えているところも少なくないという前提を踏まえる必要があります。つまり、職員が「決められたことをマニュアルに則ってやるだけ」という姿勢で業務に当たることを是とする税理士事務所等が一定数存在するということです。

 彼らが第一に気にするのはクライアントの利益というよりもむしろ「職員の業務工数」です。組織的な税理士事務所等は業務の標準時間単価を定め、クライアントごとに業務とそれに要した時間を管理しています。そしてマネジメント層は、実際の時間単価が標準時間単価を割り込んでいないかを定期的にチェックしています。実際の時間単価が標準を割り込んでいる場合、マネジメント層は担当者に命じて業務を効率化させるか、それが難しければクライアントに対して値上げ交渉を行わせるのです。

 ここで、前述した一つ目のポイント「担当者以外は業務に関わらない」という点を思い出してください。実は、マネジメント層が業務効率化を指示しても、マネジメント層自身はもちろん、担当者の上長もまた業務の中身をよく見ていないことが殆どです。悲しいかな税理士業界には、投げっぱなし、任せっぱなし、「あとはよしなに!」の20世紀パナッシー文化が依然として根強く残っています。したがって上長たちの業務効率化の指示は「とにかく何とか、あーなんだ、クラウド?とか使って効率化しろ!」という感じでしばしば空転し、業務効率改善の成否は担当者自身の知見とスキルに委ねられます

 そこで担当者が有能であれば業務が効率化され価格は据え置き、そうでなければ担当者が音を上げ、値上げ交渉がされることになります。担当者の能力によって値段が変わる、しかも有能であれば高くなるのではなく、有能でなければ高くなるというのは変な話ですが、この業界ではよくある話です(そしてこのような税理士事務所等の内部事情による値上げ交渉は、クライアントが税理士変更を検討する理由のよくあるうちのひとつです)。

 もちろん、クライアントが新しい事業を始めたり、事業規模が急拡大したりした場合は、税理士事務所等の業務と責任も当然増えるでしょうから、値上げ交渉はあってしかるべきだと思います。そのような値上げ交渉はクライアント側も納得するところでしょう。しかし、クライアント側の状況はあまり変わっていないのに税理士事務所等が値上げ交渉をするのは、担当者や社内体制が変わって従来の時間単価を維持できなくなったという、税理士事務所等の内部事情に起因することが少なくないのが実情です。

 また、税理士事務所等が過去に相場よりも低い単価で顧問を受注したまま、長い間その価格の是正をできていないというケースもあるでしょう。その場合は値上げ交渉にも適正水準の価格にするという妥当な理由があると言えますが、そもそも受注の段階でミスっているのは税理士事務所等の側ですから、その値上げもまた税理士事務所等の事情に起因しています。低単価での受注は自分もクライアントも不幸にする可能性があるので避けるべきであるということです。

 したがって税理士事務所等にとって「クライアントの立場で考え、行動する」こととは第一に、適正単価で業務を提供できるよう常に業務効率を改善し続けることです。これはもちろん、担当者がサービス残業をしろという話ではありません。法令と実務の範囲内であらゆる手段を駆使して、クライアント側にも最小の負担でできることを任せながら、最適な業務方法を作っていくことが求められます。その点では税務顧問とはプロジェクトマネジメントの一種でもあるのですが、残念ながらそのような視点を持つ担当者は一握りです(少なくとも前半に記述したお粗末税理士法人の担当者はまったくもってその器ではありませんでした)。

2.最も重要。経営者と同じ視点を持っているか

 そして第二に、これが最も重要ですが、「経営者と同じ視点で考えられるか」ということです。ほとんどの中小事業者では社長や代表者が事業責任を一身に負っており、経営課題は常に山積みです。税務顧問の担当者にとっては、経営者と同じ目線で、経営課題を優先順位付けして会話ができることが重要な素養となります。これは別に担当者があらゆる経営課題に対して常に的確な回答をしなければならないということではありません。そんなことができたら既に事業は成功していて何の経営課題も存在していないでしょう。

 そうではなく、経営者をリスペクトし、自分が同じ立場だったらどうするか、経緯や背景も踏まえて話をすること、またその話をするために準備をすることです。それはいわばコンサルティングに近い業務であり、いまやコンサルティングは生成AIに取って代わられようとしていますが、「自分が会社に、従業員に、社会に責任を負う立場だったらどう考えるか」を目の前の経営者に伝えられるのは、担当者しかできないことです。その準備のために生成AIを活用するのです。

最後に

 もちろん、初めからそのような仕事を完璧にできる担当者はいないでしょう。しかし、担当者が日々その姿勢を持ち、経営者とのコミュニケーションを繰り返していくことで、確実に地力がついていくことでしょう。すべては担当者のあなた次第です。若い担当者にこそ、この姿勢を持ち続けて育っていってほしいものです。件のお粗末税理士法人を退職した彼がどこへ行くのか知りませんが、まだまだ若い担当者ではあったので、いつの日か姿勢を改めて、立派に成長してほしいものです。というキレイな締めで本稿の筆を置きます。拙文をお読みいただき、誠にありがとうございました。


いいなと思ったら応援しよう!