記2|私がすいちゃんに親近感を持った理由
前回までのあらすじ
ガンダムシリーズの新作『ジークアクス』にのめり込み、耳から離れなくなったエンディング曲。それを歌っていたVTuber・星街すいせいを検索し始めた瞬間、私はVTuberという沼の入口に立ったのでした。
この人のこと、もっと知りたい
YouTubeで最初に見たのはジークアクスのエンディングテーマのMVでした。そして他にはどんな歌を歌っているのか、他のMVも一通り視聴し、その映像と歌声に一度は満足しかけたのですが……YouTubeのおすすめ欄に、「星街すいせいがガンダムを語っている」という切り抜き動画を見つけ、思わずクリックしてしまいました。
もしもこの動画を開かなければ、私は沼の入口で引き返していたかもしれません。しかし、この一本の動画が“歌い手”を超えた星街すいせいの姿を見せてくれたのです(動画は記事の最後で紹介しています)。
「ジークアクスを見はじめている」
「これは初代ガンダムのIFストーリーらしい」
「先に初代ガンダムを観ておいた方が、もっと楽しめるはず」
彼女はジークアクスを観るにあたり、初代ガンダム全43話のTVシリーズを履修しはじめていました。
これは確かに理に適った判断で、私も誰かにジークアクスを勧めるなら「まず初代ガンダムを観た方がいいよ」と言いたくなるでしょう。しかし初代ガンダムのTVシリーズは1話25分、全43話──社会人ならこれを視聴する重さが骨身にしみて分かると思います。
ジークアクスを楽しむためにそこまで向き合う彼女の真摯さに、「これまで歌声しか知らなかったこの人のことを、あらためて知りたい」という気持ちがいつの間にか自然と湧き上がっていました。
遠かった存在から、ガンダム仲間へ
さらに興味深かったのは、彼女の初代ガンダムという作品の理解度の高さです。登場人物たちはなぜ戦っているのかという疑問を持ち、オープニングのナレーションでも納得がいかず、検索して調べながら観進めて「正義と悪」ではなく「異なる信念と信念の衝突」であることに気づく。
若者がこんなことを自発的に言ってきたら、ガンダム好きおじさんはもう大喜びじゃないですか。君ぃなかなかわかっとるなと。
そして作品が戦争を語る解像度の高さに「日本の戦後を感じた」とまで言う。劇中の「男なんだからしっかりしなさい」という昭和的な価値観には違和感を抱いたことも口にする。
こういう話が出てくるにつれ、おじさんの心もどんどんくすぐられていきます。ガンダムを通じてではありますが、私は徐々に彼女に共感を抱き始めていました。
一方で、シャアという彼女の推しキャラについて語る場面では「かっこいい」「当時も絶対人気だったはず」と素直に舞い上がっている姿も。先ほどの分析口調とは対照的に、推しには甘くなる。そのギャップがまた人間味を感じることにつながり、見ている私の表情も自然にゆるんでいきました。
気づけば自分の中で、彼女は「星街すいせい」という遠い存在ではなく、作品を一緒に楽しんでくれる「すいちゃん」に変わっていました。心理学でいう“類似性の法則”──共通点があると親近感が増す、似ている部分を見つけると好感を抱きやすい──を、ガンダムを通じてまさに実感していたのです。
YouTubeで最初に「星街すいせい」と検索した時を思い返すと、その時からは比べ物にならないくらい高まった親近感。もちろん彼女の人となりや魅力を全て理解したわけではないのですが、それでも彼女との距離感はいい意味で大きく変わっていました。
動画のコメント欄を覗くと、「すいちゃんがこんなにガンダムを語ってくれて嬉しい」という声があふれていました。ああ、自分だけじゃないんだ。同じように感じた人がたくさんいる。その事実に背中を押され、私は次の動画へと手を伸ばさずにはいられませんでした。
次回、他の動画も見進めていく中で、私は他のVTuberの存在や、その先に広がる世界を垣間見ることになります。一方で、待てよ、このままこんなおじさんがこの沼に足を踏み入れていいのか、という戸惑いも覚えるのです。
本文内で触れた動画はこちら:
この連載について
本連載「飛びこめ!VTuber沼」については、下記で簡単に紹介しています。
